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ASMR


◯登場人物
三浦太郎(21)  社会人
ユーリ(不詳) 女性Vtuber
上司 太郎の上司。
友人 太郎の友人
ゆり 太郎の片思いの相手。

 映し出されるユーリの上半身。
ユーリ「こんばんは、君だけの女神、ユーリでーす。今日もあたしに甘えたいみんな。こっ   ちにおいで。あたしが全部、受け止めであげる」
  微笑むユーリ。

太郎「あーあ」
 社会人1年目。そして彼女いない歴21年。結局女性と付き合った経験もないまま、俺は社会人になってしまった。今の俺の日常は。
上司「おい三浦!ちょっと来い!」
太郎「はい」
 毎日上司の前に立たされ、こう言われる。
上司「全くお前は何回間違えれば気が済むんだ!本当に見直ししたのか!?え?!」
太郎「すいません」
 周りからクスクスと社員たちの笑い声が聞こえる日々。これが毎日だ。
  俺は荷物で、上司は手ぶら。
上司「ほら急げ!!お前」
太郎「はい!すいません」
 会社ではこき使われ、みんなに笑い物にされる毎日。
 公園が唯一の休み場だ。ここでコンビニ弁当をいつも食ってる。
太郎「あーあ」
 俺ってなんでこんな人生なんだろうな。
 思い返せば、俺は常に一人だったっけ。
 高校時代。友人にこう言われたことがある。
友人「お前さ、女の子に興味ないの?」
太郎「は?なんでだよ」
友人「いや、お前いつも一人でいること多いじゃん」
太郎「そりゃ、つきたいよ。好きな女の子と」
友人「いるの?好きなこ?」
太郎「まあ、いるけど」
友人「えっ?誰だよ。教えろよ」
太郎「いやなんでだよ。嫌だし」
友人「いいからいいから」
太郎「同じクラスの、前澤さん」
友人「えっ!?ゆりちゃんか?!」
   俺は「うん」と頷く。
友人「話しかけたことあんの?いやないよなおまえ」
太郎「うん。ない」
友人「あーもう。水臭いな。ったく。俺がアドバイスしてやるよ」
太郎「いいよ。そんなの」
友人「お前、ずっと片思いのままでいいのか?えっ?」
太郎「それは・・・」
 結局俺は何も出来なかった。折角の友人のアドバイスも聞かず、否定ばかり選んでた。
 当然、彼女には彼氏がいた。まあ、学校ではマドンナだったけど、ショックを受 けた。こうして俺は片思い続きのまま、春を迎えず学校生活が終わった。

太郎「ただいまー。おかえりー」
 疲れ切ったオレは、スーツ姿のまま、ベッドの上で仰向けになる。
 こんな俺が辿り着いた唯一の楽しみは、今流行りのVtuber。ユーリさんだ。
 俺は、ウキウキした気分を放出させてスマホの画面を開き、イヤホンをつける。そう。この世界にいるユーリさんに会うために。
  スマホ内に映るVtuberのユーリの姿。 
ユーリ「こんばんは。君だけの女神。ユーリでーす」
 チャットに「こんばんは。ユーリさん」と呟き、俺はこの世界の民になる。
ユーリ「みんな、今日も頑張ったね、おつかれ様。今日もいっぱい・・・
甘えていいよ。ねえ」
    微笑むユーリさん。
 オレはユーリさんのトークを黙って聴く。
 いままではぼくの声は彼女に届いてなかったが、ついに、この日が来た。ぼくの声が言葉となり、ユーリさんに届いた瞬間だった。
ユーリ「いつも配信見てます。彼女も作れず、憧れの学校生活を送れずに社会人になってし まった僕にとって、ユーリさんは、僕にとっては輝かしい女神様です。ありがとう。そっ か。ずっと寂しい思いをしてたのね。今日も甘えていいよ。おいで、ほら。おいで」
 優しく頬みながらいうユーリさん。
 嬉しさのあまりに俺は、目を閉じた。
 そして俺は・・・目を開け時、目の前にいたのは・・・。
太郎「ユーリさん」
 真っ白な空間。ユーリさんは、ぼくの前で両手を広げていた。
ユーリ「ほら、いっぱい甘えていいよ。おいで」
太郎「(嬉しそうな表情)」
 ぼくは、ユーリさんに頭を撫でられた。
ユーリ「よしよし」
太郎「僕、ユーリさんみたいな優しい人に会いたかったです。現実の世界で。でも実際は、
 現実よりも、こっちの世界の方がいいかも知れない。最近そう思ってばかりで」
ユーリ「そう。でもいいじゃない?今はこうしてあたしに会えてるんだし」
太郎「・・・今は、ですよね」
ユーリ「?」
 うれしさのあまりにぼくは涙を流す。
太郎「もう、現実には戻りたくない。ずっとここがいいです。だってここじゃ、誰も僕を否 定したり、馬鹿にしたり、自分で自分を、責めなくて済むから。情けない」
ユーリ「そう、じゃずっとここにいる?」
太郎「えっ?」
ユーリ「ねえ?ずっとここにいて、あたしと過ごす?」
太郎「本当なら、そうしたいです。そんなことができるなら」
ユーリ「じゃあ、ずっと一緒にいようか。ね」
優しく微笑むユーリさん。
太郎「・・・・」
ユーリ「あたしに命、捧げてくれる?」
   首を傾けて微笑むユーリさん。   
  ユーリさんのその神秘な微笑みに魅了され、頷くしかなくなる僕。
ユーリ「じゃあ、契約成立ね」
太郎「契約?」
  その時、ユーリさんはぼくの耳元を噛んだ。
太郎「!?」
 この時、ユーリさんの存在を、感じた。彼女  が噛んだ瞬間に、耳が傷み出す。痛覚が働いた。
    白いフェードアウト。
 僕は今、本当に幸せなのかもしれない。夢の世界。うん。ここは僕の、僕だけの理想の世界。
 スマホの中で微笑むユーリ、後ろには太郎の姿。
ユーリ「また、ちょろいやつを捕まえた。本当男って、馬鹿ね」
     上唇を舐めるユーリの姿。
          END