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SaaSはaPaas化しユーザ企業は「どのプラットフォームと心中するか」へ - 社内システムの概況

ここ15年以内に設立された企業を中心に、エンタープライズシステム・社内システムをクラウドファーストで考える流れがありますが、最近、特化型SaaSの乱立に対して、大手SaaSベンダは自身の製品をaPaaS化しており、陣取り合戦の様相を呈しています。ユーザ側からすると「どのプラットフォームと心中するか」という状況になっているな、と感じます。クラウド導入ベンダから事業会社に転職したエンジニアの目線で説明してみます。

クラウドサービスの進化(クラウドベンダ側の概況)

クラウドファースト

クラウドサービス、その中でもSaaSは、業界標準の機能や業務プロセスが標準で準備されていて、自分たちで一からシステムを構築する場合に比べると、圧倒的に早く、安価に、活用できます。この性質から、吉野家のキャッチコピーを引用して「うまい、やすい、はやい」と表現する人がいるほどです。

特に社内システムは企業ごとで求める要件の違いが出にくいことから、ここ15年以内に設立された企業ではまずSaaSをはじめとしたクラウドの利用を考える、「クラウドファースト」が当たり前になっています

SaaSのaPaaS化

今や様々な機能に特化した無数のSaaSが存在しており、領域の数も、サービスの数も増え続けています。次のようなカオスマップを見たことがある人も多いのではないでしょうか。

多種多様なSaaSの“世界”を可視化--スマートキャンプが報告書
https://japan.zdnet.com/article/35124371/

そんな中で、一部の大手SaaSベンダーは、自身の製品に豊富なカスタマイズ機能を加え、さらにはアプリ開発プラットフォームとして進化させてきていますこれはapplication Platform as a Service、aPaaSと呼ばれています

ServiceNow、Salesforce、SAP、Oracle Netsuiteの事例

私が知る限りの事例を紹介します。

ServiceNow - Now Platform
まずは、私が何年も導入に携わっていたServiceNowを例に説明します。ServiceNowはITILに準拠したITSM(IT Service Management)システムやワークフローの機能が有名です。これらの製品はNowPlatformと呼ばれるaPaaS上に作られており、例えばITSMのインシデント管理テーブルに項目を追加してその企業独自の管理項目を作ったり、ステータスを追加することで業務プロセスをカスタマイズしたり、通知やレポート・ダッシュボードを作成するといったことが可能になります。

実はServiceNowはもともとaPaaSとして生まれたのですが、中々売れず、その上にITILに準拠したITSM(IT Service Management)のシステムをSaaSとして提供したら売れたという経緯があります。

Salesforce - Lightning Platform
Salesforceは名前の通り営業支援(SFA)や顧客管理(CRM)で有名ですが、同時にLightning PlatformというaPaaSを提供しており、やはりSaaS製品のカスタマイズや、新規アプリの開発が可能です。元々営業支援から始まったこともあり、モバイルアプリの開発にも強みがあるイメージです。さらに、SalesforceはコミュニケーションツールのSlackや、Integration Platform as a Service(iPaaS)のMulesoftをはじめとした多くのサービスを買収しポートフォリオを揃えることで、幅広い社内システムをSalesofrce製品で完結できるようにしています

SAP - BTP
SAPは基幹システム(ERP)として有名で、元々はパッケージシステムでしたが、SAP S/4 HANA Cloudの登場でクラウド対応しました。SAPについても、単体でもカスタマイズが可能ですが、BTP (Platform)というaPaaSを提供しており、多くの他者製品とのデータの授受やワークフローの構築などが可能となっています。

