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【はじめてのnote】小林秀雄「カヤの平」

 小林秀雄と言うと、難解な文章を書く気難しい老人という印象が先に立って好きになれなかったのだが、「カヤの平」を読んで印象が一変した。
 スキー初心者の小林秀雄が『日本百名山』で有名な山男の深田久弥に引きずり回される格好で信州の雪山を滑走する。
 いつもの自信たっぷり、居丈高な小林はそこにはおらず、ただただ這いつくばって死に物狂いで深田を追いかける様が、可愛らしく、愛おしい。

 発哺は大雪だった。サラサラした粉雪が毎日降りつゞいた。雲の切れ間、凍る様な夜空に、星と一緒になって長野の灯が見えた。凛烈な山気のなかで、何一つ手につかなかった。

小林秀雄「カヤの平」『栗の樹』(講談社文芸文庫)

 小林はランボオ『地獄の季節』の翻訳者、つまり詩のひとでもあったのだということを思い出させられる。

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