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にじさんじのソロ曲をできるだけ聴いてきた 詩子お姉さんの魔曲から戌亥とこさんの想ひ唄まで


はじめに ファンへの「手紙」としてのソロ曲


テニスの王子様やセーラームーンには、どんなに出番が少なめのキャラクターに対しても、キャラクターソングが作られている。

一方で、にじさんじのソロ曲を聴いていた時に感じたのは、それらがアニメキャラのキャラクターソングであるより、その時期にライバー本人が言いたいことを封じ込めた手紙の意味合いが強い事である。作詞がご本人ならもちろんだが、作詞がプロの方であっても、おそらくはライバー側の言いたいことを汲み取ってもらっている印象がある。なんというか、少し前のフォークソングがきちんとした音源化されているような不思議な感じがする。

そこで本稿では、にじさんじで現時点で発表されているソロ楽曲にフォーカスを当てて、聞いた感想を書いてみる。対象となる楽曲は、緑仙や月ノ美兎さん、葛葉さんや叶くんのようにアルバムが発表されて「いない」Vtuberのソロ曲,かつSpotifyなどで配信されている曲に限定する。にじさんじ非公式wikiを参考にざっくり探したため、取りこぼしはあると思われるがお許し願いたい。

今や時代の潮流へと飲み込まれていったVtuberたち。その中でライバーたちは、ファンにどんなメッセージを送っているのだろうか?ちょっとだけのぞいてみよう。

2022年10月より、にじさんじではソロシングルプロジェクト「FOCUS ON」が始動する。現時点では本間ひまわりさん、レオス・ヴィンセントさん、アクシア・クローネさん、勇気ちひろさんの四人のシングル発表が予告済。


える MESMERIZER

作曲/ハヤシユタカ(KLab Sound Team)
作詞/える (お手伝い:樋口楓)

2020年両国国技館ライブにて初披露された曲。タイトルの「MESMERIZER」は「催眠術師」という意味になる。強いベースの音に導かれて、面白いのは、1番はサナギのままでもいいと自分で言い始めていること、しかし2番のラップの部分からは徐々にまさに羽の生えた妖精や蝶のように飛び立つ決意をしているように聞こえること、そして「誰もが」羽ばたけるという発見と共に、僕たちも歌詞で彼女が進む道に引っ張りこんでいるように聞こえることである。この曲が催眠術である所以だろう。


鈴鹿詩子 Will you marry me?

作詞/作曲/動画/歌 : 鈴鹿詩子
作曲協力/編曲/MIX : 井上道也(いちから株式会社)

後に周防パトラRemixも発表された詩子お姉さんの1曲目。タイトルから結婚するお相手の話をしているのかと思われる。しかし歌詞をよく見て見ると、この曲の歌詞の相手が最初にくれたコメントの話が書かれている。ということは、この曲で詩子お姉さんと結ばれる「君」はYouTubeで出会った人の可能性が高いと感じさせる歌詞になっている。

特定の一人のひとに当てられた曲と思いきや、ファンの人に「もしかして私のこと・・・?」と思わせる小悪魔な工夫が歌詞に仕込まれている。

Thank U, Babys

作詞/作曲/歌:鈴鹿詩子
作曲協力/編曲:enilele
Mix:syun 

詩子お姉さんの2曲目。1曲目とうってかわってファンの人に向けた曲がテーマになっている。しかし、この曲も、普段の詩子お姉さんがいかにBLと恐ろしいネット博識に通じているかを知っていると、表情の変わる魔曲である。「いろんな君に惑わされる」と歌う詩子お姉さんは、うたっこたち(Babys)を惑わし続ける。

U・S

作詞:鈴鹿詩子 佐々木喫茶
作曲&編曲&MIX:佐々木喫茶

詩子お姉さんの3曲目。タイトルは鈴鹿詩子の頭文字からとられている。通称『4分でわかる鈴鹿詩子』。

1曲目、2曲目が少し婉曲的な表現が多かったところに、超ドストレートな曲が飛んできた。詩子お姉さんがどういう人かをこの曲で理解ったなら、直接放送を見に行って、その言葉の暴風雨に触れて見て欲しい。

また、1,2,3曲目のPVで着目点は衣装である。先日も完全オタク用衣装+配信部屋が追加されたように、通常配信用衣装の時点で、詩子お姉さんの衣装の数はにじさんじライバーの中でも群を抜いている。男装、アイドル衣装、夏服、ウェディングドレスまで、ご本人やイラストレーターの方がこだわった細部まで見届けて欲しい。

