見出し画像

父親とジャラジャラ、臭いもや

こういうことTwitterに書いてたら父親の記憶が蘇ってきたので、思いついたのを書きます。




---




小さい頃、父に会うたびお決まりのコースがあった。

駅についたら何はともあれ、まずパチ屋を三軒くらい回る。当時幼稚園だから小学生だか、金がどっから湧くかもわからない子供にとって、パチ屋は「謎、理解できないもの」だった。お構いなしだ。


自動ドアが開くと、溢れんばかりの爆音と冷気が俺を殴る。

店の中はタバコの煙にまみれてて、幼い視界にはほとんど何も映らない。うるさいしくさいし何もみえない、挙句の果には意味もわからない…牢獄だ。

音音音音音音音音
音??????音
音?俺?父親?音
音??????音
音音音音音音音音


目を凝らすと、靄の中にぼんやり、丸まった大人の背中が見えて…目線低いのでこう…アオリでね、尻と背中がずらっと連なってるのがわかる。

それを見て、大人って昼間なにしてんのか知らないけど、こうやってうるさくて臭い中に座るってのもあるんだな〜、って思ってた。




父に手を引かれ無限に続く「うるさくて臭い、尻と背中の廊下」を歩く。


めちゃくちゃ広いですよ、子供にとってのパチ屋。
景色かわんねえからつまんねえし…よく見えねえし、わけわかんねえし。
強いて言えばドル箱の量が違うくらいで、自動生成の3Dゲームみたいだった。リトルバスターズの沙耶のやつみたいな。



突然、
父が止まる!
俺も止まる。
 



それに合わせて目の前の尻と背中がクルッと振り向く。
その尻はどうやらオバサンだったみたいで、顔を見るとなんか口動かしてんだわ。

ジャラジャラパクパクジャラジャラ

って、全然聞こえねえよ。
父親が俺の耳に顔寄せて、(あいさつして) って言ってくるから、こんにちはって言う。

ジャラジャラパクパクジャラジャラ…



気がつくと俺はオバサンの膝にのせられて、なんかレバーみたいなの持ってこれを回せやら、ボタンを三個押せやら命令される。
意味わかんないからつまんねえけどやる。


父は後ろで見てる。


しばらくすると大人が楽しげな空気を醸し出し、俺は楽しげな空気をだす装置になったんだ。
大人たちの気が済むまで、ボタンを押したりレバーを回したりする……

少し経つと、オバサンが俺の頭を撫でる…終わりの合図だ。
それでやっと開放される。


俺は父にしがみついて、もうやだよって言う。
そこに俺の知ってる“人間”は父しかいないから…



父は俺の手をひいて、また違う尻と背中に歩いてく。



---


父親アル中なんですよ。


酒を飲んで怒り狂うとか問題を起こすとかじゃなく、ただ酒を常に体に入れてしまう。

まあ想像つくと思うが、割とろくでもない人間で。ごちゃごちゃやって気がついたら後の祭りだったと。ドクターストップ食らって酒飲んだら死ぬって言われても止めらんなくなってた。

そもそももっと前から、自業自得で色んなもの失ってる人なんですよね。
本人気づいてないっぽいんだけど、信用やら人望やらをヘンゼルとグレーテルのパンくずみたいに落とし続けた。で、いつの間にか空っぽになっちゃったみたいですね。

最後の方…これは俺の想像だけど、あんま生きた心地してなかったぽい。
少しでも、1センチでもいいからこの世から離れたかったんでしょう、浮きたかったのかな?ふわっとさ。どうなんでしょうね。



---



最後に父を見たのは19の頃だったか、大学入りたての時。

ウン年かぶりに顔合わせて、まだお決まりのコースやるつもりなら拒否して帰ってやろうって、いざ会ってみたらパチ屋には連れてかれなかった。

なんとなく、あ、この人、ジャラジャラの友達もパンくずにしちゃったんだなと思って、何も言えなかった。



そのあと普通に実家行って、父方の祖母の手料理を食べながら、当たり障りのない話した。話題なんてない。

飯食い終わって帰ろうかなってとき、父が「飲みに行こう」と言い出した。

いや、アルコールだめなんだろっつっても全然聞かなくて、祖母の方みたらニコニコしてた。びっくりした。なんで笑ってんだ?
10分くらいやめろ、行かないっつってたんだけど、言葉通じなくてさ、じゃあ行ってやるから酒のまないでジュースにしろ、って条件で居酒屋まで歩いて。


道中の空気は最悪だった。


店につくと、ちょっといい感じの女将さん…40くらいかな、が迎えてくれて、父がいや〜今日は飲まないんだ、これ俺の子供でさ、ほら、挨拶しろ…って言い出した。

ウン年かぶりに会って、まる一日過ごして、初めて聞いた命令形がそれ…俺はあいさつして、オレンジジュース頼んで、父親がアンディウォーホルがどうだかジャズがどうたら、女将がアハハって相槌うつ、その流れをオレンジジュースで流し込んでた。


あのときはジャラジャラで何言ってるかわかんなかったけど、今は聞こえてんのに何言ってるかわかんねえや。




店を出て…やっぱ酒が良いよな、もう一軒いこう、とか言い出す父親を無視して、実家に行って、あいさつして帰った。

父親は店の前で駄々こねてたが、観念して後からついてきたらしい。


実家への挨拶終わって家を出たとき、反対側の曲がり角から父親の姿がちょっと見えた。





これが父を見た最後だ。






---



今俺は川島瑞希限定SSRのために***⁉**!‼円課金したりしてる。
画面に白色の封筒がニョっと出てくるとき、最後に見た父の姿がちらつくんだよな。


川島瑞希は何も悪くなくて、悪いのは………

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?