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天才が書いた小説ーー矢作俊彦『あ・じゃ・ぱん!』

ひょっとしたら一番好きな小説かもしれない。

ドイツや朝鮮半島のように日本が第二次世界大戦によって東日本と西日本に分断されてしまうという歴史改変、偽史小説。

東日本は共産主義国家になっており、ソ連の強い影響下にある。第一党の日本統一労働党の書記長が中曽根康弘、これを転覆しようと目論む反政府ゲリラ・独立農民労働党の党首が田中角栄である。
一方の西日本は吉本興業が牛耳る資本主義社会で、創業者一族の吉本シヅ子(笠置シヅ子)が内閣総理大臣を務めている。
吉本興業の社長は杉本高文、田中角栄の側近は飯沼勲という偽名を名乗る平岡公威という人物。

杉本高文が明石家さんま、平岡公威が三島由紀夫の本名で、飯沼勲は三島の遺作の登場人物の名前だと知っていれば(あるいはググりながら読めば)この小説の面白さは何十倍にも膨れ上がるだろうし、中曽根康弘が現実世界でタカ派だったことを知っていれば、小説世界で共産主義国家のトップに収まる中曽根を著者の矢作がいかに節操のない人物と見ているかがわかる。

ほぼすべてのページにこの手の当て擦りやパロディを書き込んだ才能には舌を巻くしかないし、世界広しと言えどもこんな芸当ができるのは矢作俊彦しかいないと思う。天才の所業としか言いようがない。

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