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卒論と霊性(ii)

RHR交換日記の影響で、卒論のテーマを変えることになりました。

変えるといっても、前回の内容を基礎としながら、より発展させるイメージです。

元々は「母性の地理学」というタイトルでした。
戦後の日本が「母性の構造」(ざっくり言えば、矛盾から目を背けるエコーチェンバー的な心性)に苛まれているが、それを元にして「フェミニスト地理学」という学問の過去と未来をつなげる、そんな論文でした。

でも、ちょうど4日前くらいでしょうか。母性の地理学を「霊性の地理学」に変更しました。もともと三島由紀夫も含めた戦後社会論が卒論の中枢を占めていたので、タイトルは変われども、筆はスラスラ進みます。

すると今まで腑に落ちなかったことが全てつながるようになりました。
なんなら、自分が今まで交換日記で書いてきたあらゆる怪文書も、全部この卒論につながります。

今回は、卒論の要約をざっくり書いていこうと思います。

一言で申し上げれば、

「霊性=両性具有性」であり、それが地理学の新しい研究対象を開く。
その対象が例えば、コンセプチュアルな人と、コンセプチュアルなモノの関係性だったりする。

そんな感じです。
両性具有性というのは、ある意味では「赤ちゃん」とも言えるかも。
性自認が主客未分の境地だからです。
ただそんなことは現実的に不可能なのです。

詳しい解説はまた来週以降にしたいと思いますが、
『地獄楽』第5話からひとつだけ引用を。

山田浅エ門佐切(女としての侍)の言葉

「私の生き方をお許しください。

私が弱く未熟であるとは承知しています、ただ、

自分の生き方くらい、自分で決めたい。

それはきっと男も女も、あるいは立場も関係なく、誰もが持つ、人として当然の感情ではないでしょうか。」



それを聞いた兄弟子の言葉

男だ女だ、強さと弱さだのと二つに分けず

相反するものもそのまま自分と受け入れる

まさに中道


佐切の覚醒シーン

「情を持って力とし、理を持って見失わず

静と激のどちらでもなく、狭間」


“霊性”という空間

〜フェミニスト地理学における「両性具有的」転回〜


目次

I はじめに(仮説)

II フェミニスト地理学と「ケアの倫理」

(ⅰ)フェミニスト地理学の変遷

(ⅱ)「“からだ”という空間」研究について

(ⅲ)ケアの倫理との接続による「両性具有的」転回

Ⅲ 両性具有を司る“父性”と“母性”

(ⅰ)戦後日本を支配する「母性の構造」

(ⅱ)三島由紀夫の憂いと自己幻想

(ⅲ)両性具有性に“霊性”は宿る

Ⅳ“霊性”とは何か

(ⅰ)霊性と“禅”

(ⅱ)霊性と“死生観”

(ⅲ)霊性と“ファシリテーション”

(ⅳ)三島由紀夫を改めて“霊性”で読み解く

Ⅴ 地理学と“霊性”の接続

(ⅰ)「“霊性”という空間」へ

(ⅱ)両性具有者のもつ霊性が与える、他者・モノとの関係性

(ⅲ)“霊性”と、民藝的な制作によるケアの視点

Ⅵ おわりに


要約


三島由紀夫が自決2日前に横尾忠則に対して述べた、霊性についての言葉で論文が始まります。

「縦糸が“創造”だとすると、横糸が“礼節”だ。この2本の糸が交わったところに“霊性”が宿る。」

スピリチュアルなイメージがある霊性ですが、実はWHOが98年に健康の定義の3つ目に加えようとしたほど重要なものでもあります。つまり、いのちの本質が霊性なのです。


多くの人が「霊性」とは何かの前に「創造」と「礼節」とは???と悩む文章なのですが。

私が思うに、この創造と礼節は、
それぞれ「父性」と「母性」にそのまま読み替えられると考えています。

創造(何かを作ること)は男性的なイメージ、礼節(おしとやかさ)は女性的、そんなイメージです。


この論文の仮説を一言でまとめると、霊性が父性と母性の交わるところにあるならば、「霊性の地理学」という可能性が立ち上らないか?ということです。


フェミニスト地理学では「からだ」という主体から議論が展開されています。いのちの本質が「霊性」であれば、霊性の地理学もあり得ます。

そして霊性はモノにも宿ります。霊性を抱えた「からだ」がモノづくりを行えば、そこにも霊性は宿ります。例えば思わず心が動かされるモノって誰でもあると思います。本稿では柳宗悦の述べる、民藝品が持つケアの要素を例に述べます。

霊性を持つ「からだ」と、モノとの関係性について分析する学問として、地理学の可能性を感じます。なぜなら地理学というのは、本来は人と人、人とモノ、モノとモノの関係性を問う学問であるからです。


