面接で「嘘」をつくことは許されるのか?法的,倫理的,戦略的に考える面接での語りのウソ。
面接で「嘘」をつくことは許されるのでしょうか?
今日は,法的,倫理的,戦略的に考えてみましょう。
一般には,面接でウソをつくことは,許されないことと思われています。
ウソをつくことは倫理的には良くないことでしょうし,また,学歴や職歴でウソをつけば,採用(合格)取消や懲戒処分の対象にもなり得るでしょう。
確かに,学歴や職歴,免許状や資格で,ウソはつけません。
東大を卒業していないのに東大卒とは言えませんし,英検1級に合格していないのに英検1級を保有しているとは言えません。
でも,例えば,志望動機などではどうでしょうか?
本当の志望動機は,安定した仕事が欲しいだけ,何でもいいから定職に就きたいという理由であったとしても,多くの人は,「御社の経営理念に共感して」とか,「この県の教育施策に感銘して」などと話すのではないでしょうか。
厳しく言えば,それらの回答もウソということになります。
また,教員採用試験の面接などでは,「教員の不祥事についてどう思いますか?」と聞かれます。
本当の回答は,「そんなこと知るか。採用側の教育委員会が考えろ!」と思うところでしょうが,そうは言えませんので,「教育公務員としての自覚を持って,研修などを通して,適切な言動をするように・・・」などと答えるでしょう。
不祥事に関する研修など,ろくな研修はないと思っていても,そうは言えません。
さらに言えば,自己アピールなどで,「・・・の経験を活かして・・・」などということがありますが,本当にその経験を教育に活かせるとは,あまり思っていないことも多いものです。
面接での語りは,全て,本当のこと,本心,真実だけを語るということではなさそうです。
面接での語りの場合,学歴・職歴・免許状・資格などの,いわゆる material facts(公的な記録としての事実)に関しては,ウソをつくことはできませんし,ウソをつけば,合格取消や懲戒処分もあり得ます。
しかし,例えば,「結婚を考えている人がこの県の人なので,この県を志望します。」というウソはどうでしょうか?
本当は,そんな人はいないのに,その県を志望する理由にするために,このウソをつくことは,悪いことでしょうか?
倫理的には議論があるかもしれませんが,法的には,なんとか逃れられそうです。
ここで,material facts(公的な記録としての事実)と,episodic facts(エピソードとしての事実)を区別してみましょう。
「結婚しているかどうか」というのは,material facts(公的な記録としての事実)ですから,ウソをつくことはできません。
でも,「結婚を考えている人がいる」というのは,episodic facts(エピソードとしての事実)ですから,主観的なものであり,ウソがバレることはありませんし,法的に追及されることは,少なくとも,採用試験の面接ではありません。
同様に,「子供がいる」というのは,material facts(公的な記録としての事実)ですが,「子供が生まれることになりそうなので」というのは,episodic facts(エピソードとしての事実)です。
結婚の有無,子供の有無は,住民票や戸籍を見ればすぐにわかりますが,結婚を考えている人がいるかどうか,子供が生まれることになりそうというのは主観的な意見です。
公的な記録に反するウソは絶対にダメですが,主観的な意見のウソは,倫理的にはともかく,面接では,戦略的な説得方法になり得ます。
ここで,難問です。
教員採用試験で,面接官からの(あるいは,願書上での)「本県以外で,他の自治体の教採も受験していますか?」という問いには,ウソをついてもいいのでしょうか?
他の自治体に願書を出しているということは,ある意味で,公的な記録という考え方もできます。
また,どの自治体を受験しようが,それは,主観的な意見の範疇の延長だという考え方もあるでしょう。
さらに,他の自治体も受験していると言ったとしても,「両方合格したら,どちらに行きますか?」と聞かれたら,目の前の面接官の自治体に行きますというのが常道でしょう。
併願の事実に関してはウソはつけるのか,つけないのか?
併願の事実は述べたとして,どちらが第一志望かについてはウソをつけるのか?
この違いは,単に,material facts(公的な記録としての事実)とepisodic facts(エピソードとしての事実)の違いとして考えてもよいことなのか?
併願の事実に関しても,第一志望はどちらかについても,両方ともウソはつけるのか?
片方はウソはついてもいいけれど,もう片方はウソはつけないのか?
両方ともウソは付けないのか?
法的,倫理的,戦略的に考えてみると,どうなるのか?
まずは,皆さんで,考えてみてください。
これは,教員採用試験の面接(願書)において,とても重要なことです。
ウソはどこまでつけるのか?
法的な限界は?
倫理的な限界は?
戦略的な限界は?
明日は,このことについて,考えていきます。
お楽しみに!
河野正夫
レトリカ教採学院
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?