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労働者よりも低所得資産持ちが優位な国。


住民税非課税世帯から還元は適切なのか?

 増税メガネの揶揄が効いたのか、「税収増を国民に還元すべきと考える」と、経済対策で「減税」の表現が用いられた。恐らく初めてのことである。それとメガネに罪はない。

 とはいえ、これまで「次元の異なる少子化対策」で、財務省の方向を向いた増税とばら撒きありきの異次元具合や、「成長なくして分配なし」が、実は成長を無にして、分配も無くすというニュアンスだったと思える現状の舵取り具合から、確かに嘘は付いていないが、屁理屈を捏ねているようにしか思えない発言のデパートで、期待するのは禁物だ。

 これまでの傾向を踏まえると、今回は「成長の成果である税収増を〜」の前置きがあることから、税収増が成長の成果によるものと認められなければ、国民に還元する必要はないとも捉えられる。

 現に、9/26時点で分かっている情報では、住民税非課税世帯を軸とした低所得者向けの給付と、大して税金を納めていない世帯が、真っ先に給付の恩恵を受けることを意味する。

 蓋を開けてみると、非課税世帯の実に72.5%が65歳以上。年金を繰上げ受給できる60歳まで含めれば実に78%と、およそ8割を占める。これでは大多数の高齢者に給付する、シルバーデモクラシー故のご機嫌取り感が強く、冒頭で引用した「国民」に、そもそも我々現役世代が含まれているかすら怪しい。

 そもそも住民税非課税世帯とは、単身者のケースで年収98万円以下の場合に、基礎控除(43万円)+給与所得控除(55万円)により、税の計算上、課税所得がゼロとなるため、一律10%の住民税が免除されている世帯である。

 確かに年収98万円以下の暮らしは、一般論で中々にキツいと認識されているからこそ、合法的に無税が認められている。

 昨今の物価上昇があるため、非課税世帯への経済支援策がけしからんとは思わないが、まずは住民税非課税世帯から漏れてしまい、住民税、所得税、社会保険料を真っ当に支払っている、非正規雇用を中心とした低所得者層から還元するのが筋だと思うが、いかがだろうか。

数字よりも、控除の内訳が重要。

 ここで年収98万円に違和感を覚えた方は勘が鋭い。一般的に専業主婦(夫)世帯は、103万円の壁を意識するが、こちらは所得税の話で、住民税はそれより基礎控除が5万円少ない。

 そのため、パートやアルバイトを年間103万円ギリギリで抑えると、年収にしてたった5万円の差でも、そこに対して10%の住民税が発生する。

 これがあまり意識されていないように思えるのは、「103万円の壁」という言葉だけが一人歩きして、なんとかの一つ覚えでとにかく年収は103万円に抑えたら、よく分からないけど得である的な、金融リテラシーの低さから来るのだろう。

 学校教育にありがちな、無機質な数字や単語の羅列を覚えるだけでは、実学として何の役にも立たない。重要なのは103万円という数字ではなく、住民税ベースで見た各種控除の内訳である。

 基礎控除43万円は超高年収でなければ、誰にでも使えるものだが、給与所得控除のボトムである55万円は当たり前だが給与所得、つまり労働者でないと使えない。

 仮に失業した単身者で再就職先が見つからないから、1年間暗号資産の売買で生計立て、雑所得は98万円までで調整した場合、基礎控除の43万円しか使えないため、55万円に対して課税され、住民税非課税世帯ではない。

 実態としては低所得者層と大差ない所得にも関わらず、所得の内訳が違うだけで、今回のような給付から抜け漏れてしまう。だからこそ個人が控除の中身を知ることが重要なのだ。

ズルいと思うなら知恵を絞る。

 なぜ高齢者は給与所得控除が使えないにも関わらず、住民税非課税世帯となるのかの鍵は公的年金控除にある。国民年金の満額が年78万円。人によってこれプラス厚生年金が上乗せされるため、基礎控除だけでは課税所得が発生する。

 しかし、公的年金控除の存在があることで、65歳未満でも最低70万円、基礎控除と合わせて113万円〜、65歳以上なら最低120万円、基礎控除と合わせて163万円〜が控除される。

 ざっくり、毎月10万円程度の年金暮らしなら、住民税非課税世帯として税金を納めることなく、それでいて低所得者層としての経済支援の恩恵に預かれる訳である。

 公的年金控除がない現役世代からすれば、同じ芸当は使えないのだから不公平感の塊だが、不思議なことに給与所得控除を見直すことを示唆することはあっても、公的年金控除の見直しは誰も言わない辺りが、やはりこの国がシルバーデモクラシーたる所以なのだろう。

 とはいえ、単に高齢者有利な税制だと嘆いたところで何も始まらないため、ズルいと思うなら自分も住民税非課税世帯になってしまえば良い。

 年収43万円の生活なんて勘弁…と思うかもしれないが、金融資産所得は分離課税と言って、個人の所得とは切り離されて、利益に対して一律20.315%が源泉徴収される、資本家に都合の良い税制だけでなく、2024年からのNISAをフル活用すれば、取得額で1,800万円まで非課税で運用できる。

 年率4%で運用すれば年72万円、月6万円と、国民年金の満額である78万円に匹敵するインカムを非課税で得られる訳だ。

 これにフードデリバリーなど、何でも良いが月3〜4万円稼げる何かを組み合わせることで、月10万円程度の暮らしながら、住民税、所得税ともに非課税。国民年金は全額免除。

 健康保険税も総所得43万円以内なら7割減免(年2〜3万円)という、合法的にほぼ無税で生活が可能となる。それでいて住民税非課税世帯は、冒頭のような社会的支援を真っ先に受けられる。

 生活保護と大差ない手取り13万円前後で、働けど暮らしは楽にならない安い国で、労働者として消耗するくらいなら、生活レベルを月10万円程度まで引き締め、資産形成によって働かずに不労所得メインにダラダラ暮らす方が、どうせ同じ貧乏なら、働かない方がマシだと思うのは私だけではないだろう。

 富が富を産む資本主義社会と、弱者に優しい民主主義社会という、決して混ざり合うことのない、水と油のような関係のハイブリッド型社会をハックした結果、労働しない低所得資産持ちが税制上、最も理にかなっているのは皮肉が効いている。

 国家が低所得資産持ちを切り捨てるためには、資本家と社会的弱者を切り捨てる形での、税制や社会保障改革が必要となるため、パンピー労働者よりも分厚い壁で守られている感があるのだから不思議な世の中ではある。


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