メタファーとメトニミー〜シネクドキーを添えて〜: あなたは詩人

🙆‍♂️「おい、親友!年齢=恋人いない歴の私にもようやく春が来た!!」
👮‍♂️「俺を裏切るのか⁉︎俺たちエターナルフリー同盟築いただろう!?」
🙆‍♂️「ふっふっふ。ペンケースを拾ってもらったのが縁でな。人生とは芝居だ。ようやく私にもスッポットライトが当たる日が来たのだ。祝いたまえ。」
👮‍♂️「あー。逮捕します。傷害罪。心の傷害罪、故、逮捕します。」
🙆‍♂️「なんでだよ!」

という、どこかで繰り広げられてそうな会話ですが、日本語としての解釈に違和感を感じた人はいますでしょうか?おそらく、(何してんだこの人ら。)という感想こそ抱いても、会話自体はスムーズに理解できるはずです。しかし、よくよく見てみると、上記の発話には「喩え言葉」がふんだんに使用されています。最初の「おい、親友!」という発言が実際に指し示すのは、「発話者と親友関係にある人物」です。つまり、関係性を言語化することで、人物を現しています。これをメトニミーと言います。また、「春がきた」というのは、恋の芽生えをまさに季節に喩えていますし(メタファー)、「ペンケース」はなにもペンだけを入れるケースではない(消しゴムとかマーカーも入れる)のに、ペンが内容物を代表して表しています(シネクドキー)。
そう考えれば、我々は日常生活で大量に「喩え言葉」を使用していると言えるわけです。
「あなたは毎日比喩表現を使うね。」と言われたら、「誰が詩人じゃい!」とツッコミたくなるかもしれませんが、実際、我々は詩人みたいなもんなんです。すなわち、メタファーやメトニミー、シネクドキーは、「単なる修辞表現ではなく日常言語の一部である」と言えるのです。
以下、もう少し詳しくそれぞれの用語について述べます。

① メタファー

メタファーとは、概念的に漠然としたものや理解が難しいものを、より明瞭な別のもので喩えることを言います。例えば、「思考」ー。抽象的で曖昧なもので、いきなり「思考について述べよ」と言われたら、「どこの入学試験やねん」とツッコミたくなります。それくらい、普段意識されにくい漠然とした概念です。しかし、我々は「その考えは鵜呑みにできん。」とか「なんだか君の意見は消化不良なんだよなあ。」と言ったりします。つまり、「思考は食べ物だ」というメタファーで理解しているということになります。
メタファーのポイントとしては、喩えるものと喩えられるものは全く別領域のものということです。それこそ、思考と食べ物というように。
よく分からない対象(専門用語で目標領域)を、類似した別の理解しやすい対象(専門用語で起点領域)で表すのが、メタファーなんです。

② メトニミー

メタファーが、類似性に基づき別領域のものを喩えに使うとしたら、メトニミーは、同じ領域間の隣接性に基づいて喩える対象をずらすことと言えます。「鍋が煮えている」という時、言語化されているのは「鍋」ですが、実際に煮えているのは「(鍋の中の)具材」です。この時、鍋とその中の具材は隣接関係にあり、直接指し示すには難しい「具材」からより明示しやすい「鍋」にずらして発話しているというわけです。すなわち、「容器と中身」の隣接性ということになります。
他によく知られている隣接関係は「全体と部分」で、「顔が広い」や「扇風機が回る」が具体例となります。顔(部分)でその人(全体)を表したり、扇風機(全体)で扇風機の羽(部分)を表したりします。

③ シネクドキー

シネクドキーは、「種と類」の関係ということができます。例えば、「ペンケース」だと、中に入れるのはペンだけでなく他にも色々ありますが、ペンという具体的な成員が一般的なものを代表しているということができます。これは、下位概念が上位概念を表す例ですが、逆もあります。「花見に行った」という時、「花」は具体化され「桜」を表します。上位概念が下位概念を表す例です。
注意したいのは、メトニミーの「全体と部分」関係とシネクドキーの「種と類」の関係は別物ということです。「顔が広い」は顔でその人物を表しますが、顔自体で人間とは言えません。一方、シネクドキーでは、上位概念Aと下位概念aにおいては、aはAの一つです。(ペンが筆記用具全体を指す時、ペンはそれ自体が筆記用具である。)ここの区別は重要となってきます。

以上、三つを見てきましたが、共通するのは、コミュニケーションを円滑にするために効果的な方法を採用しているところです。暑くて暑くて、一刻も早く部屋を涼しくしたい時、「扇風機を回して」と「扇風機の羽を回して」が同じ内容を指すとしたらどちらを発話したいでしょうか?おそらく前者でしょう。(ストイックな方は別として)
喩えたり、ずらしたり、代表させたりして、我々はよりスムーズな意思疎通をこなしているのです。そしてそれが可能なのも、類似関係、隣接関係、カテゴリー関係を見いだせる我々の能力による、ということで、「認知言語学」の「認知」に還ってくるのです。


お後がよろしいですね。


参考
辻幸夫(編) (2013) 『認知言語学キーワード事典』研究社.
吉村 (2004) 『はじめての認知言語学』研究社.



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