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Winter Break 2: 秋学期振り返り〜サステナビリティ視点で会計の意義を見つめ直す〜社会人17年目のイギリス留学🇬🇧

今日の写真は、クリスマスツリーが飾られていた大学のエントランスです。
私が所属する、MSc Sustainable Finance and Accountingは、ビジネススクールのコースなので、Jubilee館という建物が本拠地になります。
先生たちの研究室は主にこの建物にあるのですが、授業用の教室はあまり多くないので、授業はあまりここで受けられていないのが少し残念です。。

さて、今回は秋学期の授業内容を紹介しつつ、サステナビリティにおける会計の役割を考えてみたいと思います。
業務・システム改革の面から会計に携わってきた私にとって、このコースは自分のこれまでの仕事の意義を確認し、今後の可能性を広げるコースになっていて、ほんとに留学してよかった、と感じています。

コースの概要

その名の通り、Sustainabilityと、Finance & Accountingが組み合わさったコースなので、一般的な会計系のコースよりも、サセックス大学の強みである開発学の要素が色濃く出ているコースではないかと思います。会計やその周辺領域を専門にしている方あるいは目指している方で、サステナビリティや開発(development)に貢献したいという方にはとてもおすすめです。

秋学期は、4つのモジュールで構成されていました。1と2は、コースメイトのみのモジュールで、3と4は他のコースの人とも合同で開講されているコースでした。

  1. Sustainability Accounting & Reporting

  2. Accounting, Organisations, and Society

  3. Sustainable Business Finance

  4. Sustainable Development Policy and Politics

なお、秋学期の4モジュールはいずれも必須科目で、選択科目は春学期のみとなっています。

Sustainability Accounting & Reporting

コースの責任者の先生が教鞭をとる授業で、コースの要になるものでした。
古典的な財務会計の限界、一方でそれを補うようにどのようにSustainabilityに関連する開示の枠組みが発展してきたのかを学ぶ授業でした。
会計士出身の人たちにとっては、日頃から慣れ親しんでいる内容のようですが、私は、体系的に学んだことがなく、個人的には一番苦労しました。

  • GRIスタンダード

  • TCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)

  • IFRS S1(サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項)

  • IFRS S2(気候関連開示)

  • Water Accounting

といった開示の枠組みを学びました。
水や二酸化炭素など、お金ではなくて、地球において、本質的に限りがある資源をこれまでの会計の考え方を活用し、数値化の枠組み作りが進んでいるということ、これらをお金とも組み合わせて企業としてのリスクと機会を見極め、統合的に企業経営として開示していく、という流れを実際のアニュアルレポートの分析などを通じて学びました。
特に、二酸化炭素に関しては、Scope3といって、自社だけでなく、バリューチェーン全体の排出量を試算することが企業の開示の指針として、TCFDやIFRS S2で示されており、一社だけで対応するものではない、ということが明示的になってきている点は興味深かったです。

一方で、企業側の開示が主流である現在の枠組みでは、企業の考えた前提条件での計算結果しか存在しなくなるので、企業の出した数値に対して、

  • 本来のバリューチェーンはもっと広いはずだ

  • 計算の基本としているデータは排出量を過小評価している

など、企業経営により影響を受ける人たちが対案として計算したものを用意して議論するような枠組みを作らないと、本質的に二酸化炭素の削減や水資源の保全はできないのでは?と感じています。
少し前に記載した、アタカマ砂漠の服の廃棄についても、アパレルメーカーは古着や売れ残りの服の廃棄時のCO2排出量を過小評価ないし見過ごしているようにも見受けられたので、こうした点を指摘するような仕組みが必要ではないかと考えています。

このあたりの企業以外での取り組みや政策の動きなどがどうなっているのかを気にしながら、春学期は学びたいと思っています。

Accounting, Organisations, and Society

こちらは、組織や社会に対して会計が与える影響は何かを学ぶ授業で、管理会計寄りのモジュールです。管理会計、原価計算、原価企画、組織内外へのアカウンタビリティ(説明責任)などを中心に会計がいかに組織を管理するためのツールとして活用されてきたかと、社会へ与えてきた影響を学びました。
加えて、アカデミックライティングの書き方や専門誌の検索の方法なども学ぶことができ、先生も熱心な方でとても人気の授業でした。

バングラデシュ出身の先生で、ラナプラザ崩落事故やバングラデシュの服飾産業におけるModern Slavery(現代の奴隷)の実態などに詳しく、授業中に取り上げてくださる事例が毎回とても興味深いものでした。
特に、人権と会計の関係を考える授業が2回ほどあり、印象に残っています。この中で、縫製工場において、明文化された目標設定がなく、5枚縫いあげたら賃金いくら、といった口約束で運営されていること、状況が変わると別の目標とすり替えられ、長時間労働や賃金の未払いにつながっているといった実態を紹介されました。
発注者側からは見えないケースも多いので、単に企業側の努力や透明性の確保だけでなく、国としてのポリシー、政策として、経済発展だけでなく自国の産業と人権を守るといった枠組みの必要性を感じました。
また、目標原価の考え方はこうしたmodern slaveryのアクセルにもブレーキにもなりうるので、適正な原価は何かを見極めるためのツールとして活用すべきだなと考えたのと、商品の単価が上がることにも繋がるので、消費者側への訴求や代替となるサービスや商品の展開、といった企業の努力、何よりこうしたサービスを重視する企業理念と戦略が必要と感じています。

