お薬手帳の効用

 おくすり手帳、持っていますか。薬局で渡されて、そのまま、なんとなく家に置きっぱなしになっていませんか。お薬手帳の使用にはいくつかのメリットがあるので紹介します。併せて、考えられ得るデメリットについても紹介します。

メリット1. 薬代が割り引かれる

 お薬手帳の使用によって、再診の際の「薬剤服用歴管理指導料」が令和2年度では14点減点となります。1点は10円相当です。
 つまり、自己負担額が3割の場合は、毎回の調剤時に40-50円程度が割り引かれます。特に通院回数が一般の人より多い障害者にとっては恩恵があります。

 仮に週に1回通院、40円減額とするとすれば1年間で52週、すなわち52*40=2080円。
 2週に1回通院するとすれば1年間で (52/2)*40=1040円。
 1年でランチ1, 2回分程度は得になります。

 ちなみに、平成30年度時点では減点が12点でした。今後、徐々にお薬手帳による減額幅は大きくなるかもしれませんね。

メリット2. 効果の重複をはじめとする、飲み合わせの問題を回避しやすい

 風邪を引いた程度でもらう薬は、飲み忘れが問題になるケースはほとんどありません。しかし、障害と認定される程度の疾患の場合、飲み合わせの悪い薬が存在する場合があります。

 例えば、ADHDの薬であるストラテラやコンサータはいずれもある種のうつ病の薬(MAO: モノアミン酸化酵素阻害薬)と同時に飲むことは危険なので、禁じられています。これは、ドーパミン等のモノアミンを制御する効果が重複してしまう危険性があるためです。お薬手帳を薬局の薬剤師に提示すると、複数の病院から出された薬を確認して、飲み合わせの問題が生じないように気遣ってくれます。これによって、私たちはより安全に薬を使うことができます。

 別の例も挙げましょう。交通事故などで意識不明な場合にもお薬手帳が利用される場合があります。交通事故で万が一、心原性ショックとよばれる状態が生じた場合、昇圧薬が使用される場合があります。しかし、ストラテラは昇圧薬との組み合わせに注意が必要です。お薬手帳によって医師がストラテラを飲んでいると知ることができれば、状況に応じて昇圧薬の使用を回避したり、量を調節することができます。これによって、私たちが副作用に直面する可能性を下げることができます。

メリット3. 薬の使用履歴が証明できる

 薬の使用によってなんらかの不利益を被った際に、その証明の材料の一つとなります。例えば、薬で万が一アレルギーが生じた場合、薬の使用履歴を証明することができます。

デメリット1. 個人情報漏洩リスク

 お薬手帳を使うデメリットは個人情報が漏れて悪用されるリスクでしょう。なんとなく、怖いですね。ただし、この怖さが必ずしもすぐになんらかの被害をもたらすとは限りません。具体的に、薬の使用履歴が漏洩した際にどのようなリスクがあるでしょうか。

 一定の知識がある人(薬剤師・医師など)の目から見れば、もちろんお薬手帳から病歴を推測することは可能でしょう。その結果、例えば病歴を吹聴される可能性はあります。なんらかの理由で病歴を吹聴されることをリスクと感じる人にとって、薬の使用履歴の漏洩はリスクです。
(ただし、病歴が吹聴されることがリスクとなる社会は、社会自体が差別的であるともいえます。)

 あるいは、保険会社等はその人の病歴を担保する情報として利用できるかもしれません。保険会社等に秘密の病歴がある人にとっては、お薬手帳の使用はリスクになるかもしれません。ただし、秘密裏に入手した情報を使用していることが公になった場合、その保険会社等の信用は間違いなく落ちると私は確信します。保険会社等にとっても、漏洩した個人情報の使用はリスクです。

 以上の観点から見れば、薬の使用履歴が漏洩した場合の具体的な使用方法は限定的です。一方で、私がすべての可能性を挙げられているわけではありません。未知のリスクは当然あります。
 具体的なメリットと未知のリスクを比べたときに、なんとなくの怖さを許容できるかどうかを、あなたが選択する必要があります。

最後に:スマートフォン版をオススメ

 お薬手帳は、スマートフォンのアプリ版もあります。私もアプリを利用しています。私は紙媒体のお薬手帳を度々家に置き忘れていましたが、スマートフォンはいつも持ち歩いているので、置き忘れが生じていません。お勧めします。

 それでは、よい一日をお過ごしください。


参考

調剤報酬点数表(令和2年4月1日施行)
https://ikuseikai.org/pharmacy/img/point.pdf

10 薬剤服用歴管理指導料 - 平成30年調剤報酬点数表
http://tensuhyo.html.xdomain.jp/30/t/10.html

医療用医薬品 : ストラテラ
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00060723

医療用医薬品 : コンサータ
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00062727

うつ病の薬物治療 - 08. 精神障害 - MSDマニュアル プロフェッショナル版
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB/08-%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E6%B0%97%E5%88%86%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E3%81%86%E3%81%A4%E7%97%85%E3%81%AE%E8%96%AC%E7%89%A9%E6%B2%BB%E7%99%82

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https://bit.ly/3jD3eY1

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