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樋口楓『i^x=K』を聴いてきた!! ーー等身大の自分をアイするために


キミは樋口楓を知っているか。


・樋口楓は、にじさんじの第一期生ライバーであり、JK組のひとり。

・樋口楓は、吹奏楽部出身である。

・樋口楓は熱烈な広島カープファンで、野球放送でカープの話が出ると、途端に早口になり、自分が大好きな、リードオフマンの西川龍馬選手のことを語り倒す。自分の推しにデッドボールを当てようものなら八つ裂きの刑に(以下略)

・樋口楓はプーさんと友達である。

・樋口楓はヤン…

・樋…


と並べてみた。

noteを書いたことがある人なら分かんじゃないかなと思うことが一つある。 推しの特徴を羅列しても、何故かその人らしさ?というものは、文章に落とし込めない。これは多分、推しがいる人たちみんなの永遠の悩みである。

たとえば、上のぱっと思いついた文章だけを見て見ると、大阪の屋台とかで釘バット持って不良の先輩たちをシバキ倒していそうである…。

(いや、意外とイメージ通りだな…?)

でもあきらかに、特に4年近く樋口さんを追っている方なら分かるように、一人の人が持っている側面はそんな単調ではないだろう。JK組のとき、一期生といるとき、ゲームをゆったり配信しているとき・・・



今回のアルバム『i^x=K』は、そんな等身大の樋口楓とは何かをもう一度問い直して、自分で自分自身を問い直したアルバムのように感じた。これまでの樋口さんの楽曲はメジャー第1作ということもあり、これまで追ってきたファンの人たちに自分の進む道の覚悟を示すような、かなり「攻め」の姿勢の目だった曲が多かった。特に『Baddest』はアニメソングだったこともあり、逆境に立ち向かう人の気持ちが強く描かれている。

しかし、アルバム『i^x=K』はアルバムのアートワークがすでにライブのアートワークではなく、通常衣装が選ばれている。ひとりの人間としての自分をアルバムの写真とした先に、どのような景色が映し出されるだろうか。わたしなりに聞いていて感じたことを、言葉にしてみた。

メジャー3rdシングル『ビューティMYジンセイ!』が各種サブスクリスションサイトで配信中。アルバム『i^x=K』に続けて聞くと、樋口さんが新しい境地を開いている様子が分かると思うので是非聞かれて欲しい。

Track1 あああああ

 作詞:樋口楓
 作曲・編曲:光増ハジメ

1st Single『MARBLE』の時から、作曲を担当している光増ハジメさんはラブライブのAqoursの1st Single『君のこころは輝いているかい?』や水樹奈々『Angel Blossom』、水瀬いのり『Catch the Rainbow!』あんさんぶるスターズ!のKnights『Knights the Phantom Thief』など、声優やアイドルの曲を提供されている。

その光増さんのお仕事の中でも、樋口さんに提供した曲は例えば「アンサーソング」のPVを見ると分かるように、4-5人組のバンドサウンドを軸に作られている。特に間奏やイントロ部分にも、シンセで力強く聞き手に曲のことを印象付けるフレーズを繰り返すのが特徴のひとつだ。

Track1「あああああ」では、重厚なギターと繰り返されるピアノのフレーズの上に、樋口楓さんの歌詞が乗っかっている。しかし、この歌詞が結構普段の樋口さんのイメージと真逆を行っている。

曲自体が、かなりアップテンポでぱっと聞きでは気づきにくいが、この歌詞にはこれまで樋口さんの曲になかったくらいの「つらい」「つまらない」「嫌」「無」の言葉が詰め込まれている。しかも、特に1番2番のBメロ、Cメロの曲が一瞬スローダウンする部分では、他の人に対して言われる言葉に落ち込む様子すら見える。個人的には、こんなイメージの樋口さんは頭になかった。

この曲は、ゴールも達成して、満足のはずなのにまた、目指す場所を見失った自分自身や他者の声に、七転八倒する様子をタイトルごと表現している。(たぶん、「あああああ」は、そういうやるせない気持ち諸々がにじみでた心の叫びである)。

