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ゴールドブレス〜蘇る名馬の記憶〜3

 ブーケドロゼブルーの21はその後出資者から馬名を募り、投票の結果「ゴールドブレス」という馬名になった。父ゴールドシップの「ゴールド」に息吹という意味の「ブレス」。黄金の血脈の覚醒を願って、とホームページに書いていた。そんな想いを背負い(馬自身はそんな気はないだろうが)デビューへ向かっていく。


 ゴールドブレスは2歳の1月時点では400kgにも満たない小柄な馬体だったこともあり、馬体の成長を優先し、栗東トレーニングセンターへの入厩は11月と少し遅くなった。しかし小柄だった馬体は450kgまで増え逞しく成長した。


 そして年が明けて3歳の1月、遂にデビューの日を迎える。


 デビューの前日、仕事を終え帰宅の道中コンビニに立ち寄る。出資馬が走る時のルーティンだ。競馬新聞を買い、車に戻り新聞を開く。小倉競馬6R3歳未勝利戦。

 本来は中山競馬の新馬戦に出走予定だったが、登録馬が多く抽選漏れに。そうなると1週後にデビューをずらし再度新馬戦に向かうのがベターなのだが、あえてレース経験馬相手との戦いにはなるが、頭数の少ないレースに出走することに。

(未勝利戦でデビューさせるということは、それだけの能力があるということか?)

ゴールドブレスの予想印をみる。本命の◎印は付いてないものの、◯や▲の印が結構付いている。

 残りは帰宅してから見よう。タラタラしてて帰りが遅くなると妻に心配される。車で帰路につく。

「おかえりー!」

妻と娘の声。ほっこりする瞬間だ。

「明日、オレの馬走るの?」

新聞を持っている私を見て妻が言う。

「うん、明日はオレの馬勝てそうやで!」

家では出資馬の事を「オレの馬」と言っている。間違ってはないのかも知れないが、1頭所有してるのではなく500分の1口か2000分の1口だ。SNSで自分が出資してる馬を「愛馬」と言っている人がいて賛否両論が巻き起こっていたのを見た事がある。

「一口馬主のくせして愛馬とか呼んでるんじゃねーよ!」

「個人のオーナーが1頭所有してこそ愛馬だよ」

「一口馬主も立派な馬主。仮にも毎月餌代払ってるんだし愛馬って呼んでもいいだろ」

などなど。

(どっちでもええがな。自分が楽しかったら)

と思うが、自分がSNSに

「オレの馬が明日走ります」

なんてことはとてもじゃないがアップ出来ない。「愛馬」であれだけ議論になるんだ。「オレの馬」なんて言ったら大炎上間違いなしだ(そもそも自分にそんな影響力はないかもしれないが)。だから競馬をあまり知らない妻にだけちょっと大馬主になった気分で言っているのだ。内弁慶ってやつかな··

 そんな妻は、この割とお金の掛かる趣味を肯定してくれている。かといって競馬にそれほど興味がある訳ではない。なのに競馬場にもよく一緒についてきてくれる。なんとも不思議な人だ。

 夕飯を済ませたあと、改めて競馬新聞を開く。ゴールドブレスは恐らく3〜5番人気くらいになるだろうか。トラックマンのコメントを見てみる。

「▲ゴールドブレス
 初出走だが、調教の動きから能力は確か。いきなりやれていい」

次に調教師のコメント

「水準の時計が出て、長くいい脚を使う。スタートがすごく優秀。」

結構評価が高い。楽しみが増してくる。

 出資馬が走る時は競馬好きの友達や知り合いに連絡をする。

「明日の小倉6Rに出資馬ゴールドブレスが出走します」

決してオレの馬とは言わない。

高校の同級生で同じくYGGで一口馬主を始めた真平からLINEが来る

「けっこう人気してるやん!この馬小柄やったから出資見送ってんけど、大きくなってるな!さすがゴールドシップ産駒。やっぱ成長力あるな!1口いっとけば良かったな」

血統に詳しい真平の評価が高いのが嬉しい。

 そして俊にLINEを送る。

「明日はゴールドブレスが出走します!縁とロマンを感じたあの馬がいよいよデビューです!」

さあいよいよ明日だ!ワクワクする。でも明日は···仕事だ。


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