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【Day15】塀の中で暮らすグレーゾーンの障害児たちを知っていますか?

はじめに

現在Webスキルを学ぶためのオンライン講座、SHElikesの中でライティング講座を受けています。今回はその時に課題として提出したものに修正を入れて【Day15:誰かにオススメしたい本・映画・アニメ・ドラマ】として投稿することにしました。

ケーキの切れない非行少年たち1巻 表紙絵


1.読みたくなったきっかけ

アマゾンで書籍を探しているとき「ケーキの切れない非行少年たち」というタイトルが目に留まり頭にハテナが浮かびました。

その表紙には複雑な表情を浮かべ、ナゾの図形が書かれた紙を持った少年が。タイトルの意味と少年の表情の理由がとても気になりました。

電子書籍で試し読みをしたところ、少ないコマ割りとこざっぱりした絵が
読み進めやすかったので、その場で購入しました。

2.著者の紹介

この漫画の原作者である宮口幸治氏は立命館大学の教授で児童精神科医です。困っている子どもたちを教育・医療心理・福祉の観点で支援する「日本COG-TR学会」を主宰し、全国で教員向けに研修を行っています。

漫画は鈴木マサカズ氏が描いています。荒廃した家族を描いたドキュメンタリー作で「子供を殺してください」という親たち」というセンセーショナルな題名の漫画も描いています。

3.本の構成

さまざまな事件で少年院に収監されてきた非行少年たち。彼らを精神科医が診察するところから始まります。

医師による初回面談で何らかの障害の疑いを持った非行少年が、事件に至った背景を、看守や看護師とともに探っていくストーリー。

非行少年の過去や経緯を振り返りながら、入院中の様子と更生への道を描いています。
非行少年のケースごとに一話完結で描かれているので、読みやすい構成です。

4.本の内容

初回面談ではあるテストが行われます。
白い紙に円が書かれた用紙が渡され、その円が3等分になるよう線を入れさせます。

凶悪犯罪を起こした非行少年たちの中には、円を簡単に3等分できない子たちがいます。ホールケーキに見立てた円を指示通りに切れない、これが漫画のタイトルの意味です。

このテスト結果には知能指数が関係しています。
その数値によって、発達障害や自閉スペクトラム症発達性協調運動症などの障害が疑われることがあります。

知的障害を疑う知能指数にはある領域があり、IQ70~84の”境界知能”と呼ばれる範囲を指します。
この境界知能に該当しているのが、漫画の中で取り上げられている非行少年たち。

境界知能の子どもたちは知的障害には該当しないため、いわばグレーゾーン。たとえ知能や発達の遅れがあっても見逃されやすいのです。
そのため、事件を起こす前に障害の診断は受けていません。

障害が疑われる非行少年たちの事件の背景には、多くの場合家庭環境や対人関係に問題を抱えていますが、それとは別に知的障害児特有の特徴も関係しています。

漫画の中で自閉スペクトラム症が疑われた非行少年たちには、以下のようなエピソードがあります。

「幼稚園児の頃、将来の夢を聞かれて「幼稚園の先生になる」と答えた。
それに対して幼稚園の先生が「待ってるね」と言ったことを
本当に待っているととらえ、何でも真に受ける。」

「中学生の時、廊下ですれ違った子が自分を見て笑ったと感じた。
自分をバカにして笑ったと断定し被害妄想を募らせる。他の見方
ができず、感情のコントロールができなくなる。」

「相手が怒っていても笑っていると感じたり、逆に笑っていても
怒っていると感じたりする。自分のことがわからず、相手の表情を
正確に受け取れない。」

これらに対し、周囲との関係をうまく築けずに浮いてしまったり、状況が理解できず適切な対処ができていません。そのため事件につながったという側面があります。

このような特徴は、入院後、事件を起こしたことを理解させること自体が困難になると同時に、通常の更生カリキュラムではうまくいかないことも描かれています。

さらに退院後も、少年院の中ではうまくできたことが、社会ではうまくいかなくなってしまうことがあります。
そうなると自分では対処できずに再度事件を起こし、再入院してくるケースもあります。

非行少年たちはどこにいても、通常の人たちとは異なった困難が待ち受けています。

漫画の中では精神科医と非行少年の実際の会話以外に、精神科医の心の声が吹き出しで描かれており、このつぶやきの内容が大切なポイントです。

そこには非行少年たちの障害を疑う理由が書かれており、障害の知識を深め、非行少年たちを理解するための重要な情報となっています。
表紙絵で複雑な表情を浮かべているのは、非行少年たちの生きづらさを表しているといえるのではないでしょうか。

5.作者の思い

漫画の目的は3つあります。

1.こうした少年たちの存在を知り、犯罪に至った人たちに対して、憎しみ以外の観点で見てほしいこと。

2.小中学校で障害に気づかれていない子どもたちを早期に見つけ、非行に走らせないように力を貸してほしいこと。

3.漫画を読んで少年院の教官や医師のイメージをもってもらい、少年院といった矯正施設で働いてみたいと思う人が少しでも増えてほしいこと。

こうした願いが込められた漫画です。

6.本書を勧める理由

この漫画に描かれていることは、私の知らない世界でした。

現代は障害者認知が進んでいると思っていましたが、まだまだ理解されない人たちがいることを知り、驚きました。

この漫画では障害のある児童がなぜ事件を起こすのか、その背景に何があるのかがとてもわかりやすく描かれています。
絵があることでより非行少年たちの表情や苦悩がさらによく伝わります。

守られるべき障害者たちが加害者になるのはとても辛い事実です。
作者の願いにあるように、グレーゾーンの人たちを早く発見してあげることが、非行少年たちを生まないために重要な課題です。

昔クラスにいた「変わった子」や、会社にいる「失敗が多い人」はグレーゾーンなのかもしれないと考え直しました。

具体的にどうしたらいいのか、すぐに結論の出せる内容ではありません。
しかし障害のある非行少年たちを恨みの気持ちだけで見ないこと、失敗しても許す気持ちは頭の片隅に置くことしました。

「グレーゾーンの生きづらさ」というものは、どういうことかわかりにくい状態です。正しい知識を学ばせるという教育の意味で、小中学生のうちから少年院の教官や医師による講演を聴く場を設けることが、誤解のない障害者理解に繋がるのではないかと思います。

生きづらさを感じている人たちを正しく理解し、周囲のことも自分自身のことも「ありのままを受け入れる気持ち」「自分も相手も許す気持ち」を持っていたいなと考えさせられました。

ハンディキャップを持った非行少年たちの世界を知り、少年たちについて考えるきっかけを、ぜひもっていただきたいです。







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