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Tinderに愛はあるんか。 mikko編

 予定より30分も早く待ち合わせ場所の恵比寿駅前に着いたので、近くのスタバで時間を潰すことにした。

 東京にはスタバがたくさんある。人もたくさんいる。やっとこの東京に慣れてきた気がする。恵比寿でデートなんて、初めてだから楽しみだ。

 待ち合わせの時間になったので、連絡してみる。

 『今、恵比寿のスタバにいるよ。Toruくんどこ?』
 『今改札出たとこ、スタバに向かうね』
 『ありがとう、入り口近くの席に座ってるね。緑のワンピースにコーチの鞄を持ってるのが私』
 『わかった、声かけるよ』

 今日は、先週Tinderでマッチした「Toru」という26歳の広告代理店の営業マンとデートだ。Toruくんとの初デートなので洋服も秋に合いそうなグリーンのワンピースで張り切った。

 3ヶ月前に彼氏と別れてから、久しぶりにTinderを再開してみた。
合コンよりも効率的だし、自分の好みの男を選べるから楽ちん。
プロフィールにはちゃんと「ヤリ目お断り」と書いて、トラブルに巻き込まれないように注意しながら使っている。

 いろんな男の人が私をLIKEするので、こんな私にも需要があるんだなと勘違いしそうになる。

 まだTinderで会った人と付き合ったことはない。大体数回のデートで連絡が途絶えるか、一回目のデートで、そのままの流れでセックスして終わりのパターンもある。まぁ、見た目は好みの男だからこっちも心の準備はできているし、良いのだけれど、そろそろ新しい恋がしたい。できれば結婚相手になるような人と付き合って、2、3年後に結婚できたら理想だなぁ。

 「こんにちは、mikkoちゃん?」

 日焼けしたソース顔のイケメンが声をかけて来た。

 「Toruさん?初めまして」

 Toruくんは、上背は高く、筋肉質で目鼻立ちがハッキリしていた。
まぁまぁタイプかも。

 「会ってくれてありがとう、写真より綺麗だね」

 Toruくんがお世辞を言ってきた。Tinderで出会う男は大体似たようなお世辞を言ってくる。写真は盛っているのだから、本物がそれよりも綺麗なわけはないのに。

 「そんなことないです…」

 この男、女慣れしてそうだから少し警戒しておこうと思う。

 「お店に行こうか」

 Toruくんは落ち着き払っている。二つしか歳が違わないのに、とっても大人っぽい。都会の男って感じがする。

 「はい」

 お店までの5分間、Toruくんから私の仕事の話を聞かれた。
最近営業成績が落ちて上司に叱られたこと、都内の一人暮らしに慣れはじめたけど、満員電車は本当に無理なこと、会社の先輩の愚痴など、いろんなことを話していたら、だんだん緊張がほぐれてきた。Toruくんは穏やかに笑いながら相槌を打ってくれるので、話しやすい。

 お店はおしゃれな洋風バルだった。どうやら生ハムが美味しいらしい。コンビニの生ハムで十分美味しいと感じる私はこのお店の味を理解できるのだろうか。とりあえず注文はToruくんに任せた。

 「無理して飲まなくていいからね、今日は自分のペースで楽しもう」

 気を遣ってくれているようだけど、私はこう見えても酒豪。男に酔わされたことは一度も無い。今は喉が渇いているから、早くジョッキいっぱいのビールで喉を潤したい。でも、ゴクゴクジョッキを飲み干すのはイメージ悪いから、シャンディガフを注文した。

 「休みの日は何してるの?」

 Toruくんが私を探り出してきた。
休みの日はスマホで漫画を読むか、服買うか、上京してきた地元の友達と飲むくらいしかしていない。土日の片方は溜まった洗濯やら家事やらで一日潰れるし、打ち込める趣味もこれと言って無い。

 「買い物かな、服とか見るの好きだから」

 いつも通り、こう答えている。無難でしょ?

 「Toruさんは?」

 そういうあなたは何かしているの?笑

 「おれはフェス行くのと写真かな、カメラやってるんだ」

 「へー!カメラやってるんだ、どんな写真とるの?」

 カメラかぁ、カメラ好きな人多いよねぇ、私はあんまり興味ないんだけど。写真集とかみるのは好きだけど、撮りたいとは思ったことないかなぁ。

 「人とか、場所とか色々とってるよ。あと名前呼ぶ時、”さん”つけなくていいよ、普通にToruって呼んでw」

 でた、呼び捨て解禁。早速親近感を湧かせようとしにきてる笑
結構大人っぽいから、私はToruさんって呼ぶのも気に入っていたけどなぁ……まぁ、流れに合わせるか。

 「えぇ、一応年上だから気を遣ってたけど、わかった、Toru笑」

 「うん、そっちの方がいいw」

 お酒も入って、気分も良くなってきた。Toruくん、普通にたくさん話聞いてくれるし、楽しいな。

 バルで3時間ほどが経過した。話が盛り上がったからか、意外と長居した。

 お酒で体は熱いけど、意識は全然大丈夫。酔ってはない。

 「まだ9時半だし、別の店で飲み直すか、シーシャでも行かない?」

 Toruくんが切り出した。

 うん、いいね!わたしもそろそろお店変えたいと思ってた!シーシャ吸ったことないなぁ。

 「シーシャ行ったことないけど、興味あるかも」

 私たちはバルを出て、シーシャバーに行くことにした。

 シーシャバーには薄暗い店内に、数人のお客さんが一人ずつ座ってくつろいでいる。落ち着きのある店員さんが奥の二人がけのソファ席に案内してくれた。シーシャバーってなんだか、もっと腐敗している世界だと勝手に想像していたけど、意外とおしゃれで落ち着く場所だな〜。

 私たちは、ソファに腰を下ろした。

 「シーシャって、どうやって吸うの?」

 純粋にわからなかったので聞いてみた。

 「マックシェイクを吸うのと同じ勢いで吸って、口を開けてゆっくり吐き出せばいいんだよ。香りを楽しむものだから、煙は口に含むだけで、肺には入れないようにね」

 へー、マックシェイクか。わかりやすい!

