年代もののロマネコンティを、冷蔵庫から出すな。(小説の作法)

 主人公は、昔からお金持ちの良い家柄。有名大学の大学生。
 賢くて、テニスが上手で、背が高くてカッコ良くて、モテモテ。
 でも貧乏な友人を助けるやさしい面もある。
 親に高級マンションを借りてもらって住んでいる。
 そのマンションで、友達を呼んで、エロパーティー開催。美男美女がわんさか集まる。…。

 学生時代、こんな作品を読む機会がありました。
 といっても、これは例です。あらすじ紹介に著作権も何もないですが、元の話からは大きく変えてます。そのままを紹介して、本人が読んだらイヤな気分になるでしょうから。(実際にそんなことはないでしょうが…。)

 読者の立場からすると、この話はツライです。
 作者の願望なんだろうな…理想なんだろうな…。
 それにしたって、ねえ。こんな主人公に共感できない。

 作者が何を描いても自由なんですが。読んでいて「あー、この主人公、嫌い」と思うのも、読者の自由です。しょーがない。
(小説を描いているとき、気をつけてください。登場人物が魅力的ですか? ただのスーパーマンになってませんか? すごいんだけど、実生活では嫌われそうなキャラじゃないですか?)

 それは、おいといて。
 このパーティーの中で、この主人公はワインが好きだそうで、コレクションしているそうで、年代もののロマネコンティを、冷蔵庫から出しました。
 冷蔵庫…。
 冷えひえ…。

 コンビニの赤ワインじゃないんですから。
 お金持ちなんでしょう。好きなんでしょう。コレクターなんでしょう。
 そうであれば、家庭の冷蔵庫なんかに保存しない。ワインセラー買いますよねえ、小型のもあるんだし。

 これが「主人公は格好つけてるけど実はバカ」というキャラクターを示すためであれば、とても有効なんですが、そうじゃなかった。
 物語上、最初から最後まで、彼は素晴らしいキャラなんです。

 こういうのはイタイです。作者はワイン好きでもないし、知識もないのに、がんばっちゃったんだなー、と思います。
 ワイン飲んだことなくたっていいよ。だけどさあ…。

 ワインっていう要素を小説に盛り込むなら、ちったぁワインについて調べろ!
 そう、叫びたくなるのです。
 ワインの物語を描いてるんじゃないから、深い知識がなくたっていい。基本、初歩、それくらいは押さえておいてほしい。

 自主制作の映画と違って、用意する手間がない。小説は、なんだって書けます。お金もかからないんだから。ただ「ワインセラー」と書けばいいんだから。こういうところはきちんとしてほしい。
 
 大型バイクをひいて、横断歩道の向こうから彼が小走りにやってくる。

 これも、読んでいて悲しくなります。いや、無理だから。大型バイク、重量どんだけあって、どんだけとりまわしが大変か。自転車と同じようにいくわけがないんです。
 バイクに乗ったことなくても、想像したらわかりそうなもの。
 警視庁24時の白バイものとか、街を走るハーレーとか、見たことないのか。
 バイクを出すなら、どうして人に聞くとかネットで調べるとかしなかったんですかね。

 こういうのはいけません。絶対にいけません。
 知ってる人から、「なんじゃそりゃ」とツッコまれるようなネタを入れて、読者を打ちのめしてはいけません。

 ここまで露骨な失敗はないにしても、「高級レストランでのデート」を描いているけど、たぶん作者はそういうところに足を踏み入れたことがなく、知識もないまま、想像だけで適当に書いてるなー、っていうのも、わかっちゃったりします、読み手には。
 高級レストランって書いただけ。内容がダメ。店内も店員もメニューも書けてないか、書いてるのがもう、せいぜいロイヤルホストくらいの描写になってる。

 あとはそうですね、「まったく知らない業種の会社の内部」「やったことないけど居酒屋のバイト」とか行ったことも勤めたこともない女性が書く「ソープランド」とか、なんか、うそくさいなあ、ってのがあります。

 そういうことをやると、この人物が、このストーリーが、いかにも「嘘っぱち」であることがバレバレになってしまう。小説の世界が世界をなしていない。お話にもならない、ってやつです。

 知らないなら調べる。
 それがいやなら知ってる範囲で物事を描いたほうがいいです。

(1698字:無料 ※空白と改行は除く)


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