バンド・レコライドのリーダーの佐々木喫茶氏は、アイドルソングの名手として、戦慄かなの、femme fatale「だいしきゅーだいしゅき」、ピンキーポップヘップバーン「インキャ in da house」などを提供。             かわいらしいシンセサウンドに注目。



伏見ガク ハイスターター

歌:伏見ガク
作曲:ehara(@ehara_siroame13) 
作詞:ehara

伏見ガク3Dお披露目で公開された楽曲。この曲を作られたeharaさんは『モーニングアクター』『peaceful』とずっと伏見ガクくんの活動を曲に落とし込んできた方。

伏見ガクくんの放送の一番コアになっている部分は、活動初期から続けている「おはガク!」。毎朝、おにぎり、ウインナー、野菜、デザートを必ず決めておき、それを視聴者の人と一緒に食べる。時々剣持が乱入してきたり、企画事パクってきたりしているが、毎日コツコツ放送している。ガッくんのサムネを見ると、おいしそうに作ったものを食べる様子がいっぱい出てくる。

この時、『ハイスターター』のタイトルは、挨拶(Hi!)で始めようという意味になるのがお分かりいただけるだろう。だからガッくんだけじゃなく「We(僕たち)」がハイスターターなのである。

この曲はガッくんとファンたちが進む毎日を静かに照らし続けるだろう。

eharaさんは伏見ガクくんにさらに2曲、叶くん、おはやまさん、樋口楓さんにも曲を提供されている。最新曲に剣持刀也・夕陽リリ・伏見ガクイメージ曲『トライアングルプリズム』がある。それぞれのライバーを思わせる歌詞が光る。



本間ひまわり Sun! Sun! Sunflower

Song / 本間ひまわり
あいのて/ 月ノ美兎様 えにからマネージャー ヒゲドライバー様
Music & Lylics / ヒゲドライバー様 

月ノ美兎委員長と本間ひまわりさんの二人がソニー・ミュージックレーベルズと共同で行っているプロジェクト、「しのごの」の一環として発表された楽曲。楽し気なAメロ部分、ピアノが入ってきて流れるようなBメロ部分、「ぐるぐるぐるぐる回る」という言葉と共に、縦ノリになるサビの部分それぞれでリズムの刻み方の変化が楽しい一曲。

特徴的なあいのてが多用されている曲であり、楽曲を作られている人や委員長、マネージャーさんが一体になって楽しく作ったんじゃないかと想起される。

ヒゲドライバー氏は、BEMANI「打打打打打打打打打打」や、アニメ機巧少女は傷つかないED曲「回れ!雪月花」など、中毒性の高い電波曲の作者として有名。


社築  BlackFlagBreaker!!

Music&Lyrics sasakure.UK
Mix Yu Aoki (B-PILOT)

プロセカ、beatmaniaでプロゲーマー並みの腕前と指さばきを見せる男・社築が、ほかならぬ音ゲーの曲を多く作ってきたボカロP・sasakure.UKさんに授けられた一曲。

ブラック企業と理不尽をぶち壊すヒーローKizuku Yashiroの戦い(プログラミング)を後押しするような理知的でキレのあるチューンとなっている。歌詞を見た時に、アルファベット・漢字・ひらがなが意味を逸脱仕掛けるレベルでぐちゃぐちゃに(でも音のレベルだと気持ちよく)配置されている。

同曲は、SEGAの音ゲーム「チュウニズム」に収録されるにあたって、Sasakure.UKさんとの実機プレイの様子が二回にわたって特集されている。(『社築×sasakure.UK セガに行ってBlackFlagBreaker!!遊んできたぞー‼【CHUNITHM収録記念】Part1』)

sasakure ukさんは2000年台から活躍するボカロP。「トンデモワンダーズ」「*ハロー、プラネット。」「ぼくらの16bit戦争」など、チップチューンを基調にした楽曲で有名。


鈴木勝  並行宇宙の君へ

Music & Arrangement:会田敏樹
Lyrics:RUCCA & 鈴木勝

Darkness Eaterこと鈴木勝くんが、盟友に宛ててメッセージを送った一曲。

勝くんは2018年~2019年にかけて「劇場型配信」と題しておなえどし組(卯月コウ、出雲霞)や黛灰(2434system)の物語を紡ぐ。その物語は登場人物が増えていくごとに複雑さを増し、それぞれの人が多くの人格をつなぎ、暗躍する研究の中でライバー達がどのように立ち振る舞うか、ファンをも巻き込んで増殖する謎を発生させた。