そしてそんな自分にたいして曲の最後では、そんな不安定な自分自身を、「嫌じゃなくて」だと、言って部屋の鍵を開けて出ていける状態になる。

この曲がアルバムの一曲目に選ばれたのは、等身大の自分を「i(愛)」するためだったのだろう。




Track2 ジブンなジブン

 作詞・作曲・編曲:佐伯youthk

佐伯youthkさんは、SixTONESや柿原徹也さんに楽曲を提供しながら、ご自身も弱虫ペダルや遊戯王のOPEDを担当されているシンガーソングライターである。

1曲目で『不安定なジブンを愛する』ことを決めた樋口さんの歌詞からバトンを受け取ったような歌詞で、連続で聴いていてびっくりした。1曲目ではまだ不安定さを引きずるような部分が多くなっていったが、2曲目では反転攻勢。カテゴライズとか定義をすらも不要とする、力強いロックチューンになっている。




Track3  怠ッセイ!怠ッセイ!


YASUHIRO(康寛)さんは、IAの楽曲『踊れオーケストラ』をはじめ、そらるさんとのコラボでも有名なボカロPさんである。特に楽曲中に転調・転拍子を決めるセンスはピカイチである。この曲では、特に2:10頃の音の詰め込み方具合と、そこから自然にCメロに移行するアイデアがめちゃくちゃかっこよかった。

3曲目まで行くと、自己勝手さはさらに度を増し、いよいよ逆切れプッツンモードに入ってくる。他の人の意見も軽やかに蹴り飛ばしていく爽快なリリック。

本家PVのラスサビ部分で樋口さんが自分の制服のマネキン(?)らしきキャラをも吹き飛ばしている。



Track4 GODDESS

 作詞:ジョー・力一
 作曲・編曲:森本 練/芳賀政哉

にじさんじのジョー・力一師匠が、布施明・大槻ケンヂ・平沢進・SOUL'd OUTや歌謡曲を次々と配信で歌っていたのを覚えている。果てにはハカとかケチャとかまで極める怪しいピエロさんであるが、この曲の歌詞の仕掛けの多さには凄みを感じた。

「GODDESS」と「ゴッです」、「メンチ切る」と「ブレず生きる」、「世間体」と「制限」、「越権」と「低減」と「ゼッケン」と「レッテル」、「時期尚早」と「力量」と「魑魅魍魎」・・・この曲自体はHIP HOPというよりもバンドのサウンドで作られているにもかかわらず、とんでもない数の頭韻が踏まれている。多分、よくYouTubeでみる韻の部分を色塗りで解説する動画にものせれるレベルだろう。

しかし一方で、歌詞がきちんと樋口さんの意図とか意志を邪魔していない。「知るか!」とか「拾い集めとくわ」という台詞調になる所は韻よりも意味を重視している。ここまで歌い手のことを考えて歌詞を書けるのは、本人が歌が好きだからに他ならない。


ところで、アルバムの一曲として考えるとこの曲には違う色彩が加わる。

この曲では「あたしが」決めたと言い切る場面が何度もやってくる。ドスの効いた声がヤバすぎて、私も若干ビビりちらした。                   しかし一方で、自分が決めたと言い切ることができるのは、一度自分がどうありたいかを迷い切った人だけである。一度「ドアを閉じた」人だからこそ「ドアを閉じるな」という言葉が強く響く。

特にTrack1の「あああああ」を聴いた僕たちには、「GODDESS」のもがくお前が、樋口さんの目線からすれば誰と重なっているのか――それはおのずと感じ取れることだろう。




Track5 イロドレ・ファッショニスタ!

