紫織零桜☆

ゆるりと小説を書いていきます。 つたない文章ですが、楽しんで読んで頂けたら嬉しいです!…

紫織零桜☆

ゆるりと小説を書いていきます。 つたない文章ですが、楽しんで読んで頂けたら嬉しいです! ✳️『不思議の国のカギ』『ユリテルド村の村長』『ハロゲンワークス』完結 ✳️『瑠璃色の瞳』続編は2024年2月より、毎週土曜日に更新中 🌸作品ごとにマガジンも作成してあるので、ぜひご活用下さい🌸

最近の記事

小説|瑠璃色の瞳2(7)

「ーーーーテヌートさん」 芽依の屋敷。城の兵士達は帰ってしまったのか、門番は今、テヌートしか居なかった。 トキが堂々と話しかけても、誰も気に留めない。芽依は既に中で、三津流に説明している頃だろう。 「残るんですか?」 「……お前が居れば大丈夫だろ」 テヌートは横目にトキを見る。 トキは何かを考えるような間を取ってから、言葉を発した。 「……芽依に、何か頼まれたんですか?」 先程到着した芽依は、テヌートと会話をしてから中に入っていった。その時からか、テヌートの表情が少

    • 小説|瑠璃色の瞳2(6)

      市民の避難が一通り落ち着き、皆が聖宮に戻った後、芽依は竜樹と別れ、城へ向かった。 靄が消えてから、市場は特に何事もない。逆にそれが不安を覚えはするが、気配もない故に靄が消えた先の特定も不可能だ。 ともかくその件は、屋敷に帰ってからテヌートに相談する事にして、今は陛下との豊潤祭の対応について集中しなければ。 国が不安定な今、政を成功させる事の意義は大きい。 それは、国王や聖女である自分が一番良く分かっている。 国王が会議等を執り行う広間の扉の前で、芽依は一度ゆっくりと深呼吸を

      • 小説|瑠璃色の瞳2(5)

        (……ーーーーおいで) …………声が、する。頭の中に反響する静かな声。 呼んでいる。……だれ。誰が、呼んでいるのだろう。 (…………さあ……おいでーーーー) ーーーー唐突に。 今まで重く閉じられていた枢の瞼が微かに震え、ゆっくりと持ち上がる。そのまま起き上がり、扉へと向かう。その瞳に感情はなく、ただ虚空を見つめるのみ。 「え……枢殿?」 見張りをしていた兵士が、突然中から扉が開いた事に対し、驚きの声を上げる。しかし、こちらには目も向けずに歩き出す枢。兵士二人は配目し

        • 小説|瑠璃色の瞳2(4)

          朝のお祈りが終わり、休む間もなく芽依は聖宮の入り口近くにある少し広めの療養所へと入る。 そこには具合が悪く顔色が優れない人々が数人、壁に体を寄りかからせていた。 芽依はその中の一人の傍らに立つと、膝を折って視線を合わせる。 「……ーーーーどうなさいました」 透き通るような声が部屋に静かに響く。既にその表情は、凛とした聖女のもので。 青ざめた顔で芽依を見上げるのは、中性的な顔をした若い女性だった。 腕の中には、まだ一、二歳程度の男の子が眠っている。 「…………あぁ……聖女

        小説|瑠璃色の瞳2(7)

        マガジン

        • 小説|瑠璃色の瞳2
          7本
        • 小説|瑠璃色の瞳
          17本
        • 小説|ハロゲンワークス
          21本
        • 小説|ユリテルド村の村長
          16本
        • 小説|不思議の国のカギ
          23本

        記事

          小説|瑠璃色の瞳2(3)

          王城の内部にある兵士の訓練場。 複数の兵士が見守る中、キィンと剣同士がぶつかる。 「……くっ」 何十合と剣を打ち合い、裕祇斗が剣を横に薙ぐ。対峙する青年はそれを受け止めると刃をずらし、剣をスライドさせる。それが喉元へ届く寸前で、裕祇斗はその剣を弾き、距離をとる。 「……へぇ」 青年が感心したように目を細めた。二人が剣を構え直す。 剣を片手で持ち、優雅な姿勢で構える相手には一切の隙もない。裕祇斗は腰を低くし、足を蹴る。しかし、一瞬早く地を蹴った青年は勢いそのままに裕祇斗