 私たちはシーシャの香りに癒されながら、何気ない会話でくつろいだ。今のところ、この人全然ありだなぁ。

 「ごめん、ちょっとトイレ」

 Toruくんがトイレに行った。
この間に時計を見たら、終電まであと1時間を切っていた。まだ、帰りたくない。

 「お待たせ」

 Toruくんは自然と私の背もたれに右腕を伸ばしてきた。
いやぁ、この男、慣れてるなぁ笑
私は緊張をほぐすために、勢いよくシーシャの煙を吐いた。

 「そのピアス、mikkoちゃんによく似合ってるね」

 Toruくんはピアスに気づいてくれた。去年、初のボーナスで買ったダイヤのピアスだ。嬉しい。

 でも、こういう男はみんなに言ってるのを知っている。けど、嬉しい…

 Toruくんはピアスを良く見たいのか、私の髪を避けて、耳に触れた。


 突然の刺激に背中が反応し、私の心臓はキュッと締まった。私は耳に触れられるのが弱い。

 いや、そもそもToruくんはこの状況でなんで落ち着き払って触っているわけ?

 急に耳触るのは反則でしょ。危うく声が漏れるところだった。

 でも、憎くはないから私は気にしないそぶりを見せた。

 「いいでしょ、気に入ってるの♪」

 精一杯の抵抗だった。ここで簡単に落ちるようでは尻軽な女だと思われる。


 それから2時間がたち、とっくに終電が無くなった頃に二人は店を出ることにした。

 店の階段を下る際、前を行くToruくんは、振り返り「足下気をつけて」と声をかけ、私の手を握った。

 これはアリ。急な階段だったし、普通に嬉しい。

 あぁ、あっという間にデート終わっちゃったなぁ。またToruくんに会いたいな。

 「明日の予定は朝早い?」Toruくんは聞いてきた。

 「ううん、午後から友達と会うだけ。なんで?」

 これは誘われるのかも……
でも、このタイミングで「帰る?それともどっか行く?」と聞かれたら、私は女の子なので帰らなくちゃ行けない。頼むから私に答えを振らないで……

 「まだバイバイしたくないな、おれんちで飲み直そうよ。ここからタクシーで10分くらいだから」

 助かったぁ……終電もう無いし、この誘われ方なら仕方ないよね。

 「お邪魔してもいいの?」

 「大歓迎w」

 私たちは手を握りながら恵比寿のタクシー乗り場に向かった。


 翌朝5時

 変な時間に目が覚めた。まだ外は暗い。

 ベッドには昨日恵比寿でデートしたToruくんが横でスヤスヤと寝ていた。

 寝顔が可愛い。

 セックスは淡白で荒々しかった。前戯はキスと指くらいで、体全体を包んでくれるタイプではなかった。そもそもこの人のキスが苦手だった。唇を越して鼻のあたりまで舐めてくるし、執拗に舌を入れてきた。もっと柔らかくて、温かくて、優しいのが好き。ご子息は硬くてなかなかご立派だったけど、あんまり濡れていなかったから痛かった。

 もっと濡れていれば、激しく壊れるほどしてほしい。首とか締められるのが好きだけど、それを言うと引かれちゃうかもだから、今日は我慢した。

 私、何やってるんだろう。

 寝不足と二日酔いからか、急に疲れがどっと押し寄せてきた。

 私は床に散らばった下着を付けて、もう一度ベッドに潜り、二度寝した。


 翌朝9時半

 背後に気配を感じた。Toruくんが起きたみたい。あれから何時間経ったのだろう。まぶた越しに、太陽の光が確認できた。

 「んぅ…おはよぅ」

 だいぶ寝られた気がする。

 「おはよ、よく眠れた?」
 
 Toruくんが聞いてきた。顔はイケメンだ。

 「うん……あ、今何時?」

 割と太陽が昇っている気がする。

 「9時半だよ」

 「え、やばい!急いで支度しなきゃ!」

 私は慌ててベッドから飛び起きた。今日は地元の友達が東京に遊びに来ているから、ランチする予定だ。
 一回家に帰って支度し直す時間を考えると、すぐ出なきゃ。これはすっぴんで帰るしかない。

 「Toruくん、マスクとか持ってる?」

 「あるよ、男用だけど、ハイ」

 Toruくんナイス!!!

 私はそそくさとワンピースを履き、マスクを付けて、バッグに荷物をまとめた。

 「なんだか慌ただしくてごめんね」

 いや、ほんとごめん。

 「ううん、おれこそ、起こさなくてごめん」

 優しい。でも、この人の言葉は毎回他人行儀のように感じる。ファーストフード店の店員さんのような、そんな感じ。

 「昨日は楽しかった、ありがとう!バイバイ〜」

 もう、会わなくていいや。

 今日会う地元の友達に心情を聞いてもらってスッキリしちゃおっと。

 「うん、またね」

 パンツ姿のToruくんが手を振っている。

 私は玄関のドアを素早く離した。

 バタンッ



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