駄々っ子参上

夫が、先週から出張でいない。
数カ月前、夫から出張の相談を受けたときに最初に思ったのは「寂しいから嫌だ!」であり、その直後に思ったのは、「身重の妻を1歳児と置いていくのかコノヤロー(毎日サウナ行くつもりでしょ)」であった。しかしそこは私も良い歳したオトナ。仕事で迷惑をかけるのは完全にお互い様。平日夜ナニーさえ来てくれればオペレーションは回るし、駄々こねるのはやめて気持ち良く送り出そう、と考え直した。

「ワンオペ」という言葉がめちゃくちゃ一人歩きしてて、どういう状態を指すのかわかっていなかったけど、もしそれが「子供に何かあった時の責任を最終的にとる人物がその場に一人しかいない状態」を指すのだとすれば、これが初のワンオペ体験ということになる!何かあったら相談したり頼ったり甘えたりできる夫がそばにいなくなる&妊娠後期で体の動きに制約がある点多少不安はあるものの、通常運転でいければ、基本大きな問題はないはずだ。毎朝いつもより少し早起きすることと、ベビーカーひょいと持ち上げてくれる人がいないので出かける範囲に制約が生じること以外は、大勢に影響はないはず。そんな感じで楽観的に過ごして迎えた週末。天気も良かったし、フェリーとタクシーで行けるレストランに同じく子連れの友人とランチに行ったのだけど、そこで普段は手のかからない娘が豹変してしまったのである。

ハイハイやら伝い歩きやらができるようになったくらいから、徐々にレストランでじっとしていることが難しくなってきたなと感じてはいたものの、それでもこれまでは抱っこしてあやしたり少し外に出してやれば落ち着きを見せていた娘。本日はもう漫画のような「駄々っ子」状態。ミルクも嫌、ごはんもお菓子も嫌、オムツも綺麗でお昼寝もした、ガラガラはぶん投げるしハイチェアからは秒で脱出しようとして、抱き上げても身をよじって号泣。普段からデイケアの先生やナニーからも「極めて自立している」と言われる我が娘は、家の中は自由自在に歩き回り戸棚からありとあらゆるものを引っ張り出しては別の場所に運ぶというルーティンに日々ひとり精を出しているわけだけど、レストランでママに行動範囲を制限される状況が許せなかった模様。歩かせてみるとレストランの外へずんずんと出ていき、放っておいたら道路をわたって初めてのお遣いでもしに行くんじゃないかという勢いでこちらを振り向きもせずに進む。そのままにさせるわけにもいかない私はパンパンお腹とガタガタの骨盤で娘を追いかけ、号泣してジタバタする娘を担いでレストランに戻り、床に座り込んで般若のような顔で泣き続けるその生き物を見ながら、恥ずかしさと悔しさと申し訳なさと孤独と、色んな気持ちでいっぱいになった。

子育ての大変さ、イヤイヤ期のこと、たくさん話には聞いてきた。もうお手上げ。と言っている友人たちをたくさん見てきた。それでも自分の娘のこととなると、どこかで、「うちの子は大丈夫なんじゃないか」という根拠ゼロの淡い期待があった。現に夜泣きもほとんどなく、ママへの依存もなく、淡々と心身の成長を続ける娘を見ながら、ほお、なかなかやるじゃないか、と誇らしく感じることも多い。そんな中で直面したこの事態。道路のど真ん中でひっくり返ってジタバタする息子くんを冷ややかな目線で眺めながら「置いてくよ!もう知らないよ!」とブチ切れていたいつかのお母さんを思い出す。
1歳児に言ったって伝わらないと半ば諦めつつも、「レストランではそういうことしないよ。NOだよ。」と真面目な表情で静かに繰り返す。犬のしつけと一緒、そう言い聞かせて毅然と対応。当然娘はもっと号泣。

何もかもがイヤーーーー!になってしまった娘への唯一の対処法は場所を変えることだったので、頼んだご飯もろくに手を付けられず、TO GOして友人家族に謝罪して家に帰った。帰り道、ひとしきり大騒ぎしたあとタクシーの揺れで眠りに落ちた娘を抱きながら、ちょっと泣きそうになった。「泣き止ませられない私はダメな母親なのかなあ。」「言葉にはされなかったけど、躾がなっていないって誰かに思われたかなあ。」「夫がいたら、うまーくあやしたのかなあ。」「何が、いけなかったかなあ。」
相談できる夫がそばにいない孤独感と、歩くたびにズキズキする骨盤がなんだかより心を暗くした。

家について、やっと制約なしに歩き回ることを許された娘は満面の笑みでひとしきり部屋をぐるぐる回ったのち、私の膝に抱き着き、まるで「ごめんね?」とでも言うように私を上目遣いで眺めてきた。そして嬉しそうに色んなものを持って来ては私に見せる。靴とか鍵とかワサビチューブとか。

そうよねえ。君は今爆発的な成長の過程にいて、いろんなものを見て触って舐めて、ママやパパに見せて反応を見て、ギューッて抱き着いて、そうやって時間を過ごしたいんだよねえ。あざといやり方でママの機嫌をとる1歳児を見て思う。やっぱり君はなかなかやる。立派な成長の過程であり、強い意思の現れだ。ママに注意されたこともおそらくなんとなく理解している。これはきっと少し早いけれどイヤイヤ期なるものの前兆なのだろう。これからもっともっと覚悟しなきゃいけないね(笑)

私の元気のないLINEを見た夫から電話がかかってきた。電話中ずっと、ケラケラ笑ったりアウアウ声を出しながら私にまとわりついている娘を画面越しに見ながら、「も~ママ困らせて~。でもお家でそうやってママと遊んでるのがいちばん幸せなんだねえ😊」という夫の言葉に、心がすっと軽くなった。育児の孤独感って、こういう些細な会話と共感で魔法みたいになくなるものなんだ。

娘よ、ママは君を無駄に甘やかすつもりはないが、いちばんの味方なのは揺るがない。君の成長と経験に伴う自己主張は、ママも気長に観察していくつもり。だからそのままでいい、まっすぐでいい。大丈夫。


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