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アウトブレイクとエスケイプとステルベン②

車椅子を押し1階の廊下を曲がりながら

今日の当直は誰かなー
と大きめの声で言うと

はーい、僕です
と筋肉ムキムキのリハビリの男の子が出てくる
やった当たりだ、と思う

他の事務方の当直男子はこういう時恐ろしく冷ややかなのだ

リハビリの子は病棟でも面識があるし
いつも患者に優しい
助かった

帰りたいって言うからちょっと玄関開けてくれる?
とお願いする
リハビリくんは少し笑って
大変ですねと
玄関の鍵を開け一緒にその場に居てくれた

車椅子のまま一旦病院の正面玄関から外へ出る
すごい風だしとにかく寒い

〇〇さん、こんな寒い中帰るの大変だよ
タクシーもいないでしょ?
今日は泊まっていこう

歩いて駅まで行くでいい
これ(安全ベルト)を外せ

分かった
じゃあ歩いてみるか

ベルトを外す
大きな紙袋があるが私は手を貸さない
自分で帰ると言っているのだから
何もかも自分でやる必要がある
〇〇さんも意地になっているから
紙袋を持ち必死で立ちあがろうとする

車椅子がひっくり返らないように支える程度で
後は見守る

立ちあがろうとして車椅子に座るを繰り返し
ふらふらしながらもようやく立つ
普段歩行していないので
歩くことはできなくなっているはず
ここからは転ぶ危険がある

ズボンの後ろを掴み、脇も支える
反対側にリハビリくんがいてくれる
リハビリくんだから
患者の自立を助ける支え方も十分分かっている
まじで助かる

何とか一歩踏み出すのが精一杯の現実
ふらつきながらも意地だけで立っている

転んじゃったら歩けないから一旦座ろ

そう声をかけて車椅子に座ってもらう

今日はやめておこうよ
明日にしよう
こんな夜に寒いし息子さんも仕事だし
1人じゃ大変だよ

そんなこと関係無い
帰ったら何とかなる
駅まで行く
そう言ってまた立ち上がろうとする

何とか立ち上がる
支えられて一歩がやはり精一杯

そんなことを何度か繰り返し

〇〇さん、今日はやめよう
私に免じて今日は泊まっていって
お願い!
帰りたいのは分かるし、帰らせてあげられなくて本当に申し訳ないと思ってる
こめんなさい!
私のお願い聞いてくれる?
ひと晩でいい

冷たい風に吹かれっぱなしでさすがに震えてしまい歯がカチカチする
患者さんも寒いはず

〇〇さんの目を見て
顔の前で拝むポーズをし頭を下げる
ほんとにごめん、と言うと

しょうがないな、ひと晩だけだぞ
と言ってくれた

まじか!やった!(心の声)

ありがとう!!!
寒いから上(病棟)に戻ろう
大丈夫、もう今日はベルトはしないよ

リハビリくんにも感謝を告げて
いそいそと病棟に戻る

残された介護さん達がバタバタを業務を回してくれている
本当にありがたい

〇〇さんを部屋に戻しベッドに寝てもらう

夕食は拒否
着ている私服を病院の甚平に着替えることも拒否
不服そうな険しい表情は変わらないが
今晩は無理なことはしないと思ったので
センサーマットも何もせず
様子を見ることにした

とりあえず熱を測る
8.2℃…
限りなく怪しい

何かあったらいつものようにナースコールしてね
すぐ来るから
無理に動いて転んだら帰れなくなっちゃうからね
だから必ず呼んで
そう念を押した

帰れなくなる、を使い結果的に騙すような形になるのが心苦しいが
他の業務が全くできなくなってしまう


病棟に夜の看護師は私しかいない

55人の患者を
明日の朝日勤スタッフが来るまでは
私がみる

もちろん介護さんも同じだ
夜の介護士は1人しかいない
お互い協力して夜勤を乗り切る心強い相方

ただ介護士は看護師の仕事はできない
それを介護さんは分かっていて
看護師が忙しい時は
できる限りの回しをしてくれる
本当にありがたい

遅番の介護さん達が業務を終え帰っていく
私と介護さんの2人になった

さあいよいよ夜勤本番

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