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[シナリオ] 居場所探し

◯山奥(夜)
   林が多い風景。
   物静かな暗い空間の中に響くスコップの音。
   ××××
   車のライトの前に立つ山田太郎。
   何かを埋めている。
   息切れをしている。
◯旅館・事務室(朝)
   管理人(60)に紹介されている山田太郎(24)。
管理人「今日から新しく入りますバイトの山田・・・えーと太郎くんです。(半笑いし) 今時珍しく変わってない名前の子です。じゃあ自己紹介を」
太郎「きょ、今日から新しく入りました。バイトの山田です。よろしくお願いします」
管理人「じゃあ。山田くんのお世話を、担当するのは、富田さんで。富田さんに色々教えてもらってね」
   黙って頷く太郎。
   名札に「富田友蔵」(50)と書かれた男性を見る太郎、
友蔵「富田です」
   軽く頭を下げる太郎。
◯浴槽(朝)
   浴槽の掃除を太郎に教える友蔵。
◯料理部屋(夜)
   料理の運び方や置き方を教えている友蔵と教わる太郎。
◯喫煙室
   タバコを吸う太郎。
太郎「ふぅー」
   入ってくる花丘ユウリ(30)。
ユウリ「またあったね」
太郎「はい。花丘さんでしたっけ?」
ユウリ「そっ。またよろしく」
  タバコに火をつけるユウリ。
ユウリ「なんか縁があるのかな」
太郎「ど。どうなんすかね」
  苦笑いな太郎、沈黙になる二人。
ユウリ「長く続きそう?」
太郎「うーん。・・・どうっすかね」
ユウリ「またやめそうだね」
太郎「えっ」
ユウリ「なんか積極的じゃ無さそう。ま、それ言ったらあたしも同じか」
   一服するユウリ。
太郎「はあ・・・」
   マイペースにタバコを吸う太郎。 
◯事務室(夜)
   事務室に顔を出す太郎とユウリ。
太郎「お疲れ様でした」
ユウリ「お疲れ様です」
  自分の席で作業中の管理人。
管理人「あっ、お疲れ様。またよろしくお願いします」
◯駐車場付近(夜)
  二人並びに間を空けて歩く太郎とユウリ。
ユウリ「あーあ。つっかれた」
太郎「あ、あの、ユウリさんって、普段は仕事とかしてるんですか?」
ユウリ「えっ?まあバイトと同じくらい、転々としてるけどね。そっちは?」
太郎「ぼくも・・・そんな感じかな」
ユウリ「だろうね。だって前だってたった1日しかこなかったじゃん?暮らしていけるのかって思うんだけど?」
太郎「・・・・居心地が良かったら、続けるつもりでした」
   立ち止まるユウリ。
ユウリ「はい?」
  立ち止まる太郎。
太郎「なんというか・・・ここが自分の居場所  かなって思える現場がないというか。そういうところを見つけたら、続けようって思う・・・というか」
  鼻で笑うユウリ。
ユウリ「なにそれ。まあ、なんとなくわかるかな」
   自分の車に向かうユウリ。
ユウリ「おつかれ」
太郎「・・・・」
◯太郎の車内(夜)
   運転席に座る太郎、エンジンをかける
   後部座席にあるスコップ。
◯旅館(朝)
   朝礼をしている太郎とユウリを含めた社員たち。
管理人「では本日も.よろしくお願いします」
社員たち「よろしくお願いします!」
◯浴槽(朝)
   掃除をしている友蔵と太郎。
友蔵「なあ?もう忘れたの?」
太郎「えっ?」
友蔵「えっ?じゃなくてさ、ここやる前にオレどこ先やれって昨日言ったかな?」
太郎「あっ。すいません」
友蔵「オレが教えたこと、無駄にさせないでくれよな」
太郎「すみません」
   ××××
◯客室
  食事を並べている太郎。
友蔵「ご飯の置く位置が違う」
太郎「あっはい」
友蔵「(ため息)もういい。オレやるから掃除行っててくれ」
   拳を握る太郎。
◯調理室
  モップをかける太郎。
友蔵「なあ、なあ?あのさ!」
太郎「はい?」
友蔵「モップかけたことありますか?」
太郎「あっはい。あります」
  太郎のモップを奪う友蔵。
友蔵「まあオレやり方教えてなかったもんな。ごめんごめん」
   モップをかける友蔵。
◯休憩所・更衣室
   エプロンを取る太郎。
   友蔵たちの会話が聞こえる。
   ××××
社員「どう?新人さん」
  首を横に振る友蔵。
友蔵「オレが教えたこと、全部忘れてんだよ。ほんと最近の若者はさ、便利なものに頼りすぎてるせいで、まるで覚える力がないというかさ」
社員「まあ、オレらの頃とは違うかもしれねぇわな」
友蔵「本当、苦労をドブに捨ててる感じがして嫌になるよ。「ヤニ」だけに」
   笑い出す二人。
   拳を握る太郎。
◯喫煙室
   タバコを吸う太郎。
ユウリ「どう?居場所になりそう?」
太郎「わかりません」
ユウリ「・・・そうだ。この前連絡が入ったんだ。ほら、前私とあんたが勤めてた会社の、あのパワハラ上司、行方がわかってないんだって。あんた、なんか知らない?」
太郎「いえ」
ユウリ「そっ。まああたしらには関係ない話だけどね。でもあいつ、あんたにはあたり強かったよね」
  マイペースにタバコを吸う太郎。
太郎「・・・」
◯客室(夜)
   お盆をもって食器の片付けをしている太郎。

