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僕は「風船」を飛ばせない

とても素敵なニュースを見つけた。

部屋の前に“手紙付きの風船”「おてがみください」差出人に連絡してみると…290キロ旅した“空飛ぶ手紙” | KUTVニュース | KUTVテレビ高知 (1ページ) (tbs.co.jp)

熊本県の幼稚園から飛ばした「お手紙ください」の風船が、偏西風に乗りながら奇跡的に梅雨の晴れ間をかいくぐって、テレビ高知の職員自宅前まで届いたというのだ。
その幼稚園に連絡をとったテレビ高知の職員。幼稚園は大盛り上がりで、園児たちは高知に興味をもち、給食に高知の郷土料理を給食にリクエストしたという。

バラードの歌詞か、はたまた安い映画の決め台詞か。
「この地球は同じ空で繋がっている」
このことを体感して園児は感動しただろう。世界が拡がっただろう。
そんな「当たり前」に感動を覚えなくなったのは、いつからだろうか。

最近、夜の寝つきが悪い。生活習慣、飲酒、暴食。心当たりが少ないわけではないが、一番は、その日に満足していないから。
高校から大学生にかけての僕の不眠は、その日に満足していないことが一番の原因だった。

ゆうべ、知らない誰かとお話したくて、なんとなくぼーっとLINEグループチャットを眺めていた。
僕に関係するであろうワードで検索をかけて、ゆっくり下までグループ名と簡単な説明に目を滑らせていく。

熊本、広島、福岡、maimai(僕がずっとハマっている音楽ゲーム)、ポケモン、ピクミン、台湾、中国語。
あれ、僕が「語れる」ものって、この程度だったっけ。

グループ名や説明に踊る、「出会いましょー!」「男女関係なく仲良しできる人」「オフ会定期的に開催」「一緒に遊べる方」「雑談」「30代」等々の文字と、うんざりするような数十ものハッシュタグの連続。

誰かと話したいけれど、誰かと何が話したいかも分からない僕。
Twitterで寝落ち通話とか、病み垢とか、そういうのに溺れるやり方があるのも知っているけれど、もうそういうのはお腹いっぱい。

分かっている。
僕は、「今日」に満足できなくて、「今日」をこのまま終わらせたくなくて、その鬱屈した気持ちを「知らない誰かと話したい」にすり替えて自分を誤魔化しているだけなのだ。

流通が発達した現代。84円と数日があれば、南は沖縄、北は北海道まで封筒が届く。
郵便なんて使わなくても、インターネットという海で、無料で世界中と繋がれる。

本物の風船が290km飛ぶ奇跡を願う必要もなく、皆が持つ板を少しなぞるだけでいとも簡単に、本当に簡単に「風船」が誰かに届く。

でも、僕は、「風船」を飛ばさない。飛ばせない、のかもしれない。
こんなに重い気持ちだったら、「風船」も浮かびすらしない。

園児たちの世界は、大好きな家族と過ごす自宅と、優しい先生や仲良しの友達がいる幼稚園と、普段行くスーパーが範囲だったのだろうけれど、見知らぬ遠い場所であって空が繋がっている「こうちけん」がその世界に追加されたのだろう。

僕はどうだろうか。
職場と、自宅と、スーパーと。
園児より狭い世界で閉じ籠っているだけじゃないか。

そんな気持ちが、また今日も、続いていく。

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