音楽/マカロニえんぴつ「レモンパイ」/恋の踏切

マカロニえんぴつの楽曲「レモンパイ」がとてもとても好きなので、今回はその歌詞について書いていこうと思う。これを雑な導入と呼びます。

※個人の歌詞解釈を含みます。

「どうせ何百回も 会いに行く支度する」
「迷惑だったり する?」
「僕はまだちゃんと君をしらない」
「これ恋かもね そうだとしたらどうなんだ」
「どうせ神様だって気付いていないのです」

この短い間で二人の関係性がパッと明示されるの、歌詞の情報量としてあまりに適切すぎます。
どうやら「君」と「僕」がいるらしく、これは二人の恋の歌で、しかし付き合ってはいないよう。
片思い特有のいじらしさや酸っぱさ、もどかしさの代わりに「ずっとこんな状態なんだよ」と嘆息が聞こえてくるあたりがマカえんらしさだろう。

「君に触りたい」

サビの歌詞のまっすぐさ〜〜〜〜!!!!
あの、「性欲なんてない清らかな関係」とは別の純粋さをかんじる……………
「君に触りたい」って、その後ろにほのかにある性欲的な意味も含めてめちゃくちゃ“恋”だよな、と思います。ただべたべた触るのではなく、「きみに触ることが許される関係になりたい」という主旨なのだと文脈から読み取れる。そして畳み掛けるように「キスをしたい」……恋をしていること、欲を孕んでいることを衒いなく述べるようすに「ピュア」とは別の健やかさが見えるのでしょう。

しかし、サビは100%のポジティブでは構成されていません。

「夜の長さに飽きたのだ」
「甘くて残したレモンパイ」

ほんのりと余韻づいた苦み。「飽きた」「残した」その真意はなんなのかこの時点ではわからないまま、決してプラスではない言葉が並ぶ。
「キスをしたい」だって「揺れながら少し悲しい」キスをしたい、なのだ。きみに触ることができるのになんで悲しいの…?
「触りたい」「キスをしたい」と描かれた直後、それが叶うことの素晴らしさを描くのは定石だ。しかし、プラスなエネルギーは続かない。なぜなのか。レモンパイという、甘くて酸っぱい恋の象徴のようなアイテムをなぜ残してしまうのか。
そんな疑問を回収しないまま、一番が終わる。

・僕はきみのことが好きだが付き合っていない →なぜ付き合わないのか? どんな関係?

・僕はきみに触りたいし、キスをしたいし、そんな仲になりたいが、その未来は彼にとって100%良いものではない →僕はなぜそう思うのか?

頭に残ったことはこの二つ。二番に移ります。

「ワンツーのステップ・バイ・ステップ」
「日々No way、石の上slowで三年目」
「ゴミクズ、くすぶっておりますわ」
「こんな事いつまでやってんだって話」

二番はなんともかわいくて小気味良いラップパート。ステップ・バイ・ステップは“徐々に”と訳せるようです。これは二人の恋模様を表していることがなんとなくわかりますね、、
1、2で徐々に歩を進めるがどうしたら良いのかわからない日々。石の上にも三年というけど、チンタラしちゃって本当に意味あるのかしら?
意訳はこんなところが妥当だろうか。ここで一番の歌詞が効いてきます。

「鶴は千年 馬鹿は残念」

鶴は千年、亀は万年。縁起の良い長寿のシンボルとは裏腹に、馬鹿は短い命の中で好きな人を手に入れることもできず残念、はいはい。
そんな一番の投げやりニュアンスを上手に拾って二番で広げている。うまいです。にくい。

「君は触りたい?」
「照れながら 少し雑なキスをしよう」
「あまりに僕ら 怖がりで」
「甘すぎたようだ レモンパイ」

二番は「君は僕とそういう関係になりたいですか?」という疑問文に変化しています。一番では「キスをしたい」だった歌詞も「キスをしよう」と呼びかけている。
三言目からわかるように、上二つの問いかけも呼びかけも君には言えていないのでしょう。なぜならば怖かったから。「僕ら」からわかるように、怖いのは君もなのだろう。レモンパイを一番で残したのは、きっと甘すぎて味わえないから。
少しずつ解像度が上がり、二番が終わります。

「愛の歌 やけに嘘くせぇな」
「友だちでいよう」
「君に触ったら 終わるかな」
「終わってしまうかもな」

Cメロからラスサビ前、ここで全てが明かされます。構造がうますぎる。
僕らが恐れているのは、今の友だちでいることができる関係性の崩壊レモンパイは甘すぎるし愛の歌は嘘くさいし夜の長さには飽きてしまう(ここで長い夜が蜜夜のことだと理解できます)。
だから、いつまでチンタラやってんだと思いつつ、君に触りたいと思いつつ、「君に触りたいけど君は触りたいですか?」と問うことはできないまま、君と僕は今日まで来たわけです。

「でもすごく触りたい」
「揺れながら 少し悲しいキスをしたい」
「長い夜は一つ折りで二人占めに」
「甘すぎるくらいがいいね レモンパイ」

でも!!!!すごく!!!!さわりたい!!!!ラスサビの破壊力が強すぎる……はじめて聞いた時爆発するかと思いました。
恋人になるには甘すぎる、友人関係が崩れるのが怖すぎる。そんな思いを「触りたい」という恋が凌駕した瞬間です。いままで臆病やら嘘くささやら、なぜ関係が進まないのかを歌い蓄積されたエネルギーを「それでも触りたい」という一撃で吹き飛ばせるつよさ………

じゃあ、甘すぎて残しちゃうレモンパイは?
長すぎて飽きちゃう夜は?
そんなもの一つ折りにして、半分こにして、二人で食べちゃえばいいじゃん。それが僕の答えです。結局好きになったらぜんぶ好きで、二人ならぜんぶ許せてしまう。二人で分けるんだったら、レモンパイ、甘すぎるくらいがちょうどいいよね。そんな歌です、レモンパイ。

あっっっっっまい! すごくあまい、なのに微笑ましいと思ってしまう。親愛から恋へ移り変わる瞬間を、その躊躇いと踏切を、迷いすら一途に描いた楽曲です。ふたりで食べるレモンパイはきっとすごく甘い。甘いねって笑いながら、それでも二人占めして、楽しく食べるんだろう。

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