Oracle - Oracle Fusion Cloud ERP / Netsuite
OracleはOracle Fusion Cloud ERP(旧: Oracle ERP Cloud)とNetsuiteという2つのERPを提供しています。どちらも会計、SCM(Supply Chain Management) といったERPの機能が主要な機能ではあるもののやはりaPaaSとしてカスタマイズやテーブル、ビジネスロジックの追加などが可能です。

sPaaSにとどまらず、社内システムのあらゆるレイヤーを抑えるという意味では、当然GoogleやMicrosoftの製品も競合だと言えます。

Microsoft - Power Platform
WindowsOS、ユーザ管理のAD(Active Directory)、Office(Outlook, Excel, Word, PowerPoint…)などを提供し、もはや企業のITインフラの一部となっているMS製品ですが、既存製品と連携してノーコードで業務を自動化できるPower Automateなどを含むaPaaSであるPower Platformを提供されています。

Google - GoogleWorkspace(GWS)
GoogleもMicrosoftと同様に、多くのサービスがデフォルトで「Googleアカウントでログイン」を実装しているGoogleアカウントや、Gmailを中心とした企業のITインフラの提供に加え、簡易的に業務効率化・自動化ができるSpread Sheet + Google App Script(GAS)や、ノーコード開発ツールのAppSheetが提供されています。

ここではグローバル標準のaPaaSを中心に取り扱いましたが、主に中小企業向けにはKintoneなどの国産aPaaS市場も盛況です。

aPaaSが備える機能

多くのaPaaSはアプリ開発に必要な一通りの機能を備えています。例を挙げます。
・DB(シングルデータベース)
・ワークフロー
・SSO
・レポーティング
・通知
・Javascritp等をベースにした独自開発言語やライブラリ
・開発ツール(IDE、リソース管理、自動テストツール)

SaaS乱立問題と効率的な管理(クラウドユーザ側の概況)

SaaS乱立問題

一昔前に問題になっていた、企業が把握していないITサービスを特定の部門や個人が利用しガバナンスが効かなくなってしまう「シャドーIT」に対しては、ITサービスの利用前のレビュープロセスを導入するなどの対策がされてきました

一方で、「シャドーIT」が対策できても、SaaS乱立時代においては、各部門で新たなSaaSを次々と契約することで、次のような問題が発生しているように思います。
ライセンス費用の増大 … 他の多くのサービスと同様、SaaSには「初乗り運賃」のような概念が存在し、サービスを増やせば増やすほど、コストが割高になる。また、同じサービスを複数の部門が別々に契約していたり、あるサービスの機能を使いこなせないことで不要なSaaS契約を増やしてしまうという問題もある
運用コストの増大 … アカウント管理、アップデートや脆弱性などの最新情報へのキャッチアップコスト、IT担当者の学習コストや人材の入れ替え時のKTコスト

SaaSを管理するSaaS

この課題に対する対応として、各種SaaSのライセンス管理、支払い管理、アカウント管理などを支援する、SaaSを管理するSaaSが登場しています。国産だとラクスルの「ジョーシス」が有名です。個人的には対処療法にしか見えず、SaaSが管理できないからSaaSで管理するというのは成功する気がしません。

どのプラットフォームと心中するか

個人的には、これまで議論してきたSaaSの概況を理解した上で、SaaSを戦略的に導入していく必要があると考えます。そのためには、企業がエンタープライズ化する段階で「どのプラットフォームと心中するか」を考える必要があるのではないかと思います

無数のSaaSがある現代においては、機能単位で優劣を考えて導入していると、利用するSaaSが増大し、かえってコストや運用面で全体最適ではなくなる可能性が高いです。そこで、その企業の社内システムの中心に据えるプラットフォームを決め、それを最大限に活用する前提で製品選定・導入を行っていくと、効率的で一貫性のある社内システム設計ができるのではないかとと思います

社内システムカオスマップ

社内システムの導入戦略を考える上では、一部の企業で作成されている、社内システムとして必要な機能群と、それぞれの機能をどのSaaSでカバーするか、という「社内システムカオスマップ」なるものを作ることが効果的です

初期段階から多くの機能を意識しすぎても、逆に今の規模に不釣り合いな多機能なサービスを購入してしまうことに繋がるため、小さく始め、定期的に見直して、徐々に大きくしていくのが良いんだと思います。

以上です。

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