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障害年金の現在地②


こんにちは。
埼玉で社会保険労務士をしていますさかたです。

7月に埼玉県社会保険労務士会の障害年金の自主研で外部講師をさせていただくことになりました。3時間もしゃべり続けなさい、という大役です。

社労士向けに話すのは静岡県の必須研修の講師以来ですが、ぼちぼち頑張ります。よろしければお越しください。

平成22年頃の障害年金

開業したのは平成22年3月。この頃の障害年金は現在とだいぶ異なっていたように思う。精神の診断書には、まだ「現症時の就労状況欄」がなかった頃だ。
障害年金というのは公的制度だから、制度として安定していて常に公平なものという印象が世間一般にはある。ただ、実際には制度変更であったり、我々には見えないような内部での取り扱いの変更によって、細かい変化が結構ある。

その中でも初診日を争うケースというのは現在と同様にあって、たとえば「第三者証明」というのも開業当初はなかった。

これは画期的だ!と当初は思ったが、そもそも第三者に「どこどこの精神科にいつ頃受診して、◎◎と診断されたんだー」などとそうそう言うはずもなく(ましてそれは数十年前のことだから時代背景もあるだろうし、言われた側の記憶力の問題ももちろんある)、制度開始早々に提出した障害基礎年金では、他の資料が全くないにも関わらず認められたが、その後の成績は芳しいものにはならなかった。

結局、その他の資料がある程度必要となり、果たして第三者証明自体、そもそも必要なのか、その存在意義は何なのか、というのが個人的な印象だ。

等級判定のガイドライン

平成28年9月に等級判定のガイドラインが作られた。これはこれで画期的なのだが、そもそも地域差による不公平が確認された、というのが作られた背景である。

それまでも当然、障害認定基準自体はあった。
精神の2級の基準を抜粋してみよう。

1 統合失調症によるものにあっては、残遺状態又は病状があるため、人格変化、思考障害、その他もう想・幻覚等の異常体験があるため、日常生活が著しい制限を受けるもの
2 そううつ病によるものにあっては、気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり又はひんぱんに繰り返したりするため、日常生活が著しい制限を受けるもの
(略)
(3)日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能、特に知情意面の障害も考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断するよう努める。また、現に仕事に従事している者については、その療養状況を考慮し、その仕事の種類、内容、従事している期間、就労状況及びそれらによる影響も参考とする。

国民年金・厚生年金保険障害認定基準(平成22年11月1日改正)第8節/精神の障害2認定要領A

今、手元からサクッと出てきた最も古い基準が上記だが、見てもらった通り、診断書の日常生活能力欄のどこにどのようなチェックが入ると上記に該当するかは全くわからない。

(3)に至っては、「社会的な適応性の程度」とは具体的に何を指して、それがどうだとどう判断するのか、「就労状況」がどうだとどう判断するのか全く示されていない。考慮しろ、考慮しろ、参考にしろ、とは書いてあるが、どう考慮し、どう参考にするのかが示されていない。

つまり「この人が何級なのか」というのは、診断書を読んだ読み手(認定医)が印象で決めている、と理解するしかない状況だった。

認定部署間で統一されていればまだ良いのだが、当時、障害基礎年金は47都道府県に置かれていた事務センターで認定していたから、認定部署自体がたくさんあり、結果として大きな地域差が生まれることに繋がっていたのである。

地域差が報道され、専門家会合が立ち上がり(当時、厚労省へ傍聴にも行った)、是正に取り組まれてガイドラインが公表されたのが平成28年9月である。
ようやくここでマトリックス表ができて、どこにチェックが入ると何級、という目安が平成28年にできましたー!・・・というような話を講演ですると、皆「やべーな、この制度」という顔をして聞いている。

上記のような状況だったから、審査請求や再審査請求でも精神の障害の程度を争うことも相当数あって、そのうち処分取消(3級が2級になったり、不支給が2級になったり)ということもそれなりに存在していた。

現在は、精神の障害の程度を争っても、不服申し立て段階ではほとんど認めていない(全ての取消裁決に目を通しているわけではないが、等級を変更した裁決を最近見たり、周囲の社労士に共有してもらっていない)のが現状と言える。

ちなみに、等級判定のガイドラインは施行後3年を目途に見直し等を検討する、とされているが、現在のところは特に行われていない。

いわゆる「更新」について

最近の変更点と言えば「更新」だと個人的に注目している。
障害年金における「更新」とは「障害状態確認届の提出」に当たる。障害年金は有期年金で、等級を決めるときに何年出すかを一緒に認定医が決めている。(ちなみに何年支給するかの具体的な基準はない)

支給する期限が近づくと、保険者からは障害状態確認届が送られてくる。それを提出して、障害状態に変化がなければ同じ等級の障害年金が支給される仕組みだ。障害状態確認届の提出を求めるからには、支給停止(もちろん増額改定も減額改定も)があり得る、つまり障害状態は時間の経過によって変動の可能性がある、というのが保険者の認識であることを理解しておく必要がある。

令和元年度の新規裁定者の「更新」については、実は「1年」という人が29.3%もいた。1年だけ障害年金を出すよ、という処分なのでこれより短い期限はない。普通に考えれば、支給停止(または減額改定)予備軍と言ってよい。一方で「5年」は12.2%になっている。

これが令和3年度になると「1年」の割合は驚異の2.8%に激減している。その一方で「5年」は32.2%に激増しているのだ。ちなみに令和4年度では1.6%とさらに下がっている。再認定の方も令和元年度で1年とされた人は12.2%だったが、令和3年度では0.7%と下がっている。

この頃、障害認定基準に劇的な変化があったかと言うと、全くない。

これは更新の頻度が下がるという観点で良い変化ではあるのだが、保険者が内部運用を変えているということであれば、単純に良いこととは思えない。当然、短くすることだってできてしまうからだ。

まとめ

障害者雇用が与えた障害年金への影響についても本当は書きたかったのだが、これについてはまたいずれ触れたい。

全体を通じて、障害年金制度は少しずつ良くなっていると個人的には思っている。もちろん現状でもいくつか「それはどうなの?」という点がある制度だとは思うが、欠陥が一切ない制度というのは存在しないだろう。

いずれ根本から見直すことがあるかもしれないが、既得権への対応も含めて、現状の枠組みの中で改善していっている制度だとは思っている。

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