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既成着てる?個性着てる?~2023.12.31『中嶋勝彦vs宮原健斗』~


はじめに


2023.12.31全日本プロレス国立代々木競技場第2体育館大会

新型コロナウイルス禍以降も安定して後楽園ホールの動員が1,000人を超える数少ない団体・スターダムですら苦戦を強いられている印象の強い代々木第2体育館。
しかも大晦日という日程にもかかわらず、プロレス団体鬼門の地で観衆2,687人をマークした事実は全日人気の高さを窺わせるものがあった。


ただ、私はこの興行に対して一点、悲しく感じる箇所があった。

それは、この日のメインを締めた中嶋勝彦が、2023年10月のNOAH退団以降急激に『闘魂』を掲げるようになったり、アントニオ猪木オマージュの行動を取るようになったりしたからではない。


王道マットの年内最終戦にしてビッグマッチがアントニオ猪木の代名詞である「1・2・3・ダー!」で締められるなど、興行がある種のバッドエンディングだったからという訳でもない。
(個人的に興行満足度は寧ろ高かった)


大晦日の三冠ヘビー級王座戦・『中嶋勝彦vs宮原健斗』の、内容の素晴らしさがあまり語られていない事実に対して、である。


もしかしたら、試合内容以上に「闘魂」というワードの話題性だとか、それに対する一部ファンの猛烈な拒否反応だとかが強い故の現実なのかもしれない。

でも、「そうやって現実を嘆いているくらいなら、noteで自分が感想文を書けば良いんじゃないか?」という自己の結論に達したので、ありのまま感じた事を吐き出してみることにした。


今回の記事を書くにあたって、前回自分が書いた記事や試合映像も見返しながら「再戦でどのあたりが変わったのか」という部分を改めて確認したのだが、その中で目を留める箇所があった。

中嶋「健斗と今夜こうやって久しぶりに会話が出来たってことは、これから、もしかしたらあるかもしれない。でも、もうワンナイトドリームで今日、今夜限りかもしれない。それは分からない。でも、こうやって来てくれたファンの皆、見てくれたファンの皆、プロレスは何が起こるか分からないぜ!」

「プロレスは何が起こるか分からないから、楽しいよな。俺も、見届けてくれたファンと一緒に、その何が起こるか分からないその時を楽しみにしているよ」


「何が起こるか分からない」、「今夜限りかもしれない」と語られた注目の一戦から半年足らずで実現した再戦。
早すぎるように思えた再戦の鍵を握ったのは、唐突にも思える中嶋の【闘魂スタイル】だった。


短期スパンの懸念を払底した、"フルモデルチェンジ"

2023.7.15に実現したドリームマッチから、僅か5ヶ月半で実現した再戦。


この間、中嶋勝彦のNOAH退団⇒全日参戦⇒三冠ヘビー奪取という流れもあり、プロレスリング・ノアから全日本プロレスに舞台を移して行われた一戦でもあった。
後楽園ホールを超満員札止めにするネームバリューのあるカードとはいえ、半年足らずで決まった再戦。


正直な所、複数年単位で寝かせておいても良いくらい刺激的なシングルカードを、(団体の舞台が変わったとはいえ)短期間で切ってきた事には驚きを隠せなかった私がいる。

しかし、この再戦に中嶋勝彦は、大胆なイメージチェンジを施して臨んだ。


パーマのかかっていた茶髪を丸刈りにして、コスチュームもモハメド・アリを想起させるコスチュームデザイン。
傍らには、元新日本プロレスの新間寿を携えての入場。

たった約2ヶ月まで潮崎豪と隣り合っていた中嶋の面影は、影形もなく消え失せていたのである。


中嶋の坊主頭も、2021年6月のマサ北宮との敗者髪切りマッチに敗れた時以来。
一時期、この姿はNOAHの会場で見慣れていたはずなのに、突然の変身に胸がザワついた。

2021.8.15プロレスリング・ノア カルッツかわさき大会


試合自体も、中嶋自ら【猪木アリ状態】で誘い込むなど、全日参戦以降唐突に唱え始めた『闘魂』の要素を感じさせる動きも見られた。


ただ、ここで1点注釈しておきたいのは、私は『闘魂』というものを知らない状態でプロレスが好きになったという事だ。
だから、今の中嶋がやっている『闘魂スタイル』とか赤タオル、新間寿の存在などに対して、正直なところ、是非がどうだなんて事は私にはサッパリ分からない。


それでも私がこの試合をnoteに書き記したくなってしまうのは、禁断の一戦を短期間でリマッチするという懸念を、大胆なキャラチェンジと手探り無しで振り切るスタンスで『名勝負数え歌』になり得る期待へ変えてみせたからだ。


ハッキリ言おう。
個人的に、2023年7月のOne Night Dreamの時よりも、大晦日代々木決戦の方が試合内容は格段に面白かった。

禁断の一戦という構図で織り成される緊張感と余韻が際立った7月に対し、直近で1度対戦していた事により喪われた余韻や特別性と引き換えに、双方の当たりの強さやスピード感が得られたのが今回の大晦日代々木決戦だったのではないだろうか?