「父性と母性が霊性を宿らせる」と考えると、様々なことが繋がってきます。

まず三島が考えていた私的/小説的な側面についてですが、彼は心の性としての「両性具有的な自己」のあり方を描き続けてきました。三島が敬愛した小説家のオスカー・ワイルドもまた同性愛者で両性具有者だったのですが、彼は「多孔的な自己」というあり方を提示していて、それは「共感力」と「ネガティブ・ケイパビリティ(安易に二項対立に飛び付かず、その曖昧さの中で耐える力)」を高めます。

そしてこの「両性具有的で多孔的な自己」というのは最近議論されている「ケアの倫理」の条件でして、フランス議会などでは議論が重ねられています。


そして三島の公的/政治的な側面についてですが、三島が何に絶望していたのかといえば、それは「母性の構造」です。

人間が生を受けた時には心にはジェンダーなどないのに、生物学的性により「男らしさ」「女らしさ」を押し付けれられて、男は男らしく、女は女らしく育っていかなければなりません。

そして男性であれば女性的な心の部分に、女性であれば男性的な心の部分に、それぞれ嘘をついて、矛盾を抱えて大人になっていく。

そのような矛盾から目を背ける心性(母性の構造:父性と母性の共犯関係が矛盾から目を背けさせる)が、国のあり方まで矛盾を抱えさせているという話です。右翼と左翼がアメリカの核の傘を守る共犯関係にいたり、沖縄を見てみぬふりをしたり、自衛隊を違憲だと言ってみたり・・・という話です。


三島がもう一つ絶望していたのは、天皇についてです。日本人が日本人である必然性,すなわち入替不可能性を示すものが天皇への帰依だと三島は考えていました。

ただ、日本人が日本人たる必然性を示せる機能があれば,それは天皇ではなくてもいいという趣旨の発言もしています。つまり天皇を機能によって肯定しているわけです。

また、三島は戦前の天皇主義者であり、戦後の人間宣言をした天皇のあり方については三島は批判する立場でした。

ここで「入替可能かどうか」とは何を指しているのかといえば、それはおそらく霊性です。「日本的霊性」を表した鈴木大拙は、霊性が日本にしか宿らないとも述べています。霊性は日本の本質でもあります。

考えられるのは、日本人は性規範的には個人の中に「両性具有的な自己」はあり得なかったのです。「両性具有的な自己」は、自己の中に父性と母性を内在化した存在です。もっといえば、性が主客未分の状態です。

すなわち、本稿の仮定に添えば、「両性具有的な自己」それすなわち「霊性」を指します。


三島は日本人が両性具有性を持つことに絶望を抱いており、だから戦前の天皇の神性が日本人全てに霊性をもたらす価値に気づいていたのではないか?戦後の「人間としての天皇」にその価値はないと考えていたのではないか?

ということが浮かび上がります。そして彼は小説の中で、霊性を日本人にもたらすもう一つの手段として「両性具有的な自己」を空想的に描いたのではないか?ということが推測できるのです。


しかし時代は変わり、「母性の構造」によって阻害されてきた「両性具有的な自己」が、母性の構造の崩壊によって発現可能な時代になりつつあります。いわば、幼少期から心についてきた「自分は男だ、女だ」という性を、

(ちなみに「両性具有的な自己」はLGBTなどの性的少数者に限りません。人と違う生き方をしてきたり、家父長制に違和感を覚えたり、といった人も含まれるそうです。)

つまり、天皇がいなくても日本人に霊性が宿る可能性が出てきたと考えられるわけです。

そういった、心のジェンダーが両性具有な人々(外見は男や女かもしれないけど)にスポットを当てる、日本独自のジェンダー地理学があるべきだと考えています。

ただ、ジェンダー地理学では鳥瞰的で客観的な議論がなされるので、より主観的概念が含まれる(そもそも主客未分の状態にある)霊性とは相性が悪いと考えられます。

よって、「からだ」という主観的な主体から空間との関係性を分析してきた歴史をもつ「フェミニスト地理学」の流れを汲む必要があると考えます。

フェミニスト地理学では、妊婦という「からだ」から見える空間について分析されるのですが、「さまざまな関係性が<からだ>の中で交差する実感」から議論が展開されます。

この論理でいえば『「霊性(両性具有性)」を内在化した「からだ」』から見える空間、に置き換えることも可能だと考えます。

そしてそのような「霊性の地理学」が可能にする研究対象もあるはずです。先述しましたが、それは例えば柳宗悦の述べるような、民藝的なモノから感じられる生の実感、ケアの要素(=霊性と思われる)というものが、民藝品にいかにして籠るのか?ということです。

要約おわり


今週の質問:今年いった場所でのオススメ

最近よく行く場所なのですが。
群馬にお越しになる機会があれば、
高崎の「小塙」という居酒屋にぜひお越しください。

「肉彩丼定食」が、まじで絶品です。
居酒屋としてはお酒がめっちゃ濃くて、幸せになれます。
接客もめちゃくちゃ丁寧です。
何より、店内でタバコが吸えます。



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