政府が財源を必要としない理由

1. MMT=国債大量発行政策?

よくある誤解ですが、「MMTは国債を大量発行して財政支出をする政策である」というのは間違いです。MMTは政策の名前ではありません。MMTは貨幣というものの性質について説明する理論です。言い換えると、MMTは「国債を発行しろ」と主張するものではなく、「国債を発行するということはどういうことなのか」を説明するものです。

2. 政府が財源を必要としない理由

MMTの重要な知見として、「通常の国債発行(市中消化)も、国債の日銀直接引き受け(実質的な政府通貨の発行)も、結果的には等価である」ということがあります。これはつまり、政府が自ら通貨を発行する場合と同様に、政府は本質的に財源を必要としない、ということを意味します。ここが恐らく最も理解し難いところであり、またMMTを理解する上での重要なポイントでもあります。

ここでは分かりやすくするために、日銀当座預金のやり取りを現金のやり取りと見なして説明してみます。なお、資産の増加と負債の減少を「+」の記号で、資産の減少と負債の増加を「-」の記号で表します。

A 通常の国債発行のプロセス
①政府が国債を発行し、銀行が国債を購入する

政府 +現金 -国債
銀行 +国債 -現金
②政府が財政支出をする
政府 +財・サービス -現金
企業 +現金 -財・サービス
③企業が銀行に現金を預金する
企業 +預金 -現金
銀行 +現金 -預金
④結果
政府 +財・サービス -国債
銀行 +国債 -預金
企業 +預金 -財・サービス

B 国債の日銀直接引き受けのプロセス
①政府が国債を発行し、日銀が国債を購入する

政府 +現金 -国債
日銀 +国債 -現金
②政府が財政支出をする
政府 +財・サービス -現金
企業 +現金 -財・サービス
③企業が銀行に現金を預金する
企業 +預金 -現金
銀行 +現金 -預金
④結果1
政府 +財・サービス -国債
銀行 +現金 -預金
企業 +預金 -財・サービス
日銀 +国債 -現金
⑤銀行が余った現金を国債で運用する
銀行 +国債 -現金
日銀 +現金 -国債
⑥結果2
政府 +財・サービス -国債
銀行 +国債 -預金
企業 +預金 -財・サービス
日銀 (変化なし)

3. 結論

このように、Aのプロセスの結果とBのプロセスの結果が見事に一致しました。なお、Aのプロセスでも、銀行の現金残高は増減していません。つまり、国債発行の原資が枯渇することはないということです。

結果だけを見ると、政府は国債を発行することで財やサービスを購入したことになります。銀行は国債を受け取った代わりに預金を発行しています。企業は財やサービスを売って預金を手に入れています。こうしてみると、政府が発行する国債も一種のお金であるということが分かります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?