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洋服お直し屋から学んだクライアントコミュニケーション


部屋着にしていたジャージのズボンのチャックが壊れてしまった。
左側のチャックを閉めようとしても閉まらない。
ずっと開いた状態のまま閉まらないのである。


写真(上):右側についているファスナー


困った。貴重な部屋着が壊れては落ち着かない。右側についているファスナーと同じものをユザワヤで探すか。いや、ユザワヤに行ったところで、この色、この長さ、この素材のファスナーが見つかるのか?私は途方に暮れた。


そうだ。適当なファスナーが見つかったところで、うちにミシンはない。
しょうがない。洋服のお直しをしてくれる店でやってもらおう。
悩んだ挙句、自分で直すのは諦めた。


近所の洋服お直し屋を訪ねた。手動のややカタイ戸を開けると、高齢の女性が現れた。白髪頭に藍色のエプロン姿のすぐ奥には作業用のミシンが構えている。

「すみません、ここのファスナーが壊れてしまって」

しばらくの沈黙を経て、女性店員が答えた。

「うーん。右側についているものと全く同じファスナーが見つかるか微妙なところですね。今うちにあるファスナーだと長さが違いますし・・・。」

女性店員が1分間ほど姿を消した。今うちにあるファスナーというの探しているのだろう。しばらくすると3本のファスナーを見せてくれた。



どうせ部屋着にしかしないジャージだ。ファスナーが右左同じでなくて構わないし、多少色や長さが違ってもいいと伝えてみた。すると、わずかな沈黙を挟んで店員さんがこう言った。


「ジャージのファスナーって、使います?」


そうか。確かにジャージのズボンについているファスナーなんて、使った試しがない。「どのジャージにもついているから」当たり前についているものと思ってしまっているだけで、ファスナーを開け閉めして何かをすることなど私にはほぼないのだ。風呂場を掃除するときは捲り上げるが、その時でさえ、ファスナーは閉じたままである。ハッとさせられた。客の発言の真意を汲み、ユーザの「ウォンツ」を見抜いた店員に敬意が湧いた。顧客が欲しがっているのはドリルではなく穴だと言う、かの有名な教えの実践者に、今日このような場で出会えるとは・・・。


さらに店員は続けた。

「ファスナーを無くして、縫い合わせるのでしたら、1000円お安くできますが」

なんと、ファスナーを付け替えるよりも安いオプションがあるとは。私は即合意して、10日後の受け取りを約束し、店を去った。


写真(上):10日後に受け取ったジャージのズボン


相手が本当に求めているのは何か。私もあの店員のように、相手の発言の真意や趣旨を見抜くことのできる人間になりたい。明日からの仕事にも生きる学びを得られた休日の昼下がりであった。


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