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喪服のおもい ②

ジュン(旦那)が倒れてその夜どう過ごしたかは覚えてないが
一人にはさせないと来てくれた友達のおかげでなんとか翌日を迎えた。
多分少し横にはなったものの眠れてはいないし一切食事も喉を通らなかった。

彼の実家の両親が朝一の飛行機で、北陸にいる妹家族たちは車で病院に向かっているとのことだった。

とにかく病院に行きたくなかった。全てから逃げたかった。

地に足がついてないとはよく言ったもので、自分の行動も体の感覚もそんな感じの中、友達の車で病院に行った。
(義父たちと一緒に病室にいた記憶はないので)
最初に私がそこで彼が倒れてから初めて会えた気がする。

ICU(集中治療室)は普通病棟とは違って思い鉄の扉の向こうにあり勝手に入ることはできない。
入り口にある受話器で中の看護師さんを呼び、許可が出てから入れるのだ。

ガラス越しのそれぞれ区切られた一室に彼はいた。
口や鼻、手などにいろんな管をつけられて、なんの反応もなく眠っているジュンがそこにいた。
私はそこでなんと声かけたのだろう…
そこで何をしていたのだろう…
全く思い出せない。
ただその場が息苦しくてそこにいるのは耐えられなかったことは覚えている。
実際ひどい話かもしれないが、彼のそばでずっといてあげたい、いたいとは思ってあげられず病室に長時間付き添うことは入院中なかった。またそれも許可されてはなかったように思う。


やがて都内にいる義妹が彼の両親を空港に迎えに行ってくれ、もうすぐ着くよと連絡が入る。
病院の外で待っていると3人の姿が見えた。
かけよって、とっさに口から出たのは「すみません..すみません」という言葉。
昨晩知らせを聞いてからどんな気持ちで行く用意をして、ここまで足を運んでくれたんだろうと思うと胸がしめつけられるようだった…
「なんでレイちゃんが謝るの?」そう妹が言ったが、私は頭を下げるだけで両親の顔を見れなかった。
そして3人は病室に向かい、私は遠慮した。

それから、昼から身内だけに主治医からの説明があるとのこと。
その時間はもう駆けつけてくれてる友達などもいて、ジュンが一緒に病気関係の本の仕事をしたライターさんと前日来てくれた友達に身内のふりをして医師の話を聞いてほしいとお願いし、出てもらった。
医師の話を全て理解できるかどうかわからない不安と現状を理解していてほしい気持ちがあったからだ。
彼の家族、私の姉夫婦、友達、けっこうな数で説明を聞いた。
レントゲンの画像をもとに、今の症状と、今後手術をするなら2通りあるその説明など、日常と遥かにかけはなれた長い難しい話が続いた。

最後になにか質問はありますか?と医師に聞かれ、誰も手をあげなかったが私だけが恐る恐る手をあげたことはしっかり覚えている。
自分だけが理解できていないのではないかと聞くかどうか迷ったが、こんな時に何を迷ってるのか、わからないなら聞いておかなきゃという思いだったか今では何を聞いたかも思い出せない。


最終、まとめると、医師のこちらへの問いは、手術をするか否か、そこだった。

医師の言葉を借りるなら、手術をしてももとの身体になるのは新聞に出てもいいほどの奇跡だと。
命をとりとめてもいろんな神経が集中してる場所だから失明の可能性、植物状態になるでしょう。ゆくゆくは病院のたらい回し、その後の生活などの話も医師からは何一ついい言葉はなかった。

「この状態で、手術しますか?ご家族で話し合ってください」と。

救急の付き添いの人が待機する小さな場所で、彼の家族(両親と3人の妹)と話しあうことになった。

私自身の気持ちはもちろん言葉にできないほどの葛藤と苦悩はあったが、ほぼ決まっていた。
あんなに行動力がありなんでも楽しみ動き回る人。
人に自分のことで心配や迷惑をかけることを嫌がる人。
そんな彼に意識のない状態で何年かわからないままベッドの上で縛り付けることができるだろうか…
彼はきっとそれは望まないだろう。聞けない彼の声、彼の気持ちに、近づこうとした。

しかしながら、手術をしないという選択を取れば、今は動いてる心臓との勝負なだけで確実にそれも近いうちに彼の人生に幕を降してしまうのだ。

一番大切な人の生命の尊厳の重さを、短時間で決めなければいけない事実。
最後の会話を覚えてないほど普通に話し笑いあっていた日常からまだ24時間も経ってないというのに…

何が正解かわからない選択
重大な責任を背負うことがどれほど過酷なことか…
その自分の出ている正直な気持ちを彼の両親に伝えることも。

でもただ、しっかりしなきゃ。しっかりしなきゃ。それのみ自身にずっと唱えていたような気がする。

話し合いの場はできたが、家族誰一人第一声をあげない…
お義父さんなんか言ってくださいよと心で思っていたが、何もなかった。
結局私が切り出すことになり、それぞれの意見を聞いていく役目になってしまった。

「私はこんな状態でジュンがこのまま生きていくのは耐えられません…何よりジュンはそれを望まないと」
なんて残酷な一言なんだろう…
それでも私は自分の気持ちをゆっくりなトーンで出来る限り伝えた。

義母、3人の妹は、私の意見と同じだった。

そしてやっと義父が重い口をひらいた。

父のこたえは少しみんなと違っていた…


喪服のおもい② ここまで。
(ちょっと細かく書き過ぎていますね…どれも省けず長くなってしまってごめんなさい。でもまだ長くなりそう…汗)
喪服のおもい③に続きます

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