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2006田中琴乃(松永RG)

田中琴乃、初の国際大会・バルナ大会で大健闘!


 8月22~24日に行われた全日本クラブ選手権大会ジュニアの部で、最終種目のフープでただ1人の13点台をマークして、横山加奈(NPOぎふ新体操クラブ)を逆転し、1位となった田中琴乃(松永RG)だが、表彰式にその姿はなかった。  

 5月のユースチャンピオンシップで上位入賞した高橋麻理子、庄司七瀬とともにブルガリアのバルナで行われる競技会に出場するため、表彰式を待たず成田へ直行していたのだ。  クラブ選手権の直前には徳島での全中もあり、果たして家に帰る時間はあったのか? と心配になるほどの強行軍だが、クラブ選手権での田中の演技には疲れはまったく見えなかった。さらに、そのまま渡航してのバルナ大会でも、はつらつとした演技を見せたようで、体操協会のHPの山崎浩子氏のレポートにもブルガリアでの人気ぶりが記されている。  

 ジュニア個人総合で2位、種目別でもロープ3位、ほか3種目は2位という輝かしい海外デビュー戦であった。  全中で田中選手を見た人から、「足を故障しているようでかなり痛そうだった」という報告を受けていたので、心配していたのだが、クラブ選手権でも演技ではまったくそういう様子は見られなかった。ただ、フロア外ではやや足をかばうような歩き方をしているところが見受けられた。おそらく決して足はいい状態ではなかったのだろうと思う。バルナ大会に向けては不安もあったのではないか。しかし、そんなマイナス要因もプラスに変えるだけの勢いが今の田中琴乃にはあり、あの明るい笑顔がマイナスも吹き飛ばしてしまったように思える。


「もう一歩」の小学生時代


 田中琴乃を私がはじめて見たのは、田中が小6のときの九州小学生大会のビデオではないかと思う。当時からとてもスタイルがよく、能力も高く、非常に目立つ選手だった。その大会での演技もかなりよくて、「この子が優勝したのかな?」と思ったが、そうではなかった。優勝候補に名前は挙がっていたらしいがたしかこの大会で田中は勝てなかった。  九州の小学生にとっては大きな目標である九州小学生大会に挑戦できる最後の年・小6のときの敗北はおそらくかなり悔しかったのではないか。たしかにこのときの田中の演技は、よく見直して見ると、すばらしい能力はもっているのだが、やや粗い? そんな印象の演技でもあった。とくにロープの演技で、ロープの端をやけに余らせてもっていることが気になったことを覚えている。

  ただ、そのころからあの笑顔はすばらしく、「なんとまあアピール力のある選手だろう」としっかり記憶に残った選手だったのはたしかだ。  次に、私が田中琴乃を見たのは、彼女にとって最後のクラブチャイルド選手権。このときも田中は、とてもいきいきとしたチャーミングな演技を見せ、印象には残ったが20位に終わっている。15位までが決勝に残れる試合で20位。紙一重の差でチャイルドでの決勝進出も、九州小学生大会での優勝も逃している、ちょっぴり運のない選手、が小学生時代の田中だったとも言えるだろう。

  田中琴乃が中1だった1年間は、私が見た試合には彼女は出場していなかったと思う。強豪ひしめく大分県、そして九州で、中1から全国まで駒を進めることは難しかったのか、それともスランプなのか、そんな風に思っていた。  

静岡全中での鮮やかな全国デビュー!!!


 そして、2005年の夏、台風直撃の中、静岡県で行われた全中で、私はチャイルド以来はじめて田中琴乃を見ることになる。前年は全中まで出てこれなかった田中だが、ブロック大会上位通過と思われる最終グループで登場してきた。チャイルド時代と寸分変わらず細くて長い手足、輝く笑顔、動きも洗練されてきて、柔軟性、ジャンプ力ともにすばらしい。手具操作もよくこなし、リズミカルに動き、「これは文句のつけようがない」・・・そんな演技で4位入賞。

