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WD#57 文化祭録(決戦編)

 先週に文化祭の準備のことを書き、その本番が今週あった。いや、そりゃもう大変でした。詳しいことはのちのちしっかり書くので今はフワフワした感想を述べさせてほしい。というかそもそも、文化祭は火曜日と水曜日だったのだが、なんでそんなことするかね?ある先生も言ってたが、木金でいい。木金でやって、土日で落ち着いて、また月曜からいつもの日々を再開する、というのが1番楽な流れなんじゃないかと思っているのだが、何かそうではいかない理由があるのだろうか。教えてほしい。次の日からすぐに現実に戻るのは流石にしんどいよ。しかも7限。よく耐えた、自分。
 不満はこれくらいにして、前日準備から一日ごとにまとめていく。



前日準備

 前日準備といって忘れてはならないのは去年の私たちの前日準備である。教室を謎解きの部屋にしなきゃいけないのに、その前日、教室にあったのは平たいダンボールの山。それをたった一日で謎解きの部屋にしたときのあの雰囲気を忘れてはならない。全員が誰かに怒っていた。そのときの相関図を書いたら東京都の路線図くらいにはなると思う。私はそのとき別室で作業していたのでそんなに怒ってなかったが、いざその作業が終わり教室を手伝うことになるや否やだんだんイライラしてきた。あれはすごい。
 そんな状況を経験しておいて、またあの惨劇を繰り返すわけにはいかない。前回書いたように作業できる金曜日がまるまる潰れたので、前日準備の日は私はかなり焦っていた。しかし、今回は内装が単純だったため思いの外順調に準備は進んだ(内装や外装は)。この()書きが意味することは何となくわかってもらえると思う。そう、私の仕事は内装や外装ではない。前回に書いた通り、私は「シナリオライター」である。こうして文章を書くことが増えたのでそっちの方が向いているかも、と思いノコノコとこの職を選んでしまったが、蓋を開けてみればこの仕事がハードすぎることがわかった。
 そんなハードワークも、前日ともなればある程度完成はしている。ただ、そこまではほとんど私1人の作業だったので、ここから実際に裁判で役をやってくれる人とリハーサルをしなければならない。ここはこう、ここはこうしてね、みたいなことを、まだシナリオを知らないクラスメイトに裁判に参加してもらいながらデモンストレーションする必要がある。そして、30分くらいのデモプレイを行った結果、かなり手直しするところがあった。やっぱり人間1人の力なんて底知れたものなんだな、と思った。相談するのも大事。
 そしてもう一つ発覚したのは、私が裁判の席にアドバイザーとしている必要があるということ。シナリオの細部まで把握しているのは私1人なので、参加してくれた人が「ここはどういうこと?」などという疑念を抱いた時に対処できるのが私しかいないためである。あれ?聞いていた話と違うぞ。確かシナリオライターは当日は何もしなくていい役だったんじゃなかったっけ?まあ、そこまで嫌じゃなかったので別に良かったし、実際シナリオライターがいた方がいいんじゃないかと文化委員さんに提案したのは私なので何も言えない。自分で変えた道は、自分で歩くしかないのである。



