#049 暴走族がきこえる
あごが壊れて頭が上を向いたままのバッタみたいなバイクを先頭に、長い背もたれつきのシートで二人乗りが快適なバイクが何台かと、「魅羅狂婦麟(みらくるぷりん)」のノボリを立てたスクーターがまた何台か。
合計何台なのか、何人いるかも定かでないが、走るうちに仲間がだんだん増えていく感じがする。
日の丸がいっぱいあるし、木刀を担いでいるし、ホーンがパラリロ鳴っている。
私は徒歩より遅い蛇行運転のバイク達を後ろから眺める形で、立派なちりとり付きのシャコタンカーを運転していた。
助手席には、くるくるパーマで真っ赤なリップの子が座っていて、窓の外に力なく垂れた手の先から、タバコの煙が燻っている。
難しい漢字の刺繍が入ったつなぎがはだけて、サラシを巻いた胸が見えている。
みんなマスクをしているし、私もだいたい同じ格好をしているから、ここが日本で私たちがレディースなのは間違いない。
「もうすぐだぜ」
助手席からそう聞こえたかと思えば、もうみんなバイクを止めて立ち尽くしていた。
ずいぶんな峠の急カーブだったが、錆びついたカーブミラーの下にはワンカップの日本酒と花束が置かれていて、そこにピンクの便箋が添えてあった。
「読んでよ総長」
どうやら私は総長のようなので、便箋を開けることにした。
手紙だと思うが「100歳になりました」と書かれたあとには、ひたすら名前を羅列してあり、最後にひとこと「忘れない」とあった。
名前を読み上げるごとに、一人またひとりと峠の霧に溶け込むように消えていった。
赤リップもいなくなって、最後に「カズコ」と書かれた名前を読むと、私の体も白くて湿った霧に同化した。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?