見出し画像

はるさめスープ #9 『タイムスリップ』

「ねえ、千歳ちゃん」
「どうしたの?」
「私たちって、今何年生かなあ?」

八雲さとみが、寮の部屋から窓の外を眺めながら、千歳佳子に尋ねた。その傍らで、潮見香織が脚の産毛を剃っている。

初回からの年月で考えれば、今の私たちはハルサメ中等教育学校6年生の3月になるはずだから、そろそろ卒業式だね」
「やっぱりそうだよね? おかしくない? 潮見ちゃんはどう思う?」
「イテッ」
「どうしたの?」
「突然話しかけるから、カミソリでスネを切っちゃった」
「わ、ごめん」

潮見の白く細い脚に、じんわりと血がにじんできた。産毛を剃ったばかりのすべすべとした肌に、痛々しく見える。

「あのさあ、著者は男性だよね? 18歳女子の脚、そんなにジロジロ見ないでくれる?」

すみませんでした。

「……で、八雲ちゃん、なんだっけ」
「もう私たち、卒業間近らしいんだよね。全然物語を更新してくれなかったせいで、出番がないまま学校生活が終わっちゃうよ」
「それはおかしいよ! 何のために私たち登場したと思ってるの? 千歳ちゃんもそう思うよね?」
「うーん、私は元麻布瞬くんと付き合ってきた5年間を赤裸々に書かれなくてよかったなと思ってるけど……」
「キイッ、クヤシイ!」
「潮見ちゃん、一昔前のオバサンみたいな悔しがり方しない方がいいよ……。あと、丸5年前の2019年3月8日に一回だけ登場した元麻布くんのことを覚えている人なんて、もうこの著者の読者にはいないよ?」

念のため補足すると、潮見は1年生のときから元麻布に片想いをし続けている。しかし、1年生の最初の中間考査前に、千歳が元麻布に「勉強を教えてほしい」と言われたことがきっかけで、(おそらく)交際が始まった。潮見はそれ以来、嫉妬している。

「あん? 勝手に他人の片想いの暴露なんかしないでくれる? デリカシーなさ過ぎ。
 いずれにしても、私は著者に1年巻き戻すように申し立てるからね!」
「私も潮見ちゃんにさんせーい」
「千歳ちゃんも、賛成してくれるよね?」
「……うん、まあ……。このまま『はるさめスープ』が終わっちゃって、出番がなくなるよりはいいし……。」

前略ごめんください。そりゃ当然でしょ。私の脚の毛剃りを実況した上、片想いまで大っぴらにしたんですからね。時候の挨拶なんてするわけないでしょうが。

どうせ私たちの会話も聞いていて分かっているんでしょうけど、私たちは断固として、物語の時間を1年巻き戻すことを要求します。
私たちの青春時代を返してください。JKらしいことをさせてください。

1年巻き戻してくれれば、大いにあなたのnoteを盛り上げることを約束します。

かしこ
香織
(私たちも同意します。 さとみ ☁ いや、私はいいってば 佳子)

Halさんへ 香織より

拝復 早春の候、ますますご健勝のこととお喜び申し上げます。

お手紙、拝読いたしました。これまで『はるさめスープ』の更新を怠っており、大変申し訳ございませんでした。潮見さまのご不満の点につきまして、十分に検討いたしました。
それはもう、某国首相の国会答弁とは比べ物にならないほどの検討でございます。いえ、このように申し上げると、「検討していない」ことを強調しているように思われるかもしれませんが、そうではありません。文字通りしっかりと検討いたしました。

結論といたしましては、『はるさめスープ』の時間を修正し、潮見さまの学年をハルサメ中等教育学校5年生の3月に転換させていただきます。

これにあたり、二つの方法があります。
一つ目は、タイムスリップという方法です。私のさじ加減で、次回以降何事もなかったかのように時間をずらして物語を展開します。
もう一つは、留年という方法です。潮見さまの学年のメンバーを全て留年させることが可能です。
いかがいたしましょうか。

ご返信を心待ちにしております。

敬具
Hal

潮見さまへ Halより

前略 ふざけんな。留年なんかするわけねえだろうが。

かしこ
香織 さとみ 佳子

お前へ あたしたちより

次回以降、タイムスリップいたします。ぜひお楽しみください。

有効に使わせていただきます!