 さらに、10月の全日本ジュニアでも4位入賞。あと一歩でメダルに手が届かないという点では、小学生時代の「ちょっと運が足りない」一面ものぞくが、いわば全国デビューしたばかりで、いきなりの4位は鮮やかとしか言いようがない。2005年、関東ではまだ「田中琴乃」の名前を知らない人も多かった。全日本ジュニアで初めて見る、という人も多かったと思う。そんななかで、「九州小学生大会、クラブチャイルドでよかった子だよ、ものすごくアピール度があって、全中には出てきていきなり4位だよ、すごくうまくなってたよ!」と語れる優越感(笑)。熱心すぎるほど新体操を見ている醍醐味はこんなところにあるんだなあ、と感じたものである。

  そして、この年、田中琴乃を見た人の多くは、「これだけ能力が高くて、かつ華のある選手はなかなかいない」と言った。私もまったくそう思う。チャイルドやジュニア選手には身体能力の高い選手はどんどん出てきている。ただ、田中のもつ天性の明るさ、スター性といったものは稀有なのではないかと。2005年、田中琴乃はまさに、「将来が楽しみ!」な選手に急成長したのだった。


2006、田中琴乃の成長は止まらない!


 そして、2006年5月。中3になった田中は、中3~高校生のチャンピオンを決めるユースチャンピオンシップに初挑戦。中3で出場した選手の中では最高順位の5位に入賞する。ユースチャンピオンシップは、シニアルールであり、難度の数も増やさねばならず、またリボンの長さも長いなど、中3にとっては厳しい試合である。しかも、決勝まで残れば2日間で4種目。しかし、そんな試合で堂々の5位。もはや「田中琴乃ってだれ?」という人はいなくなった。

  今年のジュニアチャンピオン争いは、昨年、中2でジュニアチャンピオンとなっている舛中はるな(NPOぎふ新体操クラブ)を中心に、常に舛中とは好勝負をしている横山加奈(NPOぎふ新体操クラブ)、さらに今年度から高1の早生まれまでがジュニア大会に参戦できるようになったため、穴久保璃子(イオン)も最後のチャンスに懸けてくる。

  ただでさえ、熾烈な上位争いが予想されていたところに、ユースでの好成績で「田中琴乃、最有力!」との見方も出てきた。チャイルドでも優勝経験のある舛中、横山、穴久保に対して、小学生の間は「あと一歩」にあまんじていた田中は、いわばダークホース的存在だったが、このクラブ選手権での優勝で一気に「本命視」される存在となった。  今の田中の勢いには、小学生時代に頂点までは上りつめられなかったからこそ得られた「追う身の強さ」も感じられる。足を故障していてもそれを感じさせない演技をやってのける精神力、初の国際舞台にも物怖じしない度胸のよさなども、田中のなかにある「まだまだこれから!」という気持ちゆえんではないのか、と。


田中琴乃に死角はあるか?


 田中琴乃はとてもバランスのよい選手である、と思う。スリムでスタイルがいいのはたしかだが、「細すぎる」「脚が長すぎてバランス悪く見える」というほどではない。柔軟性もある。しかしその柔軟性も「ぐにゃぐにゃして気持ち悪い」というものではない。脚も十分に上がるし、後屈もすばらしいが、柔らかすぎない。しっかりと身体の芯がある柔らかさなのだ。だから、ジャンプだって跳べるし、ピボットも回れる。難度に関しては、穴がないのである。

  また、細すぎない脚が功を奏して、ひざや脚のラインの欠点も感じられない。かかとも高く、つま先もよく伸びる。身体能力の高さに頼って手具操作が単調、ということもない。フープの投げ受けも多彩だし、ロープではエシャッペも多用、リボンのかきやクラブさばきを見ても器用性も感じられる。全日本ジュニアのとき、どの種目かで投げのコントロールミスがあったがものすごいスピードで走って落下を防いでいた。運動神経もよさそうだ。

  そして、再三述べるが、あの華やかさである。こればかりは、後からつけること、努力してつけることが難しいが、田中はそれを持っているのだから強い。  今年の全日本ジュニアは、どういう展開になるのか。田中の急成長もあり、にわかに楽しみが増してきた。しかも、そんな田中を退けて、全中では新潟の遠藤由華が優勝しているのだから、ますます優勝の行方は混沌としてきた。おそらくここ数年来にないハイレベルな戦いとなりそうな2006全日本ジュニア、田中琴乃がその台風の目になるだろうことは間違いない。

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