友蔵「おい!山田!なにやってんだ!?」
太郎「はい!」
  貧乏ゆすりをしている友蔵。
友蔵「そこやれって言ったか!?」
太郎「すい・・・」
ユウリ「あっ.あたしやります!君、引き続きそこやって」
太郎「あっはい」
友蔵「・・・全く」
  ××××
社員(声)「お疲れ様でした」

◯旅館・外観(夜)
   私服姿で出てくる太郎、ユウリ、社員たち。
太郎「あの、ありがとうございました」
ユウリ「へっ?」
太郎「さっきの、片付けの時」
ユウリ「ああ。あそこあたしの管轄だったし元々」
太郎「すいません」
ユウリ「いいのいいの。ねえ?それよりさ。ちょっといいかな?」
太郎「えっ?」

◯山奥(夜)
   やってくるユウリの車。
   助手席に座っている太郎。

◯林・車内(夜)
  周りを見渡す太郎。
太郎「あの、花丘さんここって」
ユウリ「あんたさあ、富田のこと・・・殺そうと思った?」
太郎「えっ?」
ユウリ「ねえ?思ったよね?」
太郎「なんですか・・・・急に」
ユウリ「前の上司が行方不明だって話したじゃん?」
太郎「はい・・・」
   ユウリ、スマホをとり太郎に見せる。
太郎「・・・えっ?」
   そこには、上司を首絞めている太郎の姿。
太郎「えっ?・・・えっ・・・えっ!?」
  刃物を出し、太郎を脅すユウリ。
ユウリ「(笑顔で)ねえ?なんで私の獲物を取るのかな?」
太郎「どういうこと、ぼくは・・・なにも」
ユウリ「あんたでしょ!これ!あたしが殺そうと思ってたのにあんたが!先にやった!!」
太郎「なにも、なにも覚えてない!」
ユウリ「・・・・そう。まあいいわ。その腹いせにあんたを探して殺すつもりだったから。こんなに早く見つけるなんてまさに「縁」ね」
太郎「やめてください・・・助けて」
ユウリ「助けて?えっやだ。・・・」
   刃物を徐々に引き。
ユウリ「助けない・・・」
太郎「やめろ・・・やめろめてくれ!!」
   そのまま刃物を伸ばすユウリ。
◯旅館・浴槽(朝)
   掃除をしている太郎と友蔵。
友蔵「おい!何度言えばわかんだよ!日本語通じねえのか!」
太郎「ごめんなさい!」
友蔵「ったくよ!」
  掃除を続ける二人。

◯調理室
   流しでヒソヒソ話をしてる女性社員。
女性社員1「朝礼でも言ってたけどさ、花丘さんどうしたんだろうね」
女性社員2「ねえ、連絡も取れないなんて。何かあったのかしらね」
女性社員1「ねえ。だけど車は駐車場にあったっていうんでしょ?ありえる?自分の車だけ残して消えるって?」
女性社員2「ねえ。君悪すぎよね」
   近くで伝票を見ながら料理の準備をしている太郎。

◯駐車場(夜)
   疲れた表情で車に向かう友蔵。
太郎「お疲れ様でした」
   ため息で返事する友蔵。
太郎「・・・」

◯車道(夜)
   赤信号になり停車する友蔵の車。
   車内で大あくびをする友蔵。
   後ろからやってくる車。
   バックミラーを見る。
   ブレーキランプが運転手の顔を見せる。
   運転手は太郎。
友蔵「あいつ、この通りだったのか。マジかよもう」
  青信号になり、発信する。
   車間距離を充分に開けて、発進する太郎。
   猛スピードで迫ってくる。
友蔵「おいおいおい!あげてねえかあいつ」
  逃げるように走る友蔵の車、煽り運転する太郎の車。
   車が当たる。
友蔵「うわっ!」
  無表情の太郎。
   車を当て続ける。
   友蔵の車がガードレールにぶつかり、クラクションを鳴らしながら倒れる友蔵。
   ××××
   目を覚ます太郎、周りが騒がしい。
   辺りを赤く照らすパトランプの光。
   警察がいる。
太郎「えっ?どこ?ここ?なにがどうなって・・・」
  タンカーに運ばれている友蔵を見る。
太郎「富田さん」
   警察がノックする。
警察「警察です」
太郎「えっ?」

◯刑務所・牢屋(朝)
   無気力な表情で隅っこで体育座りをしている太郎。
太郎(M)「ぼくには、記憶がない。殺した時の記憶や、自覚もない。だけど・・・ようやく自分の居場所を・・・見つけたのかもしれない」
                        END