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働き始めた!ある意味奥が深いシンギングボール教育の実体験。(3)

私の出勤初日は赤ちゃんクラスでした。ちょうど朝ごはんの時間で、ワゴンにパンやバター、りんご等が乗って来ました。よし!と思って私が赤ちゃんにスタイをつけようとすると、一緒にいた園長が制しました。

「ダメよあなた。ちゃんと子供に聞かなきゃ。」

しまった。
前の保育園では全員つけることになっていたので、手が自動的に動いてしまった。気を取り直して、

「これ、つけたい?」

と聞いてみた。コクリと頷く一才児。嫌がったのはずっと泣いている一人だけだった。なんかホッとした。
さあ食べましょうとなる前に、みんなで手遊び歌でも歌うのかと思ったら、園長先生は壁にかかっていたギターを手に取った。私は泣いている男の子を受け取った。嫌がらず私の膝に座ってくれたので、またほっとした。

タララーン

美しいギターの音色。
先生はいつものを歌いましょう、みたいな感じで歌い始めたが、どんな歌詞だったか覚えていない。というのも、アフリカの曲なんだそうで、イメージで言うと、アーブラ・カタブーラーみたいな異国の感じ、ってそれはアラブか。

まさかのドイツ語じゃない。

子供達は大きな目をして聞き入っている。もう園長先生のコンサートに来ているみたいですが、これはこれでアリなのか。

ここの子供達は自主的に動く。
パンを取り、バターを取り分け、自分のナイフで伸ばす。前の保育園では保育士がバターを塗っていたけれど、1歳でもそういう風に習慣づければできるってことですな。時間はずいぶんゆったり流れる。
以前の保育園は大きい所だったからだろうか、なんだかいつも急かされていたなあ。

シンギングボール教育を取り入れているというこちらの保育園では、食べている間も先生がゴーーン、ゴーーンと音を鳴らします。シンギングボールとはお椀の形をした楽器で、低い渋い音が波のようにジワーッと広がる。

静かに食べる。ゴーーン。

初めて見る私に取ってはなんだか変な感じがするが、赤ちゃんの頃からこの音を聞いて静かにしましょうと言われていたら、効果があるに違いない。

その後の朝の会では、子供達と先生は大きなシンギングボールを取り囲んで座ったのだけど、じっと座っている子が多くてびっくり。
以前の保育園では、じっと座れないのが子供の本来の姿かと思っていたのだが。

おそらく園長先生がミュージシャンなんだろう。音楽へのこだわりを感じるし、ゴーンもたくさん鳴らされている。
朝の会中ギターを弾いていた園長は、「このギターは全然ダメだわ」と言って、同僚の一人に別のギターを持ってきてもらった。

私には音色の違いが全然わかりませんわ。

今だに大きい子たちの朝の会には参加していないのだけど、お昼ご飯は一緒に食べたりしている。お昼の時間にもたくさんゴーンと鳴らされていて、これまた新鮮。先生も静かな声で話す。そうしないと低い音のゴーンは聞こえてこないのです。

私はここで、ドイツのフレッシュチーズ(日本語の呼び名はクワルクらしい)が入っている器に目が釘付けになった。

どっかどう見ても、シンギングボールなんですけど!

まさか楽器のシンギングボールに真っ白なフレッシュチーズを入れるなんて、ありえるだろうか。いや、もしかしたら古くなったいらないやつを使っているのかもしれない。ぬぬぬ。

後から聞いた話、食べ物も入れるらしい。そして音を響かせるんだとか。

料理美味しくなるんかいな。もう何でもありじゃん!!

寝る時間ももちろんゴーン。大きさの違う二つのシンギングボールを交互に鳴らしながら、先生が静かに本を読む。
眠れない子には足元にシンギングボールを置いたり、本人が希望すれば腰のところに乗っけてゴーンと鳴らしている。これはいわゆるシンギングボールマッサージというやつか。

私はまだ体験したことがないけれど、シンギングボールを体に置いて鳴らせば、音の波動を直に感じられ、それが癒しとマッサージになるのだそう。
友達に聞いたら、そういうのスパがあるホテルとかであるよね。結構高いよね、とのこと。案外みんな知っていた。

子供もそれで寝ているのだから、効果があるということなのだろう。

何かと以前の保育園と比べてばっかりだが、誕生日会も全く違っていた。
まず部屋が暗い。 デコレーションの小さなライトのすだれが灯ってているだけ。 そして始まりはいつもゴーン。 保育士の先生がうやうやしく挨拶を始めた。

「 今日はリナの5歳の誕生日だ。 誰かリナに幸運を祈ってあげたいかな?」

日本では、あなたに幸運を祈りますよ、なんて言ったりしないもんで、直訳すると変な感じだ。
数人の子供が手をあげたので、リナちゃんは一人の子を指名した。 名前を言われた子は前に進みでて、

「Ich wünsche dir viele Schokolade.(あなたにたくさんのチョコレートがありますように)」

と言った。私は、なんのこっちゃ!と心の中で突っ込んでしまった。
言い終わった子供は小さなシンギングボールをゴーンと鳴らす。そして次の子供の番。

ひたすら静かな誕生会である。以前の保育園の誕生会では、音楽をスピーカーからガンガンかけて、みんなで適当に踊ってたよなぁ。

ドイツでは Ich wünsche dir…(私は君に・・・を願っています)という言い方をする。

相手に願っているのは「素敵な週末」だったり「幸運」だったりする。日本語で頑張って、と言う代わりに使われるのが、

Ich wünsche dir viel Glück!  私はあなたにたくさんの幸運を祈っていますよ

と言う言い回しだ。

リナちゃんはケーキをみんなに持ってきていた。ケーキが乗った皿を持って、彼女が皆に配っていく。赤ちゃんも含め全員が食べる部屋に集合しているので、なかなかの密度だが、みな座って食べていて、モゾモゾしている子はいても、走り回る子などはいない。

ずっとゴーンと鳴っているおかげだろうか。

友達にシンギングボールの話をしたら、

「あれってドイツ人のうち行ったら絶対1つあるよね。玄関とかに置いてある。」

と言っていた。都市伝説みたいな話だが、あったような気もする。

私も1つ買ってみようかな。 心が落ち着いて、自分の子供にギャーギャー言わなくなるかもしれない。

ゴーーン


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