見出し画像

コトヴィア〜いつかあのウィナーズサークルで〜1

2023年2月

 4コーナー5番手から良い手応えで上がっていく。

「よし!勝つぞ!」

そうつぶやきながら自然とウィナーズサークルの方へ歩き出す。レースは最後の直線へ。

「いけ!いけ!!」

段々と速歩きになる。しかし逃げた馬を捕える事が出来ず3着。

「あー!惜しかった!今日も入れなかったか···」

朝から降る雨の中、ウィナーズサークルの方を向いてると悔しさが込み上げてくる。

「今日も記念撮影出来なかったなー」

妻がそう言いながら傘を差し出してくれる。


 レースで1着になった馬はウィナーズサークルで馬と関係者達とで記念撮影を行う。これを「口取り」と呼ばれている。この口取り、一口馬主が参加するのはなかなか難しい。まず出資馬の出走が決まるとクラブが口取りに参加する出資者を募集する。それに応募した人の中から抽選で5〜10名程度の人が口取りに参加する権利をもらえる。1頭500〜2000口の馬だと結構倍率は高い。もちろん出資者全員が応募する訳ではないと思うが。

 そして抽選で当たった幸運な出資者達は当日スーツを着て競馬場に行く。ちゃんとドレスコードがあるのだ。しかし、スーツで行ったから口取りに参加出来る訳ではない。出資馬がレースで1着にならなければならない。これが一番難しいかも···。

 これら全ての条件をクリアしてようやくウィナーズサークルに入って記念撮影「口取り」が出来るわけだ。


 この日私はスーツを着て阪神競馬場に向かった。そう、出資馬コトヴィアの口取りに当選したのだ。当選するのもなかなか難しいのですごく嬉しかったが結果は3着。一度は経験してみたい口取りだが今回は叶わず。普段はスーツなんて着ないから疲れが一気に出てくる。コトヴィアが勝てなかった瞬間からスーツを着て競馬場にやって来たただのおじさんになるのだ。

「勝てなかったけど複勝250円もついてる。私2,000円買ってるから、これ5,000円やんな?今から西宮ガーデンでランチしよ!」

妻は上機嫌だからまあいいか。対照的に娘は雨が降ってるのでお目当てのキッズガーデンにある大きな滑り台で遊べずご機嫌ななめ。せっかくだからもう少し他のレースも観たかったが、厳しそうだ。

「よし!じゃあ今日は西宮ガーデンでランチと買い物して帰ろう」

雨は降るしスーツ着てしんどいが有意義な休日に思えた。

(ありがとうコトヴィア。また応援に行くからな)

心の中でそうつぶやいてこの日は競馬場をあとにした。


続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?