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塗料メーカーで働く 第五十四話 ユーザートラブル

 5月13日(水)午後4時頃 川緑は実験室で作業していると 松頭産業社の菊川課長から電話が入った。

 この日 課長は 古友電工社三重事業所へ出張訪問して 先週 川緑の送付した新タイプのUVカラーインクサンプルの評価結果を聞きに行っていた。

 「川緑さん。 実はですね。」と言うトーンの低い声に 川緑は 結果が良くなかったと分った。

 課長は 白色インクを用いて試作した光ファイバーについて 光の伝送特性を評価した結果 伝送損失が大きく 使えないレベルだったと言った。

 5月20日(水)午後2時頃 松頭産業社の菊川課長 営業の渕上課長と 川緑は 新タイプのUVカラーインクの評価結果の詳細を聞くために古友電工社三重事業所を訪問した。 

 通された会議室で待っていると 間もなく 生産技術課の秋吉課長 村崎主任 資材の担当者2名がやってきた。                            

 一気に体重を掛けるようにソファーに腰を落とした秋吉課長は 来客を見回すと 開口一番 「対応が遅い!」とどやしつけた。     

 中背ふっくら体形 一見温厚そうな丸顔 声の太い課長の声は 歯切れ良く 迫力があった。

 大柄 ガッチリした体形 面長で顎鬚を蓄え どこか鐘馗様を思わせる風貌の村崎主任は 「御社に連絡を入れてから一週間も経ってますよ!」ときつい口調で言った。 

 二人の剣幕に押されて 三人は恐縮し 口を揃えて 「申し訳ありません。」と言って頭を深く下げた。

 この一週間 川緑は 電線メーカー各社向けのUVカラーインクの納期対応に追われていて 古友電工社行きの日程調整ができなかった。

 秋吉課長は 「光ファイバーの製造ラインを1日止めると どれくらいの損失になるか知ってますか?」 と言い 「お金の件については 別途相談させてもらいます。」と言った。

 彼らの話を聞いていた川緑は 頭から冷や汗が流れるのが分かった。

 3人が頭を上げると 村崎主任は 8色のUVカラーインクの評価方法と結果について説明した。              

 評価方法は インクをコートした長さ1キロメートルの光ファイバーを作製し それを ボビンと呼ばれる大きな糸巻きに巻きつけた状態で 光ファイバーの一端から レーザー光を送り 他端から出てくる光の特性を調べるものだった。

 その結果 白色インクを用いて作製した光ファイバーのみ 伝送損失が大きかったとのことだった。

 菊川課長は 「ご迷惑をお掛けしまして申し訳ありません。 明日中に トラブルの原因究明と対策のスケジュールを提出させて頂きます。」と言った。

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