一日目〜瞬間2連ミス〜

 いよいよ当日。着なれないピンクのクラスTシャツを着て現場(裁判所)に向かう。本番はなぜかわからないが12時くらいからだったので、そこまでの時間でも準備の余地は残されていた。ありがたい。もう一回デモプレイをしてみて、足りないと思った質問をすでにコピーされた紙に直接書き足したりして着実に本番を迎える準備が整っていった。これらの努力は、すべて「自分の書いたシナリオがしっかり伝わり、面白いと思ってほしい」というただ一つの思いによるものである。自分がシナリオを書いてなかったらこんなに頑張っているはずがない。ただ、せっかくあれだけ頑張って作ったんだから、その努力が少しでも報われてほしい。また、私のシナリオが使われる時間帯は2回しかない。つまり、チャンスは2回。ここで何かやらかしたりしたらここまでの努力が台無しになってしまうということを頭に留めておいてほしい(ここまで丁寧にフるとこっちまで恥ずかしくなってくる)。
 開会式まで残り10分くらいになったところで、「そろそろ行っとくか」ということになり体育館に向かった。この自由さがなんか良い。放送がかかって教室の前に並んでから行くのではなく、時間に間に合うように各が体育館に向かうというこの自由さは高校になって獲得したものである。
 いよいよ開会式。真面目な開会宣言の後に、それとは裏腹で寸劇風な今年の文化祭のイベント紹介みたいなのが始まった。クラスメイトの書記長もスポットライトを浴びて演技をしていた。ちなみに、そのスポットライトは稲川淳二が会談を披露する時みたいなやつ(完全に記憶で言っているのでググって「違うじゃないか」などという愚行はおやめ下さい)だった。そこではクラスの展示や部活の展示の紹介を部員が行うコーナーもあり、もちろん化学部もあった。その1ヶ月前くらいに化学部に「紹介文を書いて提出してください」という案内がきて、部長が当然のように私のところに持ってきて、書いてくれと言われ、10分で書いた。こういう場所での紹介文なんてどうせ誰も覚えてないんだから、別に薄っぺらくても良いだろと思い、何の変哲もない一般的な紹介文を書き上げて、実際にそれが読まれてた。周りも何のリアクションもなかったので作戦通りである。また、文化祭のしおりの化学部の宣伝文も私が書いた。化学部の文担当になっている。収入がほしい。
 開会式が終わると、去年はそこから展示だったのだが、コロナもようやく終わってきたので合唱が再開されることになり、開会式の次は一年生の合唱を見る時間だった。そのため、我々が展示に費やす時間は一日目は1時間くらいしかない。
 そして一年の合唱を聴いたのだが、感想としては、自由度が高い。そもそも聞く話によると選曲も楽譜さえあれば自由らしいし、振り付けを入れちゃってるクラスもあった。最初から選択肢が提示され、それをただ歌うという中学の形式とは違う。また、その自由性によりYOASOBIの曲を歌うクラスが2クラスあった。時代だな。今はこういうのが流行っている時代なんだな。わかるよ。わかるけどさ、被るなよ。YOASOBIの合唱があって良いのはマックス1クラスよ。それ以上は疲れるよ。そして単純にピアノがキツそうだった。YOASOBIの合唱のとき私はほとんどピアノの人を見てたのだが、楽譜長いし、音域広いし、和音すごいし、とにかくピアノがしんどそう。でもほとんどミスなく弾いていた(ように聞こえた)のですごいなあ、と昔ピアノをやっていた人は思った。
 合唱が終わり、いよいよ一日目の展示に移る。私のシナリオがトップバッターだったので配役されている人を呼んだりして準備を整え、ついに最初の裁判が開廷された。お客さんは見たところ一つ上の学年のGSの先輩とその友人らしき人たちで、これはなかなかハイレベルになりそうだなあ、とアドバイザーの席から様子を伺っていた。その後の質問タイムも特に問題なく進み、私の努力の結晶であるシナリオがついに使われているのを嬉しく見守っていたのだが、いよいよ最終弁論で検察、弁護両サイドから犯人を発表してもらう直前、私のすぐそばで弁護側をやってくれていた方が私に話しかけてきて、「これって検察側と弁護側で犯人が被ってたらどうするんですか?」と言われた。