Sustainable Business Finance

こちらは、私のお気に入りの授業で、会計ではなく財務(finance)の授業でした。企業として、短期的には利益が出にくいサステナビリティに関する取り組みにどうお金を集めて儲けるのか?を金融機関の視点や企業側の予算の作り方のworkshopを通じて学ぶ授業でした。
宿題が結構出るのですが、特に学期の前半は授業中は先生が話す割合が多かったのもあって、議論を好むタイプの人たちには不人気でした💦
が、コンサル出身の私としては、最も実務に近く、実践的で学ぶことが多かったです。また、学期の終盤では生徒主体のプレゼンが企画されるなど、生徒側のフィードバックを取り入れられて運営されていました。

課題では、二酸化炭素排出量の多い業界として特定された中から、企業を選んでネットゼロのための予算を作って提案書としてまとめる、という内容でした。私は海運を取り上げ、脱炭素の技術動向を調べて提案書としてまとめましたが、長期的に見ても思ったよりも利益が出る試算にならなかったので、実務でこれを出したら企業の経営が持続可能ではないのでアウトかなと。。
どうやったら儲かる仕組みになるのか?授業だけでなく、日頃からアニュアルレポートなどを見て情報収集していきたいと思っています。これは授業で学ぶものというより、日々アンテナを張ることが重要のように思います。

Sustainable Development Policy and Politics

こちらは、会計でもファイナンスでもなく、開発のための政治学、政策(ポリシーとポリティクス)を学ぶモジュールです。
会計や財務に関する内容を期待していると、???となります。
ここでは、そもそもサステナビリティや開発とは何か、政府やNGO、市民社会の役割とは何かを学びました。
中でも最大の特徴は、秋学期で唯一、セミナー(ゼミ)形式の授業を含めて構成されていたことです。
他のモジュールの人たちも含めて、3つくらいのグループに分けられて小規模(15人程度)で議論するのですが、他のコースの友達ができるきっかけにもなり、視野が広がったなと思います。
農業について議論した会では、グリーン革命後の殺虫剤や化学肥料、単一種の栽培を行う農業の仕組みが、伝統的な農業によって維持されていた土地の豊かさを壊してしまったという話(インド)や、交通機関へのアクセスが限られる地域が多く集落の孤立が問題視される(パキスタン、ガーナ)一方で、政府主導で二酸化炭素削減のために車の走行を制限する(中国)というケースもあるという話など、世界で起きていることが、友達の住む世界で起きていること、に変わる瞬間があり、身近に感じられる話題が増えました。

期末課題では、ソーシャルムーブメントの意義として、ファッションレボリューションという団体を題材に、アタカマ砂漠に不法投棄されるほどの過剰生産やバングラデシュのラナプラザ崩落事故を招くまでの労働環境悪化がなぜ起きているのか、を検証しました。その中で、利益を求める企業経営の背景には、"自由貿易"という"ポリシー"を是とする大きなうねりと、そのうねりを無視できず"自由貿易"を自国に不利であっても受け入れた途上国側の"ポリティクス"があったのだな、というのが発見でした。
自由貿易を全面否定するのではなく、必要な規制が何かを客観的に見極めるためにこそ、一定の基準で算出された二酸化炭素排出量などの情報を共有していく仕組みとして、会計は役割を果たさねばならないと感じています。
なので、企業やNGOなどの出された数値をどのように政策決定に活かしていくのか、足りない数値を政府主導でどのように算出するかなど、政策的意思決定と会計を繋げるための考え方や手法を春学期は学びたいと思っています。

まとめ

会計の定義そのものも、変わろうとしていて、実際にサステナビリティ開示基準として、IFRS S2(気候関連開示)が示されたように変わってきています。
このあとの流れとして、二酸化炭素だけでなく水もウォーターアカウンティングといった枠組みでコカコーラやH&Mなどの一部企業では実践されていたり、あるいは、貸借対照表の資産の考え方に環境負荷などを反映して数値化できないかというまだ夢段階の議論も紹介されました。

実務レベルでの影響は段階的ではありますが、単なる制度対応ではなく、本来目指すべき方向としてリーディングカンパニーになれるような事例を身近な企業からたくさん産み出せるような仕事がしたいと思っています。

会計は、現代社会になくてはならないインフラです。このインフラが変わると世界が変わるはずであり、手堅く堅実にサステナビリティに貢献できる分野なのではないかなと感じています。

サステナビリティに対して何かしたいと思っているけど、何をしたら良いかわからないという方の後押しにこの記事がなっていたら嬉しいです。

それでは、今日はこの辺で。
みなさま、ごきげんよう。

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