凋 (詩)

凋 芒川良



水流が歪むような音で目をさました
くちびるは弱く震えていて
それが素晴らしいことだと信じられる限りに
道路には凍っていてほしかった
まだひどく朧な視覚をどちらに向けても
少しずつかなしくなるだけだから
叶わないのならわたしたちは
ただ眠ればよい



一人称に迷うときがあり
その殆どの場合では
僕、が正解だった



あなたはスマートフォンのカメラ越しに
雪の降る神社を眺めていて
髪が湿ることなど意に介さず
どうにかその白さを言葉にしようとする
いくつか僕の知らない表情を見せた後に
白いね、とだけ口にして
僕は適当に
寒いよ、と応えた
本当はそんなに寒くない境内はやたらと静かで
そのとき僕はそういう白さなのかもなと妙に
納得した 気がする



何かを思い出そうとして邂逅する思念は
いつも唯ひとりの記憶だから
あなたにとって僕の一人称は何だっていいだろう
そういう寒さがたしかにあることも心地がよく
なんとなく窓を拭いて
道路を眺めても凍ってはいなかった



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