 この裁判のルールは、検察は元から「この人を犯人にしてください」という人を犯人に仕立て上げ、弁護側はその人の無実を証明しながら真犯人を探すというもの。ここで一番欠けてはいけない要素は、「検察が誰を犯人にしているかを弁護側に伝える」という作業だ。弁護側の手元にある事件の概要の紙に検察が誰を犯人にしているかは書いていないため、これは私などが直接言わなければならない。
 言ってなかった。最初なのでその作業が絶対に必要であることに気づいてなかった。最終弁論まであと45秒のときだった。しかし、検察側が犯人にしようとしている人(私のシナリオだと、秋桜(さくら)さん)は明らかに冤罪を匂わせているので流石に被ってはないだろうと思い、「ちなみに誰を犯人にしようとしてます?」とこっそり尋ねたところ、「秋桜さん」と言われた。あと30秒。もうここから違う犯人を探せということなんて困難だし、そもそも弁護側はつまり秋桜さんを犯人に仕立て上げるために質問をしていたのでその努力がパーになる。さあどうする。本来なら、弁護側の最終弁論に関するチェックリストを私が作ったので、弁護側の最終弁論がチェックリストのうちいくつを満たしているかによって判決を裁判長に下してもらうのだが、もうそんな時間はない。私は裁判長にこっそり、「今から2人とも秋桜さんを犯人にするから、どっちがより良い証拠を出せるかでジャッジして下さい」と伝えた。
 その結果弁護側が勝った。イジメみたいな構図になってた。参加してくれた人にめちゃくちゃ謝った。もうあの時は謝ることしかできなかった。しかしそれよりも、自分のシナリオを自分のミスで台無しにしたことへの悔しさがダントツで大きい。せっかくいろんなトリックを織り交ぜていたのに、それも結局何の威力も発揮しないまま一回目が終わってしまったのだ。
 そんな悔しさに駆られていたところ、どうやら時間的にもう一回できそう、ということになり急遽もう1廷行うことになった。ただ、本当になぜかわからないが裁判長がいなくなったので、そこも私が代理で務めることになった。働きすぎ。
 2回目ともなると、流石に反省を生かしてかなり順調に進んだ。そして1回目の質問が両者終わり、もう一度考えて2回目の質問に移ろうとしたときである。放送がかかった。「これにて一日目の展示を終わります。各自教室に戻ってください。」と言われた。そう、時間に余裕があるというのは完全にこちらの把握上のミスで、本当は全くそんな時間はなかった。しかし今、こうして裁判をしてしまっている。しかもまだド途中。さあどうする、自分。今に関しては裁判長も私なので、どうするかはオール自分にかかっている。7秒くらい考えた後、「本当申し訳ないんですけど、現時点で仮の最終弁論できますか?」と無理なお願いをして、現時点でのやわい推理を言ってもらい、その結果弁護側が勝った。参加してくれた人にめちゃくちゃ謝った。もうその時は謝ることしかできなかった。しかしそれよりも、自分の時間の把握のミスで自分のシナリオを台無しにしたことへの悔しさがダントツで大きい。せっかくいろんなトリックを織り交ぜたのに、それらも結局何の威力も発揮しなかった。
 というような感じで、この1時間に思いっきりデカいミスを2連続でやらかすという緊急事態が起きてしまい、その日はそれ以降ずっとブルーな気持ちだった。もうあと一回しかない。そんなブルーな気持ちを抱えたまま化学部に行ったら部長がお茶を買ってくれた。冷たかったけど、温かい心を確かに感じ、明日頑張れば良いか、と少し前向きになれた。



