見出し画像

夜の東京 (淡谷のり子)。

淡谷のり子の歌う「夜の東京」。加奈木隆司作詞、井田一郎作曲で、彼女の長い歌手人生にて最初に出たヒット曲でした。貧困の中に苦学を重ねて東洋音楽学校を首席卒業した淡谷のり子は、その記念公演にてウェーバーの「魔弾の射手」の一曲「アガーテのアリア」を美しいソプラノで熱唱し、マスコミからも大絶賛を浴びました。当時の彼女はまだ22歳、輝かしい未来が期待された事は間違いなかったものの、家族の生活は貧しいままだったので、不服ながら映画館のアトラクションや盛場の歌姫の仕事をこなしながら糊口を凌ぎます。そんな折、新譜を出し始めた日本ポリドールレコードのテストを受け、どうにか合格して新民謡「久慈浜音頭」の裏面を歌ってデビューを飾ります。そして「初恋の唄」「ひとりぼっちの唄」等を入れた後に回って来た新曲が「夜の東京」でした🌃。

作曲はビクターから移籍して来たベテラン、井田一郎が担当。まだ流行歌に不慣れな淡谷のり子は、最初のレッスンでは手も足も出ず、業を煮やした井田は堂々と「君はそれでも音楽学校出か!」と一喝する始末。そんなので参っては歌手など続かない訳で、直ちに淡谷は譜読しながらリズム感を覚えて練習し、見事本番は一度でOKが出たとか。「夜の東京」は短い二行詩型の歌詞が二聯連続して歌われて間奏に入りますが、全部で四番構成なのか、または二番構成なのかは分かりません。途中「東京行進曲」「浅草行進曲」のメロディが出て来る辺り、著作権が緩かった頃が偲ばれます。こうして井田はすっかり彼女に惚れ込み、以降「恋と酒」「エロ行進曲」などで組み、昭和8年まで付き合いは続きました。裏は毛利幸尚の「東京節」で、レコードは昭和5年初夏に発売されています😀。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?