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WD#92 精神修行(ボーはおそれている レビュー)

本来なら今回は普通の日記回で、最近の話をいろいろやろうかなーと思っていたのだが、土曜日に「ボーはおそれている」という映画を興味があったので観に行って衝撃を受けたので今回はそのレビューをしてみる。


今作は、「ミッドサマー」というかなりヤバいホラー映画を手がけたアリ・アスター監督の最新作。私はホラーがそこまで得意ではないが、予告映像を見てなんか今回は見れそう、そして面白そうだなと思ったので、特に予約とかせず、友人1人をギリギリで誘って観に行った。

とりあえず、この映画がどんな内容なのか、あらすじをそのまま引用する。

日常のささいなことでも不安になる怖がりの男ボーはある日、さっきまで電話で話してた母が突然、怪死したことを知る。母のもとへ駆けつけようとアパートの玄関を出ると、そこはもう“いつもの日常”ではなかった。これは現実か? それとも妄想、悪夢なのか? 次々に奇妙で予想外の出来事が起こる里帰りの道のりは、いつしかボーと世界を徹底的にのみこむ壮大な物語へと変貌していく。 

公式サイトより

とのこと。つまり要するにこの映画は全体を通して「母親に会いに行く」ことを目的としている。ただ、それだけなら母を訪ねてウン千里とかでもいいわけで、この映画にはその軸の周りに、これでもかというほどの精神的苦痛が巻きつけられた3時間の映画なのである。

そう、3時間よ⁉︎すごいよね。まあその話は後でします。今回のレビューは、「映画から読み取ったメッセージ」、「映画自体の感想」、「最後に伝えたいこと」の3部構成にしている。なんの興味もない人も、ネタバレを避けたい人も読める内容にするよう心がけるので1回読んでみて欲しい。そして、身銭を切ってこの映画を観るのかというジャッジを各々下していただければ幸いである。



メッセージ

この映画は、正直予告からもわかるけどホラー要素はそこまで強くはない。この映画はオバケとかが出てきてドキドキという感じではなく、「不安」なのだ。

その「不安」は、主人公のボーの性格が発端となっている。世の中にビクビクしながら、ろくに自分で決断もできず、いまだに母親に頼る始末。この作品は、そんなボーの性格をそのまま世界にしたようなものと言ってもいい。

物語が進むにつれ、狂気はエスカレートしていく。しかしこの狂気の大部分は、「家族」という呪縛によるものであるように見えた。そもそもボーが今回いっぱい動いているのは「母親に会う」ためで、これは家族が関わっている。言ってみれば、死んでもなお働き続ける母親との間の引力に、そのまま従っているかのようだ。

ボーが途中で出会う家族も、一見優しい人たちであったが、ボーの訪問により少しずつ家族の中に乱れが生じ、最終的にはまあ、結構印象的なシーンに繋がることなる(観た人に伝わるように言うなら、アレよね。アレをさ、ゴクゴク…ってやつ。あれヤバかったよね)。

さっき書いたが、この終始つきまとう「不安」を、ボーは1人で対処できない。他人に決定を委ね続け、結局自分の意思で動いていない。これは当てはまる人もいるんじゃないかなあ。

1人で決断するってやっぱりめちゃくちゃ怖いことで、なかなかできるものではない。ただ、それができるということが自立ということであり、家族の呪縛を打ち切るものでもある。

ボーはつまり、家族に呪縛され続け、母親の死に際した今、ほぼ無意識的に母親のいる場、すなわち「安全地帯」へと逃避しようとしたのではないか。これは「里帰り」なんてお気楽なものではなく、「逃避」という、かなり精神的、肉体的に逼迫した状況なのではないだろうか。

本編中には水に関わるシーンが多く出てくる。物語序盤に、絶対水と一緒に飲まなきゃいけない薬を水を飲まずに飲んでしまい、大慌てで水を求めるシーンがあったり、ところどころ一人称視点で溺れているような映像が流れる時もある。

