見出し画像

#141 寝ホンをめぐる冒険

 その言葉が、いつから現れたかは記憶にないが、今やメーカーですらそれを意識した製品を開発するという程度には、定着した使用法である、寝ホン。寝ながらイヤホン(を使うこと)の略である。

 寝つけない夜や、寝るには少し早いが横になりたい時など、わたしもしばしば寝ホンをしている。本稿では、わたしが現在所有している製品の中から、寝ホン目線で優秀なものを改めてご紹介したい。

 改めて、というのは実のところ、これからお話しする製品のうち半分は、過去記事でも紹介済みの製品だからである。寝ホンとは関係なく、リーズナブルで高音質なイヤホンをお探しの方は、下記リンクの各記事も併せて参照されたい。

■final E1000

 あれ…これは前回記事でも一番最初に紹介したような…気がしますね。いいんです。寝ホンに事故はつきもの。寝ぼけていたとか、何かの拍子に断線させてしまっても、買い直しやすい価格の方が安心です。

 2,000円程度のイヤホンは、家電量販店のイヤホンコーナーに行けば、ブリスターパッケージの吊り下げでカラフルなものが沢山ありますが、そうした製品は派手な音色のもの(所謂、ドンシャリと言われる音)が多い印象です。

 E1000はきわめて大人しい、落ち着いた音です。無理をして価格以上に迫力のある音を聴かせようとはしない、ロースペックを逆手にとって、聴き心地の良さを追求したモデルだと感じます。翻って、寝ホンに最適な優しい音色のイヤホンだと評価しています。(体調がすぐれない時にも、ちょうどいい音でよく使います)

 人により好みはあるかと思いますが、スティック型の形状は寝ホンに好適です。頭の重みが、耳とイヤホンと枕の間で垂直にかかるイメージです。耳の奥まで刺さりすぎないように最適なイヤーピースを選べていれば、痛みも不快感もありません。

 そして幸いなことに、E1000の付属イヤーピースは単体売りもされているfinalのTYPE Eが付属します。これは寝ホン状態でも適度な反発力があり、使いやすいと思います。ちなみに私は、TYPE Eだと表面がサラッとしていて外れやすいので、TRN Tipsを使っています。TYPE Eが滑り落ちてしまう場合は、こちらがおすすめです。

■タンジジム ZERO

 はい、こちらも以前の記事に登場した機種ですね。先程のE1000と同じく、スティック型の形状で寝ホンに向いたデザインです。E1000と比べればやや寸胴ですが、個人的には許容範囲(痛くならない)です。

 先程のE1000はおすすめの第一選択なのですが、やはり音質面で妥協があることは否めません。寝ホンであろうが、高音質であることにはこだわりたい、というニーズに対応できるのが、このZEROです。中高域に透明感のある表現がお好みなら、寝ホンといわず、普段使いをしても十二分に満足できる製品です。上記リンク先は、一般的な3.5mmイヤホンジャックに繋ぐタイプですが、USB-C端子に直結できるバージョンもあります。

 実はUSB-C端子版も以前所有していたのですが、既に手放しているため、手元で比較できないのが悔しいところではありますが、ご参考までに。

 USB-C端子版はZERO DSPという商品名です。イヤホンジャックのないスマホでも、USB-C→イヤホンジャック変換ケーブルを使わずに直結できるという利便性に加えて、デジタルIC部分をZERO専用にチューニングできるため、音質も異なると言われています。

 水月雨やタンジジムの他機種でも同様の製品が増えてきており、iPhoneのUSB-C採用を皮切りに、こうした仕様は今後のトレンドとなる可能性もありますね。気になる方は、ググッてみてください。

■ag PITA

 とはいえ、寝ホンの理想はワイヤレスだと思います。有線だとケーブルの取り回しが気になって、リラックスするつもりが逆にイライラしてしまう、という事もあるからです。

 以前から気になっていた機種のひとつに、finalのサブブランド、agが販売しているPITAという製品がありました。なにせこれは公式に「寝そべっても痛みや圧迫感が少ない」と謳っている製品です。eイヤホンに良さげな中古が出ていたので、うっかり購入してしまいました。

中古Aランク品でした

 寝ホンではない通常使用の着け心地は、非常に良いと思います。音が出る以外の特別な機能は何もない機種ですが、その音質は、正直なところ新品価格で買っても後悔はしなかっただろうな、と感じる程度には良いですね。サブブランドとはいえ流石、finalが監修しているだけはあるな、と思いました。

