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戀(恋)を拾いに (池上利夫)。

池上利夫の歌う「恋を拾いに」。梅田清作詞、山田栄一作曲で、池上は松平晃のポリドールでの芸名です。昭和7年に日東レコードから「夏は朗らか」でデビューした彼は、一社だけに留まらずポリドールと其の配下にあったキングにも売り込みをかけ、幾多の名前を用いて続々と吹き込み範囲を広げていました。恐らく池上利夫と云う名前はポリドールの文芸部が池上にあり、そこに利益をもたらす男…と云う意味で付けたのかも。ここでは「忘られぬ花」が大ヒットを記録し、他「古きパイプ」「望郷の唄」も良い評価を得ましたが、売れるに従い其れ迄の仕送り以上の稼ぎを得るようになった彼は、次第に先行きも不安定な音楽家よりも太く短い流行歌稼業に靡いて行きます。その辺りの意識の差が此の道へ誘った藤山一郎との差に繋がるのですが、無論当時の彼が知る由もありません💬。

「恋を拾いに」は、ポリドールでは4曲目の新曲であり、若手作曲家の一人である山田栄一がメロディを付けています。伴奏は東京フロリダ・ダンスホールに出演して人気を欲しい儘にしていたパリ・ムーラン・ルージュ楽員が担当し、バイオリニストであるパクナデルが編曲しました。アコーディオン、バイオリン、ギターにドラムを加えた流れる様なサウンド、松平も数ヶ月前よりも滑らかな歌唱になり、リズムに乗って楽しげに歌います。陽気に誘われて夜の銀座に来ては、短い青春を謳歌する若者の姿を描いておりますが、舶来の楽団による伴奏だけに銀座よりもパリの風景を思わせる様なオサレな一曲となりました。此の裏面には新人歌手フローラル瑠璃子の歌う抒情歌「心ひそかに」が組まれまして、全く正反対のお淑やかなメロディです。レコードは昭和8年春に発売されました😀。

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