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瀬川貴次『ばけもの好む中将十 因果はめぐる』を読んだ感想をクソデカ感情のままに書きまとめてみた

先日、なんとなしに友人と本屋を訪れたら発見し、思わず購入してしまった小説『ばけもの好む中将十 因果はめぐる』。

『十』と数字がつくところからわかって貰えるように、この小説はシリーズものだ。
平安時代を舞台に、左近衛中将である宣能(のぶよし)と、右兵衛佐である宗孝(むねたか)の2人が「ばけもの」にまつわる様々な事件を解いていく(流れになっちゃう)平安冒険譚となっている。

今から2、3年ほど前に、図書館でたまたま第一巻にあたる『ばけもの好む中将 平安不思議めぐり』を借りた結果、私はこのシリーズの魅力に取りつかれる事になった。
以来本屋に行く度に必ず新巻が出ていないか確認するまでとなった。この十巻めも見つけた瞬間、即座に手にとったわけだが、隣りにいた友人には「勢いwwwwww」と爆笑されてしまう程のがっつき具合を見せてしまった。

もともとバディものが好きなのだ、私は。
2人1組で何かをする感じのが、最高に好きだ(ちなみに、2人1組な師弟が出る作品も好きだ(ワ○パ○マンとか))。

加えて言うなら、片方が変人だったり、追いかけるものの設定が頭おかしかったりすると更に好みの範疇となる。そう、つまるところ、この作品はそんな私の性癖ドストライクの作品だったわけである(クソデカ大の字)


というわけで、そんな大好きなシリーズの新巻を読んでの感想を、クソデカ感情なままにまとめてみようと思う。
皆、バディものはいいぞ。

クソデカ感想その1. その「キュン死に」、もっとよこせ

さて最初「バディもの」と記載はしたが、この作品、実は単なる2人1組の冒険譚ではない。宣能と宗孝、2人の周りを取り巻く人々の人間関係も非常におもしろく取り上げられている、ヒューマンドラマな一面も存在する。そしてその中には「恋愛」の2文字も含まれている。

平安時代の「恋愛もの」と言えば、どうしてもドロドロとしているというか、こう胸を焦がすような恋だとか、そこから生まれる切なくやるせない身分差だとかで胸が苦しくなるような、そんな「恋愛もの」を想像してしまう感がどうしても否めないのは、私だけだろうか。

しかしこの作品はそういった雰囲気の恋愛は、ほぼ存在していない(ほぼ、な為、一部あるが)。
それどころか、キュンキュンさせられるものが多い。

特に今巻に収録されている第2話「季節の狭間に」は、そのキュン要素がめちゃくちゃに盛り込まれていた。
この話の中でメインとなる組み合わせは2組あるのだが、その内の1組である「頭の中将」の夫婦の話は、本当に胸キュンときめき120%だった。

頭の中将は宣能の同僚にあたる人物であり、ちょっと頭が固いすぎるところを除けば、作中ではほぼ一番と言っていいぐらいに真常識人な人物だ。と同時に非常に勤勉な人物で、それ故に学者である宗孝の五番目の姉、そしてその夫とは非常に良好な友好関係を築いている。

そんな友人である五番目の姉と楽しげに発明に関する話をする頭の中将を、ある日彼の妻が見てしまう。結果、浮気だと勘違いした彼女は、そのまま里帰りをしてしまう。頭の中将は妻を連れ戻したいものの、良案が浮かばずに困ってしまう――というのがこの話の大まかなストーリーだ。

女心の難解さに困る不器用な旦那と、そんな彼と釣り合わない自分に惨めさを感じる不器用な妻。
互いに相手を思い合っているところは確かなのに、微妙なすれ違いが続く展開の歯がゆさには、なんとも言えない胸キュンさがある。というかこの両方の不器用さ。

不器用の種類は違うが、ある意味でめっちゃお似合いなんですがーーーーーーーーー!?!?!? と何回、2人の幸せを願って床を殴りつけかけたことか。

それに実を言えば、ここに来て頭の中将の恋愛ものが見れるとは思わなかったのだ。
彼は本作においてはサブのメインキャラと言ってもいいほどに、今までのシリーズに多く登場してきている。お前がいなきゃ何も始まらなかった、と言いたくなるような巻数だってある。

それでも彼は、今まで恋愛のれの字も見せてこなかった。
それが『十』という、ある種節目のような数字であり、読者も登場人物達に見慣れだし、感情移入の深度もあがった頃合いに、この男の恋愛もの。作者は策士なのか。普段からキュン死にしそうになる事が多々あったというのに、まだ読者をキュン死にさせようとするのか。

素晴らしい、お願いだ、もっと殺してくれ(クソデカ感涙)

なお、この話の中には宗孝の五番目の姉夫婦もチラッと出てくるわけだが……。彼らも彼らで、彼らなりの仲の良さを最後の方に見せつけてきやがる。

頭の中将ほどの、激的なキュン展開が起きるわけではないが、穏やかな会話を行う2人の様子からは、彼らの夫婦としての仲の良さ、そしてお互いに対する『大事さ』のようなものを感じずにはいられない。些細な日常の端々から感じられる愛というのか、なんというのか。似た者同士な学者夫婦だからのやり取りというか。とにもかくにも深すぎる2人の愛に全私がスタンディングオベーションしたことだけは確かである。

