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お金のこと、語らざるをえなくなるのでは?

31〜33歳の時は量販向けの靴の企画をしていた。
量販は2週間ごとにサンプルをUPする頻度だったので、企画にもスピード感が大切。
デザイン画を日本で作成して、サンプルに合う素材を中国広州の材料市場で仕入れ、上海の工場に作ってもらう。
サンプルUPまで工場に1週間滞在して、ハンドキャリーで日本に持ち帰るという業務。


小さな会社だったので、出張は営業さんと交代で。
いつも一人出張だった分、現地の工員さんや通訳さんにはよくしてもらっていた。
お客様扱いをそんなにされなかった分、色々な景色を見ることが出来かもしれない。



一番印象的だったのは給料日。
工員さん達はお互いに給料を見せ合うらしく、相手の方が高給だと「なんで?」と社長に直談版にいく。
何人も直談版に来るので、社長室の前には人がずらりと行列が!
そして納得できないと他の工場に移る。
日本では親しい同僚にも給料明細を見せないのでびっくりした。


ある時、工場に新人さんが入ってきた。
靴の経験がないらしく、型紙の切り方を一生懸命教わっていた。
少し経って型紙を切れるようになった頃、
「私ね、別の工場に行くことになったの」
「型紙切れるなら、うちの方が高い金額出すよって誘ってくれたの。頑張ってよかったわ」
あ、あ、そう!?おめでとう。
日本だと「教えてもらった恩義」でもう少し頑張ろう、となりそうなところをあっさりとサヨナラするのには潔ささえ感じた。


どうやら自分にスキルがあるなら、そこにはお金を払ってもらう、という価値観が一般的らしい。
工場を移る人もそれなりにいるので、移籍した工員さんとの交流で今の金額で妥当なのかも確認しているみたいだった。



そんな中、いつも通訳をしてくれているチェンさんが「私、他の工場に移るかもしれない」と話をしてきた。

私:『ホンマに!?ちょっと困るよ〜、チェンさんがいなくなると工場と話できなくなっちゃうよ!』

チェンさん:「私もこの工場を好きなので移りたくないのだけど、声をかけてくれている工場の方が1,000元金額高いの。今の工場は好きだから500元金額アップしてもらえるなら今の工場で働くわ」

「で、お願いがあるのだけど、今度の出張でリカさんから社長に私がどれだけ取引先にとって重要かを語ってほしいの」


まじで!!
取引先が社長に金額交渉加担するなんて、そんなのアリなの!?と思いつつ、上海蟹で手をベトベトにしながら渋る社長さんと話をした。
通訳はチェンさんで、私はひたすら「ウーバイ、ウーバイ(500元)」と話しただけど、交渉はうまくいったようで無事にチェンさんの給料は500元UP。



私にとってこの経験は新鮮で、お金のことは語ってはいけないと思いこんでいたのが「語っていいんだ!むしろ自分がモヤモヤするのならば交渉するものなのか!」と思うようになった。
もちろん、これは中国での経験であって日本では違う。
わかっているけど、「どうしてお金の話は語ってはいけないのかな?」とモヤモヤが抑えられなくなった。


当時、会社に5歳下の男性デザイナーが入社してきた。
彼はグラフィックソフトが使えないので、彼のブランドのカタログ製作は私が担っていて、業界経験も私より浅い。
そして、ひょんなことから知った彼の給与金額は私よりも数段高かった。
そのことをチェンさんにぽろりと相談した。

「それはおかしいよ!どうしてそれを社長に聞かないの?」

そうだね、そうだね!社長に聞いてみるよ!
鼻息ムンムンで帰国した私は、そのままのチャイナテンションで社長に電話して疑問をぶつけてみた。



………

まぁ、ここからは多分ご想像通りです。
社長にはスルーされ、一緒に働いていた営業さんにはガッチリ怒られ、居心地が悪くなっただけでした。。

それでも世界ではお金のことをカジュアルに語っていると耳にはしたことがあったけど、経験できたことは大きかったです。
最近は海外身近になってきて、街のコンビニ店員さんも海外に人をよく見かけるし、プログラマーの夫が働く現場にも高頻度で海外の人も働いている。


世界も狭くなってきて、これからはお金のことをストレートにぶつけてくる人も増えるのではないかな。
スルーするのではなく、どうしてこの金額なのか、受け取る側にも払う側にも説明能力が求められていく、少し先の日本もそんな風に変わっていく気がする。


と、南米系の佐川の配達員さんから荷物を受け取りながら、なんとなく想像してみました。
日本でもお金のことを語ることが普通になるかもね。






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