時は過ぎ、物語の登場人物たちの一人は、脚本家として物語を閉じることを選び、そして一人は戻るべき灰の中へ戻っていく。

わたしは、黛くんの物語りについては若干の知見があるものの、出雲さんの物語りの全容までは追えている自信がない。大事なのは、二人ともアーカイブのほとんどが残り、その物語の中身を知ることができることだ。

鈴木勝くんの「平行宇宙の君へ」は、盟友たちに宛てられた曲であることは、歌詞に込められた言葉遊びからは間違いない。しかし、この曲の離れている君の中に、ガラスの外側へ歩いて行った人たちもいることは、これから勝くんの物語りの先を見る人の道しるべになるだろう。

彼ら彼女らがいたガラスの劇場から、鈴木勝は今も言葉を紡ぎ続ける。


会田敏樹氏は、ジャンルを超えたギター奏者であり、BEGINの比嘉栄昇氏により製作された一五一会という楽器を演奏するマルチプレイヤー。

町田ちま 6月のプレリュード

◇作曲・編曲:岩見直明 様                                                                              ◇歌詞:和田アヤナ 様

小さなひな鳥、黒い足跡、夢追う僕と、知り合いのライバー達を思わせる歌詞が、雨上がりの空に浮かんでいくような一曲。この曲が発表されたのは2021年の7月であり、6月にこの歌が収録された可能性も感じる。先日、この曲をリードトラックとした3Dライブ「Prelude」も開催された。町田さんがいつもちょけまくるので忘れがちだが、そのどこまでも突き抜けるような高音が活かされた名曲。

岩見直明氏は、元カプコンのゲームミュージック作家であり、町田ちまさんを有名にしたUru『フリージア』の作曲家。最初は作曲家ぴろぱるさんのネタで歌い始めたフリージアが、ここまでたどり着く。

竜胆尊 常夜奇譚

▼ 作詞作曲 / TOKOTOKO(西沢さんP)
▼ 太鼓 / 樋口 幸佑                                ▼ 混 / 友達募集P

実は数千年生きている鬼である竜胆尊さまが、自らの生まれを歌った一曲。生まれた時にツノのなかった鬼の子は、自らの生まれた意味を探して彷徨う様子が、3拍子のロックチューンにのって描かれている。最後の歌詞で花が咲くのがあくまでも夜中なのは、尊様の配信するタイミングが夜だからだろうか。


代表曲に「夜もすがら君想ふ」「君色に染まる」があるボカロP。明るい曲調のロックチューンを得意とする。


戌亥とこ Engaged Stories

作詞:山本恭平(Arte Refact)
作編曲:山本恭平(Arte Refact)

Engagedは、この曲の文脈だと「約束された」になるだろうか。戌亥さんの正統派アイドルソングである。作詞作曲は、あんさんぶるスターズの曲も多く手掛けているArte Refactの皆様。

この曲は戌亥さんの誕生日を記念した曲であり、さらに「ストーリーズ」という言葉や、「連れていく」「ハーモニー」というフレーズからは、いつも天然系に見える彼女が、ファンと共に進む決意表明をした曲のように聞こえる。まっすぐな一曲。


初恋

作詞・作曲:山本 恭平(Arte Refact)
MIX:菊池司(Arte Refact)
プロデュース:桑原 聖(Arte Refact)

戌亥とこさんの「初恋」は島崎藤村の処女作である、詩集「若菜集」に収録された詩を元に作られている。この詩は優雅な七五調・文語体で書かれており、後に日本のロマン主義(感受性や主観を大事にする主義)・自然主義の代表的作家となっていく島崎藤村の言葉への才知が澄み渡る一作になっている。

長野県のころも観光局では、地元をPRするため、従来より温泉擬人化プロジェクト「泉国大舞」など、サブカルチャーを積極的に取り入れようという活動を行っていた。そこで白羽の矢が立ったのが、戌亥さんだった。

やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実みに
人こひ初めしはじめなり                               島崎藤村「初恋」

作詞・作曲の山本さんはなるべく元の詩の言葉を尊重しながら、信州の街の深みがかかっていく「紅葉」の景色と、初めての恋をした相手の白い肌、薄紅色の唇、花櫛、そして一番力強い色であろう林檎と、秋の土と果物の匂いが混じった光景を、広がりのあるバラードに仕立て上げた。

元々の詩やこもろの、奥ゆかしい古い街並みを見ているとふと思う。                    戌亥さんが選ばれたのは単純に人気だっただけではない。その喫茶店で働くための和風メイド服姿が、どことなく寂しげな秋の夕暮れに似合っており、何より島崎藤村の詩に描かれた初恋のその人に重なったのかもしれない、と。

