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京葉線の通勤快速廃止騒動。


元鉄道員が感じたJRの本音と建前。

 ダイヤ改正とは名ばかりで、鉄道会社側がコストカットをしたいだけの改悪は往々にしてあるが、24年3月に実施予定だった、京葉線のダイヤ改正が、猛反発を受けて異例の見直しとなった。

 元々民鉄に勤めていた身として、長距離通勤利用者を、新設する特急に誘導したい「本音」は口が裂けても言えないため、仕方なしに混雑の平準化を図るためと、薄っぺらい「建前」を並べたところ、納得し難い通勤快速廃止という結果から大ブーイングとなり、この騒動に至ったと考えている。

 鉄道会社は公共交通機関でありながら、一部のJRや大手私鉄は上場企業として、営利目的で事業を運営しなければならず、公共性と営利性という相反する性質のバランスをとらなければならない、構造上の矛盾を抱えている。

 地域住民に寄り添えば、モノ言う株主から利益が出ていないと尻を叩かれ、株主が満足する利益を上げようとすれば、利用者から大ブーイングとなる訳で、JR法があるとはいえ、素直に通勤快速利用者は特急使ってね!とは口が裂けても言えない空気感は色々と考えさせられる。

ダイヤ改正考察。

通勤快速廃止前のダイヤ。

 通勤快速の停車駅を見ると蘇我-新木場間ノンストップで、特急列車が設定されている路線とは思えない程度に、これまでが椀飯振る舞いだったとも捉えられる。

 そんな長距離利用者の足となっている通勤快速だが、乗車率が7割程度と京葉線で設定している通勤電車の中で、最も乗車率が低い状態で推移していた。

 京葉線の使用車両である、E233系電車の6両+4両分割編成の定員は1,528人。乗車率7割程度で1,070人程度が乗車している計算となる。座席定員は480人となっていることから、乗客の2人に1人が座っている感覚が近い。

全車指定席化される「さざなみ」

 通勤快速が廃止となった場合、東京駅まで通勤していた利用者が取り得る選択としては、これまでよりも朝20分早く家を出て、時間の掛かる普通電車に乗るか、時間の近い特急列車に乗るかの、究極の二択となる。

 余談となるが、E257系電車5両編成の座席定員が306人となっており、今回のダイヤ改正で自由席を取りやめ、全車指定席となることから、自由席が混雑して、指定席が空いている傾向にあった、これまでの状況がどう変化するのか、予測できない部分が大きい。

 ただ、さざなみ6号はこれまで255系9両で運転していたものを、E257系5両に減車することからも、朝の通勤時間帯に走行している特急の乗車率は、肌感覚として採算が合うほどではなかった可能性が高い。

 つまり、廃止となる通勤快速2本(2784A列車、2606A列車)が、東京までの利用者が過半だと仮定すれば、これまで通勤快速で座って通勤していた人の半数程度を、さざなみ4、6号に移行して貰う形で、特急の乗車率及び採算の改善と、各駅停車の混雑率緩和を当初は狙っていたのではないかと思われ、それが混雑の平準化の建前に繋がったのではないだろうか。

データアルゴリズムを駆使し、最適なダイヤが柔軟に設定されるMaaSな未来。

 とはいえ、特急列車に乗るには特急券が必要な訳で、蘇我-東京間の特急料金はえきねっとチケットレスサービスを駆使しても660円と、パンピーの懐事情を鑑みると厳しい価格帯になる。しかも、所要時間は通勤快速と変わらない。

 サブスクが月額500円〜2000円程度の時代に、平日に毎朝660円(月20日利用で約1.3万円)を支払って、得られるのが移動の快適さだけなのだから、急に変更すれば利用者を逆撫でしかねないことくらい、容易に想像が付くわけで、その辺りに商売下手なJRの企業風土を、元業界人として感じてしまう。

 ただ、形だけでも早朝の快速2本を残すことで、沿線自治体に譲歩して来たのは異例中の異例で、鉄道各社とも、その気になれば柔軟にダイヤを修正できる希望が出てきたのは本騒動の収穫かも知れない。

 ダイヤ改正は結果ありきの出来レースであり、仮に変更内容が粗悪なもので、合理的な意見を労働組合を通して伝えたとしても、結果が覆ることはないのが業界人としての肌感覚だった。

 冒頭の株主と利用者がトレードオフの関係にあるように、路線内でも、ボロ儲けが許されない公共交通という制約の中で、採算を意識して短距離、中距離、長距離利用者の全員が満足できるようなダイヤを組むことは不可能である。

 だからこそ、MaaSの実現を意識して、改札の通過人員や、鉄道車両のモニタ装置で計測できる乗車率のビッグデータを駆使し、アルゴリズムによって最適なダイヤが柔軟に設定されるような、100点満点ではないが、与えられた条件の中で、最も合理的な運行計画が常に行われる未来があっても、良いのではないかと考える。

 平日ダイヤと土休日ダイヤに分け、決まった時刻で運行される画一的な移動サービスではなく、バスやタクシー、ライドシェアと連携する形で、A地点からB地点からまで移動したいという、潜在的な需要に応えるのが交通産業のあるべき姿だろう。

 最適なルートがいつも同じとは限らず、天候や地域行事や災害に伴う交通規制、輸送障害の状況によって、都度異なるマッチングとなっても不思議ではない。

 運行事業者側も国交相に届け出た運行計画を遵守するのではなく、雨天で積み残しが発生する見込みだから、それよりも前に増便して機会損失を抑える。採算が合わない時はライドシェアに振り替えて、運休するような柔軟性があっても許される風潮が必要ではないだろうか。

 その意味で、柔軟にダイヤを修正してきた本件は希望でもあるし、色々と考えさせられると表現した、特急使ってね!とは口が裂けても言えない空気感にも繋がってくる。


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