二日目〜強い気持ち〜

 気持ちを入れ替え、いよいよ二日目。この日も最初は各体育館へ向かい二日目の開会式を行いそのまま解散、順次展示に移った。ラストチャンスはすぐそばにある。
 前回の失敗を全て踏まえ、紙に検察が誰を犯人に使用しているかを書き、時間内では一回のみ裁判を行うということを原則にしていざラストチャンス。
 結果から言うと、なかなか良かった。これといった失敗もなかったし、弁護側検察側お互いにしっかりプレイしてくれと思う。ただ、自分の控えていたトリックまでは辿り着いてくれなかったので、結局この文化祭では私の試行錯誤の結果は一度も試されることがなかった(デモプレイでは何回かあったけど)ことになる。うーん、悔しい。なんかこのままこのシナリオを終わらせるのも嫌なのでインスタとかで公開しようかなとも考えたが、これは質問ありきのゲームなのでそれでは意味がない。まあ、化学部で暇な時とかにやってもらおうかな。いつか。

 その後はというと、化学室内での化学部展示の役割が与えられていたのでそこで1時間ほど勤務しながら中庭のコーラスを見たり、仕事が終わると教室に戻ってきて裁判の様子を見たりしていた。そこで気づいたのだが、この裁判、やっぱり回転率が終わってる。私のシナリオはまだ30分もあれば全然終われる内容なのだが、ある人が書いたものはマジで1時間以上かかっていた。そのプレイヤーになってる人がただ単にかわいそうだった。ごめんなさい、不本意に1時間拘束してしまって。そして傍聴席も用意されていたが傍聴は全く面白くない。プレイヤーしか楽しくない。なのでなんかずっとうちの教室だけもの寂しい感じになってしまっていた。横ではたくさんゲームが行われキャッキャしているというのに、その温度の差はすごかったな。まあ、キャッキャしてる裁判所の方がおかしいし、そこら辺の再現度も高かったという解釈でいいだろう。
 しばらくしてGSの先輩の劇を見にいった。来年は自分たちもこういうことをしなきゃいけないんだなあという責任感に駆られながら見ていたが、感想としては「え?終わり?」という感じだった。話の構成もいいし、別に脚本が悪いというわけではないけど、もうひと展開あっても良かった気がするなあ。なんかM-1のコメントみたいになってしまいました。そう言えば、来年は誰が脚本を書くことになるんだろうか。そうなればもういっそのことAIに考えてもらうしかないか。いや、今の世の中はAIを擦りすぎている。どこもかしこもチャットGPTがどうとか、シンギュラリティがどうとか、もう言い過ぎ。一回落ち着け。もっと可愛い動物の話とかしよう。
 それが終わると昼休憩だが、そのあとすぐに私は化学部パフォーマンスがあるのでチャチャっと昼食をとって化学室にいった。忙しい。しかし、私の仕事はアバウトに言うと“粉を持ってきて、セッティングして、撤去する係”だったので見せ場らしきものはなかった。一応リハーサルもしたけど、何にせよ私は実験自体はしないのでほとんど意味がない。ただ着ると暑い白衣をわざわざ着て10分くらい外に立っているという役である。これに関しては特に問題もなく終わったので割愛する。
 そのすぐあと、クラスメイトが有志公演をするということで急いで白衣を脱いで有志公演が目の前で見れる席へ向かったら、すでにクラスメイトが何人も集まってた。その中に紛れるように座ると、目的の人たちは私たち化学部の次ではなく、その間に「1人でプリキュアのダンスを踊る」という演目があったため、私たちもそれを間近で見ることになったのだが、これがめちゃくちゃ面白かった。1人で出てきて、プリキュアの曲でめちゃくちゃ踊って、時間がめちゃくちゃ余って、「なんかやってほしいことあります?」と観客に尋ねてきて、前ら辺にいた人が「もう一回踊ってください」と言ったため全力プリキュアをもう一周踊る羽目になってたのがとても面白かった。今回のMVPだと個人的に思っている。
 そんな全力プリキュア2周も終わり、いよいよクラスメイトの有志公演を見たのだが、良かったね〜。なんかかっこいいなあ、とずっと思ってた。こういう表舞台で自らの意思で何かできるっていうのは尊敬に値する。ちなみに何をやってたかというと、カホンっていう椅子を叩くみたいな楽器の演奏みたいな感じ。ボーカルとカホンの2人構成だった。良かったよ。
 それも終わるといよいよまもなく閉会式となり、やることも特になくなったので何となく物理室の展示を見て後片付けを手伝ったりした。何気にあれが一番楽しかったかも。で、なぜか周りがみんな六甲おろしを歌っていたところ放送がかかり、閉会式なので集合してくださいとのことだった。危うく六甲おろしのせいで放送が聞こえなくなり遅れるところだった。もし遅れたら「六甲おろしを歌っていたので遅れました」とでも言えというのか。
 いざ閉会式。ここで一番印象的、というかこの文化祭で一番印象的だったのは、生徒会長の方が前で終わりの挨拶をしていた時、感極まって言葉が出なくなっていたことである。私はそれを見て、やっぱり人の気持ちってすごいな、と心の底から感じた。文化祭をより良いものにしたい、という気持ちが積み重なって今回の文化祭ができているんだ、と改めて感じさせられた。そういえば、自分が今回の文化祭でかなり努力したのも、自分のシナリオが報われるためで、これも文化祭をより良いものにしたいという気持ちに直結したものなんじゃないか。
 今回の文化祭はあんまり面白くなかった、という意見もあったけど、私はそうは思わない。なんせ、こんなにたくさんの人の「気持ち」でできたものなんだから。この日のためにいっぱい努力してきた人たちがそれぞれ「楽しかった」と思えた文化祭なら、どんな結果であれ楽しい文化祭だった、と言っていいと思う。というより、言いたい。少しでも自分を褒めてあげたいからね。


 閉会式が終わり、今回の裁判のために用意したシナリオが書かれた紙をクリアファイルに入れてリュックにしまった。当分はもうこのシナリオとは向き合わなくていいと思う。またいつか、教科書と教科書の間からこのクリアファイルを見つけて、「ああ、こんなことしたな。楽しかったな。」と思える日まで、しばらくはお別れ。





【今週の素人星座占い】

一位 牡羊座

学校に行く途中に雨が降り、仕方なく折り畳み傘を使うがその後処理に困るかも。ビニール袋を持ってると吉。 

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