宮原が敗れ、中嶋が王座防衛という事実を受容できないという声はあるものの、私がNOAHで中嶋を見ていた時に一番の奥の手だったノーザンライトボムに加え、アームバーでトドメを刺すフィニッシュシーンは、宮原が強敵である事の裏返しに私は感じ取れた。


そして、全日本プロレスの年内最終戦で、中嶋がアントニオ猪木の「1,2,3,ダー」で締める異様な光景。
宮原敗北の瞬間に帰路につく観客も少なくなかった一方、会場ではダーを叫ぶ観客もいたので、中嶋が総スカンを喰らっていたという雰囲気は無かった事だけ書き記しておきたい。


正直な所、中嶋に好意的な印象を抱いていた私でも、大晦日決戦で宮原がリベンジを果たし、全日の至宝奪還に成功する大団円を予想していただけに、宮原が連敗を喫する事に衝撃を隠せなかった。

しかし、宮原の左手はタップアウトを告げ、中嶋が王座防衛に成功した事実と、双方のマッチアップが外連味のない激闘だった点は間違いない。

これが、私が大晦日の『中嶋勝彦vs宮原健斗』を見て抱いた主な感想である。


まとめ

「俺、フリーになったら稼がないといけないので、俺のことを応援してください。その次に豪さんも応援してください(笑)。」

2023.10.15、中嶋勝彦のNOAH退団決定後に急遽組まれたAXIZのファンイベント。
(※全3部制の第2部)

参加者は、中嶋&潮崎豪の両名と1分間のミート&グリーティングの機会が設けられたのだが、その際に私が中嶋から言われた一言である。


緊張しきりな私に対しても優しく微笑みつつ、この言葉から私は、団体所属という立場を離れフリーランスという荒波に飛び込もうとする中嶋の決意表明だと受け取った。

私自身、今の中嶋に対して(現状)否定的な感情が出てこないのは、この時の言葉の存在も大きい。
自らのキャラクターをガラッと変えてまで、外に出ていく人の覚悟を見せられたら、否定なんて出来ないよ…。


中嶋の掲げる『闘魂スタイル』に対して、戸惑いや怒りの感情が周囲から聞かれるようになった。
今のプロレスに不満のある層から聞きがちな「猪木が泣いてるぞ!」という声や、オールドファンからの反発みたいなものが中嶋に対して上がっていない事実は、個人的に何となく引っ掛かっていたりするところもあるけれど…。


そう考えた時に、この詩の存在が頭に浮かんでくる。

この道を行けばどうなるものか
危ぶむなかれ
危ぶめば道はなし
踏み出せばその一足が道となり
その一足が道となる
迷わず行けよ
行けばわかるさ

アントニオ猪木『道』より


「プロレスは何が起こるか分からない」と2023年7月に語った男が約半年後、何が起こるか分からないし予測できない道を、「この道を行けばどうなるものか」と語った先人のオマージュを纏った上で、先陣切って歩いている点が個人的に興味深いのだ。


この『闘魂スタイル』というものが唐突な流れ故に、誰かによる既成を纏ったものなのか、中嶋による外敵としての振る舞いなのか分からない。
けれど、不確実で歪な外面を纏いながらも試合内容は確実性に溢れていた大晦日代々木決戦を見て、「自分の目で試合を見て、自分の脳で判断する」ことの大切さが改めて身に染みた。


所属選手の複数退団だとか、アクトレスガールズとの交流だとか、ざわつく話題飛び交う年末年始の全日本プロレスでフラッグシップタイトルを握るのは、闘魂スタイルを掲げる外敵だ。


2023年に三冠ヘビー級王座を獲得した永田裕志(新日本プロレス)の時にも、そうした拒否反応のようなものは少なくなかったが、本格参戦から約2ヶ月足らずで既に永田戴冠以上の反響を起こしている中嶋の存在感は見逃せない事実だろう。


この道を行けば、どうなるものか…

成否はどうなるか私にはサッパリ分からないけれど、新しい環境という荒波に自ら飛び込んでいく中で、持っていた自身のルーツもスタイルも一新させる中嶋の勇気と試合内容は間違いないんじゃないか。

私はそう思うのです。

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