これは極論かもしれないが、我々の元いた場所は遡れば胎盤、つまり羊水である。物語に水のシーンが多いのは、ボーの母親の元に帰りたい(この「帰る」は家とかではなく、もっと根源的な場所へ)という気持ちの表現なのではないか、という解釈もできないことはない。それほど母親とは絶対的な信頼の場所なのである。

この解釈からすると、ラストは…

まあ、そこまでは言えないな。

あと、このボーがいる世界が現実なのか仮想なのかという点がやがて疑問になると思うが、そのヒントは、割と意外なところにあったりして…





映画自体の感想

というのが、私が3時間と、その後のしばらくの時間で濾過したこの映画のメッセージである。なぜこのように言うかお分かりいただけるだろうか。

もう無茶苦茶だから。

映画って普通、「いや〜、一瞬だったな〜!」という感じだと思う。ただ今作は違う。遅くも早くもない、しっかりとした3時間。この時間いっぱいで、ありったけの精神的不安を口の中に流し込まれるような体験だった。

しかもそこに論理はほとんどない。ただただ「今こういう展開になったらやだな〜」「え、マジで?これこのままだとアレ来るよな…?」
「キター!」という展開の連続。悪い予想を裏切って来ず、しっかり最悪のルートに曲がり続ける悪夢のドライブ。それが3時間。「今こうなったらやだな」を全て拾い尽くし、結局部屋をぐちゃぐちゃにしたまま終わる。伏線回収とかがあれば一度部屋をぐちゃぐちゃにしても綺麗にできる場合があるが、ただただ部屋を乱して帰ってしまった。そんな感じ。

3時間ある映画と言えばRRRがあるが、あれは場面がどんどん盛り上がってくる最高の3時間である。皆さんには、その盛り上がりのグラフを、時間の軸でひっくり返したグラフをイメージしていただきたい。時間が経つたび気分が落ちていき、そこから復活することのないまま新しいおもりがのしかかる。そしてそのまま沈み続けていく。そんな映画だなと感じた。逆のRRR。そんなのあっちゃダメだろ。

グロいのが苦手(という理由でさまざまな漫画を回避している)な自分にとって、何箇所かは薄目で見るシーンもあったが、そこまで多いわけではない。そんなことよりも、精神的ダメージの方がよっぽど多い。

Twitterでの意見で、「世にも奇妙な物語の嫌な回を全部混ぜたみたいだった」というのがあって、まさにそうだと思った。心の中で「もういいもういい!」と思いつつ、その通りの展開になって「まあですよねー」と思う、というのの繰り返しで、個人的にはそれがなんか楽しかった。多分1回目の鑑賞でメッセージを汲み取るのは違っていて、単純に展開とか、映像を楽しむべきだったな…と少し後悔はしている。

一緒に行った友人は「マジで何?」と言っていた。本当にそう。最初から最後まで「何何何何?」の連続。1回目は、ただそれを楽しめばいいんじゃないかな、と思う。

間違いなく、今まで映画館で観た映画で1番刺激的だったし、もう観たくはない。この体験を何周もできるほど、まだ強い人間ではなかったということだ。






最後に伝えたいこと

私は、この映画をオススメしません。

なぜなら、私がおすすめして観に行った人にあとあと訴訟されたら負ける自信があるから。

最近刺激が足りないなー、一辺倒な生活だなー、と思ってる人にはいいかもしれないが、本当に自己責任でお願いします。観た後に私に文句を言わないでほしい。これがお願いです。

あと1人で見た方がいい。色んな意味で。

でも、一緒に観て、観終わった後に「これなんだったんだろうね」と言って笑い飛ばせるような人がいれば、その人は大事にした方がいい。そう思った。以上。







【今週の来てないお悩み相談】

マンションの6階に住んでるんですけど、トランポリンを買ってもいいと思いますか?

ダメです。階下に響くので。

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