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バスに揺られて[秘め事]薄荷飴

天国行きのバスに揺られて
私は舌舐めずりをする。
朝焼け、は、まだ、ほの
暗く、すこし、だけ、青い。
まるで、紺色の絵の具を水に溶かしたような
きみの横顔にこの空が反射する。
街の明かりはちらほらときえて
いずれ生まれる私たちの赤ちゃんのために
今はだけは踊るように眠ろう。
星と月と太陽が共存するこの時間には
海と空は静かにまじわって
風は止み、ヤシの葉がかすかに動くのが見える
〈降ります〉ボタンが点灯し
もうきみの目に映る夏が翳ってゆく
東からさす陽の光、ゆらめき
この車全体が水の中に沈むような
気配、が、した、の、は
もしかすると、熱帯夜、の、見た、夢か
遠く、遠のく、むかしの、絵本の、影の国。
悪路に体を預けて眠る
きみの髪からほのかにただよう
柑橘系の苦い皮の匂いごと
それは、それは一面の
白銀がほどけた夏、でした。
冷房のよく効いた純透明のキューブのなか
ひしめき合った煙にまかれて私は
私を脱ぐ支度を初めて
はじめた(忘れられた
影絵の振り子時計)は
君の寝息でゆらり ゆらめく
水面の、みどりの、バスに揺られて

《著者略歴》
薄荷飴(はっかあめ)
2017年、詩を書き始め、主にTwitter上で詩を発表する。
2018年、文芸誌「煉瓦」1号から18号までレギュラーとして参加。同人詩集「花詩集」を刊行。2021年「秘め事」を刊行。現在は三月、水月透夏名義で活動をしている。
鋭い棘や危険な毒を隠し持ってる綺麗な花になりたい。

《収録作品》
1.バスに揺られて
2.マシュマロ・マーチ
3.麗しの透明人間
4.夏を弔う
5.風の刺し傷
6.透明宇宙の誰もどこにも
7.言葉が肌を伝う間
8.Neon light love
9.夜狂列車
10.夜と鳳
11.皐月病
12.りんごのうさぎ
13.安定して不安定なガール
14.長い電話
15.秘め事
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◆全15篇の詩を収録
◆商品サイズ 中綴じ製本(A5)
◆2021年発行
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