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錯覚

飼い猫のかわらは、チーズが大好物だ。
夕食が終わると、私たち夫婦は2次会モードになる。小魚とかチーズとかナッツ類をつまみながら、お酒(主にワインとチューハイ)を飲むのだが、その時間になると、必ずかわらが来る。そして食卓に居座る。
チーズが狙いだ。
かわらが好きなのは6Pチーズ。
匂いの強いものは食べないので、おつまみのチーズは次第に6Pチーズに固定されてきた。

比較的安い6Pチーズは、家計には優しい。
だが、家内に言わせると、6Pチーズは給食のおやつ。
酒の肴には、もう少し香りや味が楽しめるものがいいと言う。

6Pチーズと言えば、雪印がブランドだが、それでも家内は不満である。
その上、かわらが好むのは、雪印よりもコンビニとか、スーパーの名前が入っていて、より低価格の6P。
その価格帯だと、ゼラチン感が強くて、全然チーズっぽくないと家内は言う。

だが、かわらが好きなチーズなのだから、私にはそれしか選択肢がない。

とは言え、かわらが食べるのは、扇型に切り分けられたピースの角の部分。
そこをカットしてできる一辺が7㎜ほどの小さな正三角形のチーズ片が、かわらの取り分。
残りの主要部分は、私たち夫婦で分け合っている。

6Pチーズの1ピースだけなのだから、かわら用とは別に、高級チーズでも何でも、好きなものを用意すればいいだけの話なのだが、家内はチーズは一品、分量は6Pチーズの1ピース分相当と決めているらしい。

なので、6Pチーズを一つ買うと、それで6日間は食いつなげる。

先週の土曜日、その6Pチーズが無くなったというので、家内に買い物を頼まれた。
近くのスーパーへ行って、ついでにビールも買ってきて欲しいと言う。
スーパーの50円引きのクーポンを渡された。
スーパーまでは、歩いていける距離だが、午後4時を過ぎているとはいえ、外は炎熱地獄。
車で行くことにした。

西日が当たっていた車内は、大が付く炎熱地獄だったが、窓を開けっぱなしにして走行したら比較的涼しい風が入って、それなりに快適だった。
冷房は付けない。
車内が冷える前にスーパーに着いてしまう距離。
けっこうな大汗はかいたが、たぶんスーパーの冷気で、汗は一瞬で引っ込むはず。

スーパーの駐車場は混んでいたが、運よく一台分の空きスペースがあった。
そこにバックで車を進める。
ブレーキで速度を加減しながら、隣の車を視界に入れつつ、車止めぎりぎりまでバックする。

とその時!

いきなり車が急速にバックし始めた。
ブレーキは踏んだままなのに!

どんどん後退していく。
車止めはないのか?
なぜ、止まらないのだ?

パニックになった。
思い切りブレーキを踏んだ。

その瞬間、私は完全に静止していることに気が付いた。

右隣にあった車は消えていて、一つ先のスペースの車が見えた。

その時、事の真相を理解した。
錯角だ!
駐車位置の目安にしていた隣の車が急発進したのだ。
それで、私の車がバックし続けたように感じたのだ。

理由が飲み込めて、頭のパニックは収まった。
だが、体の方のパニックは簡単には収まらない。

力いっぱい踏みしめている右足は、まるで死後硬直のように動かない。

しかし、ブレーキで良かった。
これがアクセルだったら・・・。

そう思ったら、どっと冷や汗が出てきた。
いや、これは冷や汗とは違う。

冷房も付けない車の中。
窓は開けてあっても風は入ってこない。

文字通り汗びっしょりになって車を降りると、ふらふらとスーパーの方へ歩いて行った。


家に帰って、マイバックを家内に渡して、事の次第を話そうとしたら、家内が言った。

あれ? チーズ忘れたの?
かわちゃん楽しみにしてるのに。

こっちは、それどころじゃなかったんだ!

そう、心の中で叫んだが、やはり私は生粋の猫バカである。
もう一度、スーパーに行くことにした。

今度は、ちゃんと冷房を付けて、頭もしゃんとさせていくことにしよう。

さて、見出し画像を見て、数学関係の話かと錯覚された方もいらっしゃったかもしれない。
でも、もうお分かりかと思う。

錯角と錯覚

単なるダジャレだった。
画像はウィキペディアから拝借した。

なお、この画像は著作権の対象にはならないそうである。

このメディア上の素材は、人の思想・感情を伴わないものであるか、人の思想・感情を創作性に欠く方法により表現したものであるか、もっぱら実用的・工業的分野に属するものであるため、著作物の要件を満たさず、著作権の対象となりません。

しかしこの記事では、一種のレトリックのために使っている。
したがって、この場合は記事の構成要素として創作性があると思うのだが、いかがだろうか。

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