 作詞:安藤紗々
 作曲:永塚健登
 編曲:PandaBoY

ここから、アルバムの音調は一気に変わっておしゃれになっていく。再生した瞬間に、気持ちのよいサックスが耳を包み込んでいく。

ファッショニスタ(fashionista)とは、ファッションについて本気でこだわり抜く女性であり、ファッションショーでモデルさんが歩く場所のことをランウェイ(あるいはキャットウォーク)と呼び、ワードロープとは衣服専用の収納のことである。

この曲のPVには、Vtuberにならなかった世界線の樋口さんのようなこれまでの衣装だけでなく、ハワイ、たこ焼きや好きな物が詰め込まれ、ガンガン自分の好きなものに突き進んでいく。サスティナブルが突然「輪廻(仏教用語)(迫真)」扱いできることに気づいちゃったりする。

最初からアルバムを聴いていた人だと気づくが、本質的にはTrack1から5まで、樋口さんが悩んでいることは変わっていない。変わっていないが、その悩み方が、曲が進むにつれて明るくなっていくのがわかるだろうか。

うじうじ悩むことを辞めて、自分の好きな物へ突き進んで変わっていく樋口さんの様子に、私達は(楽しく)幻惑されっぱなしである。



ちなみに、FANTASIAの時は、ファンの方のコーデを見に行ってたりする

Track6 恋すな

 作詞:浜野謙太
 作曲:浜野謙太、橋本剛秀
 編曲:在日ファンク

一行目がオタクくんへのクリティカルパンチである。

この曲は、――浜野さんがもしや樋口さんの活動を見られたのかもしれないが――特にいつも配信を見てくれているみんなへのメッセージを感じる。ずばり、ガチ恋のことである(樋口さん本人が話してたこともある)。

実際、たまにVtuberのファンの方と話すと、推しの「壁」になりたいと言っているが、結構気持ち側が強すぎて無理をしている人はいたりする。そういう人にとって、「もっと息を吸って」と言ってくれるライバーはありがたいものだろう。

と、無理やり理屈つけてみても、実はこの曲の60%くらいの成分は、いい意味でノリで作られている(歌詞の意味もわからへんし)。解釈をしようとした私のような人間も、ただただカッコいいギターのカッティングとトランペットの音にノルしかない。

こうして、恋することを禁じられた僕らはそれでも懲りずに、今日も樋口さんの配信を、じっと、画面越しに見つめるのである。


在日ファンクは、インストバンドSAKEROCKのメンバーの浜野謙太さんらのバンド。『恋すな』の歌詞に突然出てくる「爆弾こわい」は同バンドの代表曲である。3rdアルバムの名前が『笑うな』だったり、ツンデレ炸裂させっぱなしである。

イラストレーターのいちまるさんは、YouTubeでまるっこいキャラクターを描かれている。この子の名前はいちかちゃん。


おまけ・樋口楓ざっくりディスコグラフィー

※樋口さんの活動全体を知るためには、非公式wiki四周年記念ファンサイトを参照されたい。ここでは、樋口楓さんの活動を考える上で大事そうなポイントをざっくり紹介する。  

まず、何より楓さんの音楽歴に欠かせないのはファンメイドのオリジナル曲が数多く存在することである。『MapleDancer』『焼森のファンファーレ』『奏でろ音楽!!!full ver.【樋口楓オリジナル曲】』など、特に初期のエピソードを知っている人はニヤニヤしてしまう名曲がいっぱいある。これらの曲は今も新しいPVが出る、ライブでも歌うなど大事にされている。

樋口楓さんの衣装の一つ、ランティス衣装は亡くなったイラストレーターの焦茶さんがデザインされたもの。樋口さんのキービジュアルには、それまでのファンメイドの曲の要素を全て取り入れていた

1st single『MARBLE』と1st Album『AIM』

2019年12月にランティスからデビューすることを発表された樋口さんは、そのまま2020年3月に1stシングル『MARBLE』と1st アルバム『AIM』を発表した。

2nd Single『Baddest』~初のアニソン主題歌

2021年8月発売の2枚目のシングル『Baddest』はアニメ『100万の命の上に俺は立っている』第2シーズンのOPになった。

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