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プヲタが本を読んだなら~第4回・『砂まみれの名将』~

先日、『砂まみれの名将』(著:加藤弘士)を読了しました。


日本プロ野球界において、選手としても監督としても名を成した野村克也。

その野村が、社会人野球チーム・シダックス野球部を率いた2002年11月〜2005年末の1140日間を、当時の番記者が纏めたのが本作品になります。



野村による著作を中心に、監督を務めた南海ホークス(現:福岡ソフトバンクホークス)、ヤクルトスワローズ(現:東京ヤクルトスワローズ)、阪神タイガース、東北楽天ゴールデンイーグルス時代のエピソードは数多く登場していましたが、シダックス野球部時代にフォーカスした書籍は本作が初とのこと。


私自身、楽天監督時代(2006年〜2008年頃)に何冊も野村克也の本を読んでいた時期があるのですが、野村本を読むのは十数年ぶり。
たまたまTwitterで見かけた出版情報がキッカケで、本作を購入したのでした…。

『砂まみれの名将』、素晴らしい本でした!

野村克也は【情の人】である

著者自身の回想や関係者インタビューによって明かされていく野村克也は、【情の人】という表現が実によく当てはまる。
本作を読んで、まず一番に感じた点でした。



就任当初の試合後ミーティングで、熱い思いを真っ直ぐ選手達に問う姿。

選手からの質問にも否定せず、自ら咀嚼した上で回答を持ってくる姿。

社会人野球の大舞台で準優勝に終わった直後、ミーティングで選手に謝罪する姿。

監督退任発表後の挨拶で感極まる姿。


氏の代名詞である【ぼやき】や、野村本に出てくる【批判・称賛・無視】のプロセスからは縁遠い、人情味溢れる一面ばかり。

プロ野球時代の教え子によるインタビューでも見かけないような人情味がフォーカスされている点は、野村本でも異彩を放つ内容だった気がします。


真の『野村再生工場』はシダックスだった

監督時代に多くの選手を復活させたことから、『野村再生工場』と称された野村克也。


でも、本作を読み終えてみると、「真の『野村再生工場』は、他ならぬシダックス野球部だったのかもしれない」という感想に行き着きました。

夫人・野村沙知代のスキャンダルもあり、阪神タイガース監督の座を追われるようにして去った野村克也。
失意の中、約1年後に就任したシダックス野球部監督は、夫人の縁がキッカケで実現したものでした。

(自身の不祥事ではないとはいえ、)人生における転落を経験している訳ですが、かつての栄光も実績も鼻にかける事なく、愚直に選手とチームに向き合う姿は、まさに野村克也の再生を表していたのではないか、と。

後に『神の子』と称する田中将大を指導する前に、こうした日々の積み重ねがあった点も見逃せません。

そして、プロ野球監督時代同様、シダックス時代の教え子達がアマチュア野球界の指導者として活躍を遂げている事実。
野村克也が身を置いたアマチュア野球界の約3年間は、着実に根を張り、実を結んでいる事を改めて実感した次第です。

まとめ

シダックス野球部時代の野村克也にフォーカスしたノンフィクション作品。

数ある野村克也関連の著作において、埋まっていなかったパズルのラストピースが、本作でガッチリ嵌った感覚。
それくらい、氏を語る上でマストアイテムとなりうる一冊でした。



落合博満の中日ドラゴンズ時代を追った『嫌われた監督』(著:鈴木忠平)同様、当時番記者を務めていた筆者自身の成長譚になっている点も面白かったです。


ただ、今作の場合、野間口貴彦関連のスクープを巡って記者としてのスタンスを貫くなど、新米ながらも強かさを感じる場面も。
そのあたりの違いは、読んでいて非常に興味深かったです。(どちらが良い・悪いとかではなくて)


そして、ラストは圧巻の結末。
個人的には、ミステリー小説の大どんでん返しくらい衝撃的でした。
その事実が生前明かされなかった事は、本当に凄かった…。


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