価値のない命を生きるー夢追翔「拝啓、匣庭の中より」


バーチャルから命の価値を問う

夢追翔は、「拝啓、匣庭の中より」において、伝えようとしているメッセージが一貫しているように感じる。それは、命への盲信に対する疑問と、それでも生き続けるという前向きな諦念だ。

「命に価値はないのだから」というストレートな曲名もあるが、人は生きているだけで素晴らしいなんて嘘だ、そんなメッセージがアルバムを貫いているように感じた。それはバーチャルを象徴するPC画面から、リアルを象徴するゴミ溜めのようなワンルームへ銃口を突きつけるジャケットイラストからも私が読み取ったメッセージだ。

「おそろいの地獄だね」のMVのキャプションには、「ラブソングです」とある。この曲はライブ「FANTASIA」にて出演者が纏った共通衣装からインスピレーションを得た曲だと彼はライブ後の振り返り配信で述べているが、彼の指す「愛」とは、生まれ落ちた瞬間否が応でも与えられてしまう「命」を戦うにじさんじライバーたち、リスナー、今ここに存在する人に対する、戦友のような感情なのではないだろうか。

「何者でなくていい/命に価値はなくていいから/あなたがあるがまま生きて良いんだと/思えるまで歌わせて(命に価値はないのだから)」と綴る夢追翔は、ひとつの命として生まれた以上強いられてしまう「生きる」という行為を、少しでも良いものにしようともがいているかのようだ。それはまた、私たちの日々に課せられた使命でもある。

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