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ショートショート。旅するように生きたい

アンカーのように自分を繋ぎ止める家族や住宅ローン、教育費もろもろ。海に向かう電車に乗ればなんとなくそれらの束縛から逃れられるような気がした。その日俺は佳子の計画で長谷の海に居た。
海岸に向かい彼女は走り出し、靴を、放り出して波打ち際のしぶきを恐れはしなかった。少しだけこちらを向き、ありがとう、と張り上げるような声で言った。
ありがとう。こちらの声はおそらく届かなかったに違いない。陽の角度は冬の早い日没までそれほど間はないことを示していた。

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