          小説|瑠璃色の瞳2(3)

          小説|瑠璃色の瞳2(2)

          ぴたん、ぴたんと天井から水滴が落ちる音だけが静寂で支配された部屋に微かに響く。 穢れを祓い、身を清める為、冷たい水に入り、目を瞑ったまま微動だにしない少女が一人。 宝珠の力によって壊れてしまった聖堂は、城の兵士や祭司達の手を借りて、早急に仮の聖堂が造られた。元あった場所に建て直しも進んではいるが、ほぼ全壊だったものを再建するのだ。早く見積もっても半年はかかってしまうだろう。 宝珠はヒビが入ってしまい、使用出来る状態ではなく、豊潤祭まであと三週間しかない現在、どうすべきか祭司と

          小説|瑠璃色の瞳2(2)

          小説|瑠璃色の瞳2(1)

          ーーーー人は、信じた者に裏切られた時。大事な人を殺された時。 絶望と共に深い悲しみや憎しみに襲われる。 不条理な世の中で、他人を恨む事は簡単だ。 簡単だから、哀しいのだ。 「…………大切な者など、作るからそうなる」 何処かの建物の中。そこに胡座をかき、後ろの床に手を着いて天井を見上げる影が呟く。 無条件に信じるから、裏切られる。それでも人間は、大切な者を作り続ける。 どんなに時が流れても、変わらず、永遠に。 その感情を利用する者がいるとも知らないで。 「…………恨み……

          小説|瑠璃色の瞳2(1)

          小説|瑠璃色の瞳(17)最終話

          夜が明けぬ内に、屋敷へと戻ってきた芽依達。 未だに目覚めないトキを芽依の部屋に運び、布団を敷いて横にさせる。 一息つかずに三津流の部屋に顔を出したが、本人は熟睡しており、裕祇斗が朝まで付いていてくれると言ったので、そのまま任せてきた。 ……随分と迷惑をかけてしまったし、後で裕祇斗と忠文に何かお礼をしないとな……とぼんやりした頭で考える。 そもそも、穢れを浄化する為に屋敷に戻らず聖堂に居たはずなのに、聖堂そのものが壊れてしまった為、屋敷に戻らざるをえなくなってしまった。 聖堂が

          小説|瑠璃色の瞳(17)最終話

          小説|瑠璃色の瞳(16)

          「ーーーー……」 芽依の言葉を聞いて、トキの表情が、若干……けれども先程までとは明らかに変化する。 瞼を震わせ、彼の瞳に微かに光が宿った。 ーーーー刹那。辺りを満たしていた白い輝きが、徐々にトキに集まり始める。 「……ーーーー」 光が完全に彼を包み込む。 その時。 パンッと黒い輝きが弾け、今までトキを追い詰めていた自身の魔王の力が凪ぐ。だが、消えたわけではない。 静かに燃える炎のように、トキの内側で確かに存在している。 テヌートはその光景を上空から眺める。 「…………

          小説|瑠璃色の瞳(16)

          小説|瑠璃色の瞳(15)

          聖宮の上空で、二人の死神が睨み合う。 ぴくり、とリーフィアの眉が反射的に動いた。 「…………気配が……」 屋敷に向かわせた悪魔の気配が消えている。 あれは魔王から与えられたリーフィアの使い魔だ。 普通なら攻撃はおろか、触れる事すら出来ないはず。 そんなリーフィアの考えを読んでか、テヌートは口を開く。 「……裕祇斗はこの国の王子だ。芽依は太陽神の分御霊だが、王族は太陽神の末裔……。ただの人間じゃねーからな」 「………………」 リーフィアは無言でテヌートを見下ろす。そのま

          小説|瑠璃色の瞳(15)

          小説|瑠璃色の瞳(14)

