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冷やし中華の煩悩

夏の風物詩「冷やし中華」
僕は冷やし中華が大好きです。

しかし、ぶっちゃけ冷やし中華を心から美味しいと思ったはありません。

味付けが醤油ダレだろうと、胡麻ダレであろうと・・・
具材にチャーシューがあろうと、海鮮類があろうと・・・
どこの店に食べにいっても、最終的な印象はどれも同じ印象...

一方で同じ夏の風物詩「ソーメン」はというと心から美味しいと感じます。

カツオの風味が効いた麺つゆに大葉や茗荷など爽やかな薬味をたくさん乗せて食べる・・・何度も食べたくなります。

この違いはなんなのでしょうか?

僕の結論は夏に冷やし中華を食べたという「体験」が一番重要になっていると思います。

夏気分を上げていく為に、一度は食べておきたい!
味は別にそこそこでいい!

その事が悪いとは思っていません。
「体験」が売りになっているもので最高なものがお祭り屋台で売っている焼きそばです。

味付けはソースのみ、キャベツはベチャベチャになっていて、簡易的なフードパックに入っているし、温度もぬるい。

ですがそこにこそ魅力があります。
夏の夜、ピーヒャラピーヒャラやっている中、浴衣を着て簡易的なフードパック焼きそばを食べることは「最高の夏体験」です。

「冷やし中華はじめました」は洗脳だ!

ここで冷やし中華の歴史を簡単に振り返ってみます。
まず冷やし中華は1937年ごろ日本で生まれた料理です。
冷房設備などない時代、売上が激減する中華料理店が考案したのがきっかけとされています。

中国人はそもそも冷たいものを嫌います。それに具材を富士山のように見立てたこのフォルムは、まさに日本的だと思いますね。

仙台発祥という説と東京発祥という説があるようですね。(この辺りは今回はどっちでも良い。)

つまり、冷やし中華は「商業的な料理」ということです。

バレンタインデーと同じですね。
2月14日に大切な人に贈り物をするという海外の文化を、当時の百貨店やお菓子メーカーが一丸となって、「バレンタインにはチョコレートを送ろう!」という日本独自の文化を作り上げました。

これは企業の洗脳です。(よく言えば企業努力)

そして「冷やし中華はじめました」というのぼりを見ると、
「ああ夏が来た!食べたい!」
と思うのは当時経営に苦しむ中華料理店が一丸となって、日本人に刷り込むことに成功した洗脳なのです。

失われた冷やし中華の成長

その証拠に中華料理店はゴールデンウィーク辺りから冷やし中華をスタートさせる事が多いですね。まだそこまで暑くもないのに・・・

何故でしょうか?

それはその年一番に最初に食べた「体験」が最も価値があるからです。
2度目だと価値は下がり、選んでもらえる可能性も極端に下がってしまいます。

夏の風物詩としての「体験」にこそ価値があり、味そのものを求めている人は少ない・・・

だからこそ多くの中華料理店はその商業的価値に依存し、味をブラッシュアップする怠ってしまった。

そして冷やし中華の成長は止まってしまったのです。

局地的に成長した冷やし中華もある

「夏の風物詩」に甘んじ、料理としての冷やし中華の成長は止まってしまいました。
しかし一部の個人店では冷やし中華にこだわり成長していました。
それが僕が19年間勤めた高級中華料理店の冷やし中華です。

活車海老や自家製のチャーシュー、タレにも高級ねり胡麻を使い、盛り付ける器は江戸切子やレイノーといった高級品。

最高の冷やし中華に出会い感激しました。

しかし僕の中でよくわからない違和感をずっと感じていたのです。

これは一体なんなのか?
ずっと自分でもわからないまま夏が終わっていく・・・

しかし2023年僕はようやくそれがわかりました。

それはこの冷やし中華も「体験」が一番の価値になっていることです。
「夏になったら一度は食べたい冷やし中華、だったら最高のものを!」

もう一度食べたいか?と言われれば・・・食べたくない・・・。
一度で十分!という設計は変わっていなかったのです。

それが悪いということでは決してありません。
僕が目指したいのは2回目も心から食べたいと思える冷やし中華です。
それって一体なんなのか?
僕にとっての冷やし中華の原点を見つめ直してみることにしました。

冷やし中華に絶対になくてはならないものは?

僕にとって原点の冷やし中華。
幼少期夏の昼間に自宅で食べた冷やし中華です。
スーパーに売っている3玉で100円ちょいでタレがついているアレです。
メーカーにこだわりなんてありませんでした。

具材はきゅうり、ハム、もやし、錦糸卵はめんどくさいからあったりなかったり。
レタスがガサっとのっている時もありました。

醤油味が多かった・・・そして麺の冷やしがちょっと不十分で、冷たいというよりはぬるい。

家族で食べたあの時の感じはぼんやりしていながらも、ハッキリと覚えています。
ちょっとだるい感じ・・・でも食べ出すとやっぱり好きだなと思う感じ・・・。

僕にとって冷やし中華はやっぱり「チープ」であるものなのです。

豪華すぎる勤め先の冷やし中華への違和感の原因です。
ここは自分の中で無視してはいけないポイントだったのです。

そして僕は今の自分が本当に食べたい冷やし中華を作る決意をしました。

そのきっかけを与えた1本の映画

「ノスタルジーは捨てたくない」
これは「シン・仮面ライダー」の記者会見で庵野監督が言っていた言葉です。
仮面ライダーの熱狂的ファンの庵野監督が幼少期に感じた記憶。

当時アナログテレビで電波の受信状態が悪く、ノイズだらけで現代では考えられないほど酷いもののようでした。

「なにをやっているのかわからない・・・でもカッコよかった・・・」

この幼少に感じた感覚を、ジブリのアシスタントやエヴァンゲリオンを手がけた超一流が現代の形として再構築すること。
僕はこの人の稚拙な情熱にニヤニヤが止まりませんでした。

僕は20年料理業界で働いています。決して特別な技術があるわけでもない、平凡な料理人です。しかし過酷な仕事にも耐え、なんとか生き抜いてきたことは事実です。
また仕事以外にも結婚をして2人の子供を育てる父親です。

そんな僕ですが幼少期に食べたチープでちょっとだるいけど、食べたら美味しい!
そしてもう一度食べたいと心から思えるような冷やし中華。
「シン・冷やし中華」を完成させました。


極めて私的な完全オリジナルレシピを次回公開したいと思います。
具材の選び方やタレなどこだわりのポイントも暑苦しく解説していきたいと思っています。

うまく伝えられる自信はありませんが、全力で書いてみたいと思います。

最後まで見ていただいてありがとうございました。

それではまた次回!

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