 全体的に少し明るめの、中高域が明るく聞こえるようなチューニングだと思います。ポップス全般が映えると思いますが、それほどジャンルを問うような癖もない、誰にでも、どんなジャンルでも、自然な良い音だと受け入れやすい製品でしょう。

 ただし、褒めるのはここまでです。以前、final ZE3000を紹介した時にも書きましたが、タッチセンサーがあまりにも扱いにくい仕様です。ほんのちょっとイヤホンに触れただけでタッチ判定されるストレスで、使い始めた初日は、安眠には程遠い夜を過ごしました。これならタッチ操作など、できない方がまだマシなくらいだと思いました。

 この点については、ある程度は慣れの問題でもあります。使い慣れていくにつれ、イヤホンの位置を調整することが減っていき、またタッチ判定の範囲がつかめてくるため、誤タッチは減ります。ただし、ある程度使い慣れた実感のある今でも、一度も誤タッチをせずに過ごせる夜はありません。

 寝ホンとしての装着感ですが、私がこれまで使ったワイヤレスイヤホンの中では、確かに痛みや圧迫感は少ない方に入ると思います。しかしながら、劇的に異なるというほどでもなく、前述した有線イヤホン達の方が、よほど楽に装着できると感じました。

 いやしかし、ワイヤレスであること自体はやはり良いことなのです。音には満足しているので、タッチセンサーを改善した後継機が出たら、買ってしまうかもしれないな、というくらいには評価しています。final(ag)の音作りのセンスは信頼しているので、デジタル家電としての、使い勝手に関わる部分にはもうちょっと頑張ってほしいなと思います。

※余談ですが、デジタル家電としてのワイヤレスイヤホンの使い勝手、という点では過去記事でご紹介したTechnics EAH-AZ40M2の出来が非常に良く、アプリの分かりやすさと動作の安定性、誤タッチがほとんど起きない考え尽くされたデザインなど、その音質も含めて隅々まで素晴らしい出来であり、final(ag)製品の弱点はやはり音質以外のそういうところなんだな、と実感せざるを得ませんでした。がんばれfinal。

■おまけ:JVCケンウッド EP-S433(耳栓)

 おまけでもうひとつ、イヤホンではありませんが、安眠関連でおすすめしたいアイテムが、こちらの耳栓です。この商品、わたしが精神的にキテる時用(聴覚敏感になってしまい、あらゆる物音が気になる、音楽を聴くこともしんどいとき)に購入したものですが、とても良いものでした。

 まず、イヤホンをしているかのように見えるデザインがいい。外出先で使っても自然です。また、最大35dbの遮音性という、そこそこのノイズキャンセルイヤホン並の性能があります。イヤホンと違って音楽を流す訳ではないので、喧騒を自然にボリュームダウンできる感覚で使えます。電気的なノイズキャンセルではないため、ホワイトノイズ等もなく、当然ですが電池切れの心配もありません。

 そしてこれが何より重要なのですが、つけたまま横になって寝ても全く痛くありません。さすがに異物感がゼロということではないですが、わたしはこれをつけた状態でぐっすりと安眠できています。もし、この記事を読んでくださっている方で、寝ホンの目的が環境音のシャットアウトである場合は、耳栓も併せて検討されることをおすすめします。

 もし、音楽を聴くことそのものが目的ではなく、喧騒を遠ざけるために寝ホンをしている方や、就寝時間が周囲の住人と異なるため、リラックスできないために寝ホンをしている方には、むしろこちらの方がおすすめかもしれません。私は就寝時間が早いので、ほとんど毎日使っています。

 また、この製品については、下記の記事でも改めてご紹介いたしました。ご興味のある方は、併せてご覧ください。

■注意!寝ホンのために、枕を変えてはいけません!

 それと最後に、重要なことをお伝えします。寝ホンを快適にするために枕を買い替えることは(今の枕があなたに合っているのであれば)おすすめしません。枕はあくまで自分に合った高さや素材のものを選ぶべきで、寝ホンごときを考慮する必要はありません。

 私は一時的、中央部分に窪みがあって寝ホンに最適っぽい枕を使っていましたが、その頃、原因不明の肩こりに悩まされていました。数ヶ月間悩んだ後、なんとなく枕を以前から使っていたものに戻してみたところ、肩こりはあっという間に消え去りました。寝ホンよりも健康の方が大切です。枕選びは寝ホンを考慮せず、あくまでご自身の体型や寝相に合ったものを選びましょう。

それでは皆様、良いポタオデを。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?