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塗料メーカーで働く 第三十五話 慰労会

  3月12日(火)午後7時に 平塚駅の近くにある 「鳥秀」という名の焼鳥屋で 新規事業部で研修を受けた新人の慰労会が開かれた。 

 慰労会は 上司の川上課長が声を掛け 他の部長職を除いた勇士のメンバーで開かれ 気の合うメンバーが集まった。             

 この頃 川緑は 明日の出張の準備で 会社に残り 報告資料を準備していた。

 居室の電話が鳴り 受話器を取った川緑は 「はい 技術部です。」と言うと 「何 仕事やってんの。止めろよ 早く来い OK?」と言う声が聞こえた。

 それは 慰労会場にいた福永係長からで 返事を待たずに電話は切られた。 

 焼鳥の 「鳥秀」は 川上課長の行きつけの店で 彼に連れられて何度か来たことがあった。

 のれんを潜り開き戸を開けると 店内は5m×4m位の広さで 7名から8名掛けのカウンター席と 横に4名掛けのテーブル席があった。

 「へい、らっしゃい!」 通称 「マスター」と呼ばれている店主の声に 「こんばんは。」と答えて 店内を見渡すと そこは会社のメンバーで貸切状態になっていた。                    

 ビンビールを片手に持ち 川緑は 浜崎さん等実習生に 「お疲れ様でした。」と声をかけて 彼等のコップにビールを注ぐと 会話に加わった。

 浜崎さんは 一仕事終えて 緊張が解けたような 陽気な表情になっていた。         

 川緑は 彼の発表の印象を話し その中で有働技術本部長に 「数学が得意だね。」と褒められた時に「教えてもらいました。」と言ったことに対して 「そういう時は 勉強しましたと言えばいいよ。」と言った。 

 それは 新人の研究発表会であっても 周りからは発表者本人の主体性が評価の対象となるからだったが それでも川緑は 彼の素直な態度に好感を持てた。
   
 以前から 川緑は 上司に 浜崎さんを技術部に採ってもらいたいと要望を伝えていた。  

 彼に このまま 「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」を続けてもらい UV硬化の理論の構築を進めたいと考えていた。

それは 実習中に 彼が それまで経験したことがない業務を行う時に 例えば新しい実験であったり 数値解析用のプログラムを作成する時に それらの業務に 好奇心を持って取り組んでいるのが分かったからだった。

 新人研修発表会の翌日 川緑は 川上課長から 浜崎さんの配属先が他の部署に決まったことと 4月の人事異動では 川緑のチームには誰も配属されないことを知らされた。

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