Arte Refactは主に東方アレンジで活躍していたメンバーが中心となった音楽グループ。数多くのアニメソング、アイドル楽曲の制作を請け負っている。



地獄屋八丁荒らし

作詞・作曲/majiko                         ミックス/大和
     
そして、その「喫茶店で働くケルベロス」としての彼女を描いたのが「地獄屋八丁荒らし」である。この曲はえげつない難易度だったらしく、緑仙が歌いにくさにチョイ切れしていたらしい。八丁荒らしは、寄席をその人がやると、周りの八丁の寄席が不入りになってしまうほど人気のある人のことを言う。

『寄席』という言葉にあるように、この曲には「いらっしゃい」や「さあさあ」「お待ちになってよ」など、聞き手に声をかけるような言葉が多く、その言葉がジャズコード・テンションコード満載のおしゃれ進行に載せて文字通り『調子よく』進んでいく。この曲のケルベロスさんは、曲の前半ではお金がないから暮らしていけないと若干ヤケクソ気味に話している様子なのだが、実は曲が進めば進むほど、いつの間にか戌亥の世界に引き込まれている(これは曲を僕たちが聞いている以上事実だ)ことになる。そして、現世への愚痴のような、諧謔のような言葉を聴いているうちに、リスナーのみんなは「店じまい」されてしまうのである。まさに沼だ。

曲自体がまるごと、戌亥さんの、アドリブでどこかに連れていかれてしまう、ふわふわの雑談のメタファーになっている不思議な名曲。

majikoは、2010年にニコニコ動画より活動を開始した歌い手、シンガーソングライター。代表曲に「ひび割れた世界」、カンザキイオリとの共作「エミリーと15の約束」がある。


リゼ・ヘルエスタ  ハッピーエンドをはじめから

vocal:リゼ・ヘルエスタ @Lize_Helesta
music & words:TOKOTOKO(西沢さんP) @NishizawasanP
mix & mastering:友達募集P @tomobop

ハッピーエンドなのに「はじめから」とはどういうことだろう。この曲の中には、リゼさんと関わりのあるライバーたち――月ノ美兎委員長、アンジュさん(ラフメイカーが解釈別れるところ)、戌亥とこさんを思わせるフレーズが潜んでいる。どちらかというと行動をするのが臆病な皇女が、さんばかの三人や美兎さんに連れられていく様子が描かれている。

ゲームの中ではいつも主人公、なのは実はにじさんじでもトップの数ゲームをやりこんでいる皇女らしい言葉である。すると、ハッピーエンドを主人公として始める、スタートボタンを押した自分自身を励ます、そんな曲なのかもしれない。

雪城眞尋  STAND BY ME

Vocal:雪城眞尋
Music&Lyrics&MIX:キツネDJ

DJ系の曲らしい、「イェイ!」や「へい!」の合いの手がどんどん入っていくカワイイEDMの一曲。クラブでかけられても盛り上がる一曲だろう。PVも、雪城さんの特徴的な色である蛍光色の黄色とハワイっぽい水色に彩られている。

彼女が歌ってきた曲を確認してくると、fripsideのような全力で前を進むテクノソングが多く感じる。そのまっすぐ進む推進力が雪城さんの魅力なのだろう。

キツネDJは、2018年活動開始のバーチャルユーチューバー。1st single "i,mpossible"は80万再生を記録し、iTunesダンスチャート1位を奪取したことがある。

Locus

▶作詞:雪城眞尋+daiki(YAB Studio)
▶作曲:daiki(YAB Studio)
▶mix:YAB(YAB Studio)

雪城さんの1曲目。シングルのジャケットにも描かれている青いバラは、自分の夢を叶えるという決意を表している。先ほど明るい曲が多いと書いた一方で、雪城さんの物語は暗い所が描かれるところも多い。

特に今年に入ってからは、もう一つの人格の出現、Twitterでの不思議な動きなど、彼女が彼女になる前の起源を問うような動きが多く見られている。彼女の最初の曲「LOTUS」は、果たして彼女がVとして歩んで行く中での決意表明として、この後の物語を導いてくれるだろうか。今この曲を聴いて、彼女がうまくいくことを願った。

合同会社YAB EntertainMentは、にじさんじを始め多くのVtuber系音源/映像制作を請け負っていたYAB Studioが音楽家・坂本マニ真二郎氏と作った会社。


(そのに につづく)




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