ありがとう、こういうのが見たかったんだよ(クソデカ感涙2)


クソデカ感想その2. だから幸せになれつってんだよっ!!!!!(激おこ)

さて、恋愛面についてもう1つ。
宗孝の十二番目の姉である真白と、東宮(要は将来の天皇様)である少年、春若君の恋愛模様に関する感想も書かせていただこう。

この2人は本シリーズの大筋にも大きく関わってくる組み合わせとなっている。
未来の天皇様となる予定の東宮である「春若」。そんな彼は、宗孝の姉にあたる真白という女性に恋心を抱いている状態にある。
しかし、未来の天皇様である彼には、従兄弟であり宣能の妹でもある「初草の君」と婚約する未来が義務付けられている。だが、恋にお熱で真っ直ぐな春若は真白にアピールをし続け、ついに前巻(九巻)で真白に「自分の妻は真白ただ1人である」ことを告白するに至ってしまった。むろん、それは彼の本心なのだが、それを実行する為には自分の身分や、婚約によって関わってくる政治的なあれやこれ、家柄の問題などが障壁となって襲ってきてしまう。

迷った彼は、第2話「季節の狭間に」で縁切りの神社へ初草の君と縁を切るように神頼みをしに行こうとする。神に頼るしかないところに、春若の『子供』故の無力さを感じるのだが、同時にそこまでしても真白と添い遂げたいと願う彼の本気度には応援したくなる純真さがある。あ~~~っ、幸せになってくれ、は~~~~~~~っ、と何度本書の前で頭を抱えたことか。

なお真白の方は彼のアピールを最初は本気にしていなかった節がある。それどころか、途中で十郎太という人物に恋をしてしまうような描写も描かれたりと、なかなか春若の想いは届かない。この春若の片思い具合が、また彼を応援したくなる要因と言わざる得ない。

しかし、前巻での告白で真白の方にもなんらかの思うところがあったのだろう。
この十巻にきて、なんと真白の方にちょっとだけ春若への想いの動きが生まれることとなったのである。

これまで真白はこれからの自分の事で、結婚するか、それとも宮仕えとして働くか、その二択でずっと迷い続けている節があった。しかし今巻で、宮仕えにすることを決める。母親には「働いたせいで婚期を逃しても知りませんよ」と言われるも、それに対し真白は「しばらく結婚する気はない」と返すのだ。

それも頭の中で、春若のことを思い浮かべながら……。

春若、お前の幸せはもうすぐそこにまでやってきてるかもしれないぞ(ゲンドウポーズ)

なんでもいいから、この無垢な2人の未来に幸あれ。
できれば春若は報われてくれ。

クソデカ感想その3. それが不穏を生み出す原因だと気づいてください、中将さま

さて、そんな胸キュンキュンな感想が続いた上で、最後に本書で綴られていた「不穏」な展開についての感想も書いておきたい。

『因果はめぐる』というのが本書のサブタイトルなわけだが、どう見ても読んでも考えても不穏さしかにじみ出ないタイトルである。胸キュンだけで終わらない臭いがプンプンするぜぇ……、状態である。

このサブタイトルは、本書に収録されている第3話にあたる物語のタイトルでもある。
その話の中では、このシリーズの大筋である物事に大きな進展が生まれる事となる。

それは宣能自身に関わる話であり、ひいては彼の実家である右大臣家、そして京の都に潜む裏の人間(表に出せないような事をしている人々の事)にも関わってくるような大きな物語である。
これまでもう1人の主人公である宗孝は、その物語からどこか遠ざけられた場所にいたのだが、今話によってその中に片足を完全につっこむ事となる。

もちろんそれでも彼には隠されている部分がいくつかあり、それは読者にも『謎』の状態で物語は展開していく。そしてその『謎』の1つに宣能自身の事もあったりする。

それに、この大筋に関わる度に、なんだか宣能がどこかどんどんと歪んでいってしまっている気がするのだ。
もっと端的に言うと、SUN値が削られてる気がする。宣能の。

この話の中で宣能は、兄の変化になんとなくで気づいたらしい初草に心配されるシーンが描かれている。しかしその時彼は、初草にこう返すのである。

「心配はいらない。私はとうに怖いものなどなくなっているよ」
【引用元】『ばけもの好む中将十 因果はめぐる』

その言葉が心配を生み出す原因だと、気づいてください中将さま~~~~~~~~~っ(クソデカ感情)

しかしそんな彼だが、宗孝との夜歩き(ばけもの探し)ができなかったら拗ねちゃったり、1人で夜歩きしていても前ほど楽しさを感じなかったりと、宗孝に対する感情の見せ方は、なんだか等身大の人間そのもの。

彼の抱える『謎』には宗孝自身も深く関わってくる、というか関わらせようとしている、そんな面もあるのだが
、しかしそういった事とは別に、彼自身が宗孝の事を大事な友人と思うようになっているのは事実なことだろう。

この人間的な感情の揺れ、そしてその原因である宗孝自身が、今後の物語展開のキーパーソンになる事は確かだろう。

あぁもう、中将さまにも幸あってくれ~~~~~~~っ!!!!!!(クソデカ感情×120)


クソデカ感想、以上。
続きが気になりすぎて、胸に抱いた本書を折り曲げそうである。あ~~~~~、早く続き出てくれ~~~~~~~。

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