          その頃裕祇斗は、多方面から向かい来る獣に苦戦を強いられていた。 獣は休む間もなく襲いかかってくるし、斬ってもすぐに再生する。 羽の悪魔に近付こうにも、まずこの獣を何とかしなければ身動きが取れない。 それに、無理に近付いて逃げられてしまっては元も子もない。 あくまでも一瞬で、しかも確実に仕留めるには、彼らの隙を突くしかない。 だが……。 「……一人で陽動と攻撃って……無理があるだろ……」 一人でいるからか、思わず本音が口から溢れる。だが、戦う理由があるから、裕祇斗は手を止め

          小説|瑠璃色の瞳(14)

          小説|瑠璃色の瞳(13)

          ーーーー刹那、バチッと一瞬光が弾け、再び凄まじい爆発が起こる。 「……っ……!!」 「……ーーーー」 土煙が上がり、前が砂で覆われる。強い衝撃にバランスを崩して床に手を着いた。 ……しかし、時間が経っても体に異常が感じられないのを訝しんで薄く目を開けると、砂嵐の中で、バチバチと黒い静電気のようなものが視界を横切った。 段々と視界が晴れ、周りが見えるようになって漸く、芽依はその黒い静電気がトキの体から放たれているのだと分かった。 「……トキ、くん……?」 初めは、自分を

          小説|瑠璃色の瞳(13)

          小説|瑠璃色の瞳(12)

          全速力で聖堂まで走ってきた芽依は、息も絶え絶えの状態のまま、その無惨な景色を前に瞠目する。 聖堂はほぼ全壊に近い状態で、大理石で造られた壁も柱も、焼き尽くされていた。 「ど……して…………こんな……」 「…………っ……」 茫然と立ち尽くす芽依の耳に、微かな呻き声が聞こえ、はっとしてその声の主を探す。 すると、聖堂の中央付近に、瓦礫に足を捕られたまま微動だにせず倒れている少女が目に映る。 「…………枢っ!?」 慌てて駆け寄り、怪我の状態を確かめる。破片が飛び散ったのか、

          小説|瑠璃色の瞳(12)

          小説|瑠璃色の瞳(11)

          聖堂から歩いて三十分はかかる芽依の屋敷。 その一室で、三津流と並ぶように横になっていた裕祇斗が、ふと瞼を上げる。 「ーーーー……」 …………耳鳴りがする。 上体を起こし、隣の三津流を横目で見るも、特に異常はなさそうだった。穏やかに眠る少年の掛け布団を直してやり、裕祇斗は部屋から廊下に出る。 「………………」 ……静か過ぎると思った。 夜の影響もあるだろうが、それでも、何の声も聞こえないのは少しおかしい。 ーーーーだが、耳鳴りは依然として続く。 時折近くで。時折金切り声

          小説|瑠璃色の瞳(11)

          小説|瑠璃色の瞳(10)

          夕日が水平線に差し掛かり、空が次第に暗くなり始める。 枢は散らかった倉庫の片付けを終え、扉を閉める。 非常事態という事もあり、普段は立ち入ることが許されていない枢達も、鍵の間に入って道具の整頓を手伝っていた。 扉は仮のものだが、急遽役人に頼んで造らせた。 施錠は戻ってきた祭司が行った。鍵のかけ方は見ないようにしていたが、しっかり鍵が掛けられているのを見て、ほっと息をつく。 「……先程、陛下とも話し合ってきた。豊潤祭まではまだ日があるが、宝珠は必要不可欠なものだ。捜索は明日か

          小説|瑠璃色の瞳(10)

          小説|瑠璃色の瞳(9)

          ざわざわ、と風で木々が揺れる中、それとは違うざわめきを感じ、テヌートはその気配の方向に視線を投じた。 城の兵や神官らしき男達が、芽依と裕祇斗に何か話をしているのが確認出来る。 相当焦って来たのだろう。男達は汗だくで、切羽詰まった様子だった。 随分場所は離れているが、死神の視力は並外れて高いため細かい仕草まで見通せる。 テヌートも最初は黙って観察していたが、ふと、彼らの背後から不穏なものを感じとる。 ……頭に、僅かに聞こえ始める警笛音。 テヌートは顎に当てていた手を離し、じっと

          小説|瑠璃色の瞳(9)